「遠藤航ロス」の衝撃皆無? 残留争い→首位争いのシュツットガルトが激変「一体何が…」 伊藤洋輝も確かな手応え【現地発】

7試合を終えて2位と好調【写真:Getty Images】
7試合を終えて2位と好調【写真:Getty Images】

昨季16位で辛うじて1部残留のシュツットガルト、今季7試合を終えて2位と好調

 昨季16位でギリギリのドイツ1部残留を果たしたシュツットガルトは、「今季も厳しいシーズンになる」と多くのドイツ人識者に指摘されていた。日本代表キャプテンで、シュツットガルトでもキャプテンとしてチームを引っ張り続けたMF遠藤航がシーズン開幕前にリバプールへ電撃移籍。若い選手が多いチームだけに、「遠藤ロス」の衝撃がもたらす影響が小さいはずはないという指摘には頷けるものがあった。

 開幕節のボーフム戦で5-0と快勝し、第2節のライプツィヒ戦こそ1-5で大敗したものの、そこから怒涛の5連勝。1位レバークーゼン、3位バイエルン・ミュンヘン、4位ボルシア・ドルトムントといった強豪クラブとともに、7試合を終えて2位と首位グループにつけている。

 3-1の逆転勝利を飾った第7節ボルフスブルク戦後の記者会見では、地元記者がセバスティアン・ヘーネス監督に、「一体、シュツットガルトはどうしたんでしょうか? ファンも驚いていると思います。昨季まで残留争いをしていたチームが今、リーグ5連勝しているというのも凄いし、センターフォワードのセール・ギラシは7試合で13得点を挙げて、得点王争いでダントツです。シュツットガルトに何が起こったのでしょう?」と、あまりの激変ぶりに付いていけない思いをぶつけていた。

 ヘーネス監督は微笑みを浮かべながら、そんな記者の質問に答える。

「今この瞬間をじっくりと味わっている。チームが勝ち点18を積み重ねたという事実が今一番大事なことだ。チームはとてもいい試合をしている。ハードに取り組んできて、いい仕事をしていたら、それは報いられるべきだろう。今それがいい形で自分たちに来ている。チームとして上手く機能しているのを感じているよ」

 ファビアン・ボールゲムートSD(スポーツディレクター)もミックスゾーンで喜びを噛みしめながら、記者の質問に対応した。

「チームは正しい鍵を見つけた。セバスティアン・ヘーネスは正しい言葉掛けで選手を導き、選手補強が上手くいってチームはさらなるクオリティーを手にすることができた」

 チームの勢いと、それを支える確かな取り組みはボルフスブルク戦でも感じられた。前半は相手の前線からのプレスに苦しみ、先制点を許しながら、後半少しずつ流れを取り戻すと、選手交代とそれに伴うシステム&戦術変更で試合の主導権を一気に取り戻す。

「前半はいい展開ではなく、ボール保持が上手くいかなかった。ただ後半は上手く試合に入れたし、いい形でボールを奪えるようになった。PKは重要なシーンだった。交代で戦術を微調整し、プレスで押し込み、終盤の連続ゴール。前からの守備が上手くはまってくれた。ギラシはまた素晴らしいゴールをしてくれた。途中までは互角の展開ながら、そうした試合を自分たちサイドに持ち込むことができたというのが素晴らしい」(ヘーネス監督)

伊藤洋輝が語るチーム好調の要因「継続してやっていきたいと思います」

 取り組んでいることが上手く機能して、結果も付いてきているから選手の手応えも相当なものがあるだろう。日本代表DF伊藤洋輝はチーム好調の要因について次のように話してくれた。

「補強した選手がはまっているっていうのもあるし、全員が自信を持ってプレーできている。昨シーズンまでは若いチームで苦しみましたけど、選手個々の良さを引き出してくれる監督だし、今年は自分たちがやっていることがすごい正しいと思えていて、練習からいい雰囲気でやれている。継続してやっていきたいと思います」

 伊藤の言葉どおり、このパフォーマンスを一過性のもので終わらせずに、コンスタントに続けていけるかどうか。ヘーネス監督は浮かれることなく、真摯に取り組み続けることの大切さを強調していた。

「まだ7試合目。この流れを維持して、勝ち点を重ねていくことが自分たちが取り組むこと。大事なのはプロセスだ。選手が見せてくれている発展と成長にフォーカスすること。それ以外のことを気にする必要はない」

 ファンは、もちろんチームが勝てば嬉しい。いいサッカーがピッチで展開されることは喜びだ。ただ喜びがあまりにも続けてやってくることに、付いていけない様子も見せている。同点ゴールでは喜びを爆発させ、逆転ゴールでは驚きの表情を見せ、3点目のダメ押しゴールでは驚きを通り越して、「本当にこんなことがあっていいのか?」とちょっと不安そうにざわついた雰囲気さえあった。そして試合後は、夢見心地になれる今この瞬間を噛みしめていた。

 ちょうどシュツットガルトはドイツ2番目に大きなビール祭り「カンシュタッター・フォルクスフェスト」の真っ最中。試合後多くのファンがそのまま会場へと直行し、勝利の美酒に酔いしれたことだろう。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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