クロップが講じた三笘封じの“慎重策” リバプール戦不発に終わった背景にある右SBのプレー変化【現地発】

ブライトンでプレーする三笘薫【写真:Getty Images】
ブライトンでプレーする三笘薫【写真:Getty Images】

決定的な仕事を封じたリバプールの警戒心

 10月8日、プレミアリーグ第8節リバプール戦(2-2)での90分間を終えた三笘薫は、「もっと結果を出さないと」と自己反省を口にした。たしかに、ブライトンの22番が得点に絡む姿は見られなかった。チームの先制点は、逆サイドの右ウイングで先発したシモン・アディングラが、自らボールを奪って決めたもの。その5分ほど前にカウンターで走るまでの立ち上がり15分間、三笘はほとんどボールに触ってさえいない。最初のタッチは、後方からのフィードを受けて戻したキックオフ9分後。前半の内に逆転された試合を振り出しに戻した終盤の2点目は、左サイドバック(SB)を務めたソリー・マーチのフリーキックにセンターバック(CB)のルイス・ダンクが合わせたものだ。

 それでも、10点満点で7点は与えられる出来ではあった。傍目には試合がよりオープンになったと映り、当人の感覚では「(3日前のEL戦による疲れが残る)身体が動き始めた」という後半にはドリブルで仕掛ける場面も増えた。

 後半25分にはPKを奪ったかとも思われた。左アウトサイドから切り込みながらFWのジョアン・ペドロに預けたボールが、偶然も手伝って自らの足元へ。右足で放ったシュートは、相手CBフィルジル・ファン・ダイクの手に当たっていた。しかし、近距離でブロックしたこのシーンでPKの判定は下らず。シュート自体が打ち損ねだったこともあり、三笘自身も「攻撃(側)としては取ってほしい気持ちはありますけど、普通に流し込めばいい話だったので」と、やはり反省を付け加えていた。

 ただし、決定的な仕事が難しかった背景にはリバプールの警戒心もある。当然と言えば当然の対処かもしれない。昨季、ブライトンのホームで喫した2敗は三笘にやられたようなものだったのだ。今年1月14日の前回リーグ対決(3-0)、対峙したトレント・アレクサンダー=アーノルドは90分間の悪夢を見た。守備面でのケアが足らず、右CBのジョエル・マティプがノーガードのまま1対1に持ち込まれるような危機を招いた。その2週間後のFAカップ戦(2-1)でも、三笘は1ゴール以上のプレーヤー・オブ・ザ・マッチ級パフォーマンス。アレクサンダー=アーノルドは、1時間足らずでピッチを去る羽目になった。

ユルゲン・クロップが講じた「対三笘」の慎重策

 今回も、リバプールの右SBはアレクサンダー=アーノルド。すると、三笘が「あまり上がって来なかったですね。なかなか仕掛けられる状態ではなかった」と振り返ったように、ビルドアップで「偽SB」風に中盤に上がりはしても、相手のカウンターに備えて攻め上がりは抑制されていた。そのため、攻撃力が最大の売りである右SBとしては及第点が精一杯の80分間。しかしながら、守備面での効果はあった。

 例えば、ブライトンが追加点を狙っていた前半34分には、三笘が走り込もうとしたクロスを読んでクリアしている。後半5分に訪れたボックス内での競り合いには力で勝利。その10分後、中盤で1人を抜いた三笘だったが、2人目のアレクサンダー=アーノルドは抜けなかった。数分後にも再び仕掛けたが、逆に奪い返されている。裏に抜けかかった後半22分、パスカル・グロスからのロングパスは、すんでのところでアクロバティックに伸ばした相手右SBの足に遮られた。

 試合前の会見で、前回対決の再現が「あってはならない」と言っていた敵軍の将は、その言葉に忠実な戦い方を徹底していたわけだ。とはいえ、そのリバプール指揮官は、リスク覚悟の攻撃的サッカーを信条とするユルゲン・クロップ。アウェーでの上位対決でもあったものの、昨季の雪辱を期した一戦で「対三笘」には慎重策を選んだのだから特筆に値する。

 警戒された当人はというと、「ドリブルしている選手にはこれぐらい(ケアして)くると思います。そこで剥がせないと。取られてカウンターのシーンも多かった」と、反省モードを継続していた。だが実際には、「勝てたとは思いますけど、リバプールも強いですし、後半に追い付いた点はポジティブだと思う」と評した1ポイント獲得において、自らも手にした小さな勲章とも言うべきは、アレクサンダー=アーノルドによる注視だった。

 その相手がベンチに下がった6分後、三笘は代わったジョー・ゴメスをファーストタッチでかわして相手ペナルティエリア付近へ。シュートを狙える位置の手前で倒されてフリーキックを奪うにとどまったが、ホームの観衆は「He’s just too good for you!(お前らじゃ手に負えない)」と歌い、リバプール陣営をやり込めながら日本人ドリブラーを讃えていた。「期待はされていると思いますし、それに応えないといけない立場」を認識している三笘。今回の軽い借りを返す機会は、今季終盤戦の来年3月末に敵地アンフィールドで訪れる。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)



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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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