欧州日本人プレーヤー「序盤戦査定」/ベルギーリーグ編 ヘント渡辺剛が“A代表級”の活躍…シント伊藤涼太郎も上出来【コラム】

ベルギーで活躍する日本人選手を評価【写真:(C) STVV & Getty Images】
ベルギーで活躍する日本人選手を評価【写真:(C) STVV & Getty Images】

「欧州日本人・序盤戦通信簿」としてベルギーリーグで活躍する面々を独自評価

 欧州各国リーグで活躍する日本人プレーヤーたちの序盤戦パフォーマンスを査定すべく、「FOOTBALL ZONE」では特集企画として「欧州日本人・序盤戦通信簿」を展開。それぞれ「飛躍の条件」をベースにベルギーリーグで活躍する面々を独自評価していく。(文=河治良幸)

   ◇   ◇   ◇

【評価指標】
S=抜群の出来
A=上出来
B=まずまずの出来
C=可もなく不可もなく
D=期待外れ

■渡辺 剛(KAAヘント)
評価:S
飛躍の条件:ビッグマッチでの活躍

 FC東京から移籍したベルギー1部のコルトレイクでセンターバックのポジションを掴み、同国での評価を高めて、ベルギー屈指の名門であるヘントに加入を果たした。そこから瞬く間にハイン・バンハーゼブルック監督の信頼を掴んで、開幕戦から全試合にフル出場している。9月27日のアントワープ戦では前回王者相手に、敵地でスコアレスドローの立役者に。第3節のウェステルロー戦で今季初ゴール、第4節のシント=トロイデン戦でアシストを記録するなど、攻撃面でも存在感を示している。

 統率力はFC東京時代から定評はあったが、対人の局面で90分に何回かあるミスが失点に直結してしまうこともあった。欧州に渡ってからの大きな改善点はそこだろう。ベルギーはJリーグよりも1対1の局面が多く、厳しいデュエルを強いられるなかで、安定したパフォーマンスを見せており、パフォーマンス的にはA代表に選ばれてもおかしくない。ただ、板倉滉と冨安健洋という2枚看板がいるなかで、まずは3、4番手が狙いどころになるかもしれない。

■川辺 駿(スタンダール・リエージュ)
評価:A
飛躍の条件:名門を欧州の舞台に導く

 スイスの名門グラスホッパーでMFながらゴールを量産して、所属元だったプレミアリーグのウォルバーハンプトンに舞い戻るかと思われたが、夏の時点では労働ビザに必要なGBEポイントを下回っており、確実に出場チャンスが見込めるベルギーの強豪に環境を移した。「ウルブスを目標にプレーしてきたので、戻れたら自分としてはすごく嬉しい」と語っていた川辺だけに、複雑な気持ちはあるかもしれないが、前向きに切り替えてリエージュで奮闘する姿が目を引く。

 リエージュはリーグ優勝10回を誇る名門中の名門だが、昨シーズンは屈辱的な12位でプレーオフすら出られなかった。川辺は立て直しのキーマンであり、カール・フーフケンス監督にも3-5-2の中盤から精力的なアップダウンとバイタルエリアでの決定的なプレーを期待されている。ここまで2得点1アシストと、まずまずの結果だが、周りと噛み合うほどダイナミックに攻撃参加できるタイプだけに、ここから先が楽しみではある。すでに28歳だが、ピークはまだ先にあるように思える。個人の数字はもちろんだが、チームを本来あるべき位置に戻し、欧州カップ戦に出られる環境からもうワンステップアップを狙いたいところだ。

■松尾佑介(KVCウェステルロー)
評価:B
飛躍の条件:目に見える結果を付ける

 今年1月に浦和レッズから期限付き移籍。ACL(AFCチャンピオンズリーグ)ファイナルという大舞台が待っていたなかで、かなり悩んだというが、決断の成果が徐々に表れてきているように見える。サイドアタッカーのイメージは強いが、ウェステルローでは2トップの一角や、1トップ2シャドーの右側で起用されるなど、ウイングといよりはワイドアタッカーという呼び方がふさわしいかもしれない。高速ドリブルは縦に切り裂くだけでなく、狭いエリアでも打開を狙っていけるので、松尾には合った環境かもしれない。

 第4節のアンデルレヒト戦では途中出場で、インから左アウトに流れる動きで、マイナスクロスでのアシストに結び付けた。守備で前からボールを奪いに行く迫力やボールを持っての怖さはあるが、なかなかゴールやアシストという結果がついて来ていないのも事実だ。強豪ゲンクとのアウェーゲームでもフル出場するなど、ヨナス・デ・ローク監督の信頼は確かだが、ベルギーでアタッカーの選手が評価を高めるには目に見える結果が不可欠だ。現在ウェステルローは最下位。松尾のブレイクがチームの浮上にもつながることは間違い無いだろう。

安部柊斗、伊藤涼太郎、鈴木彩艶…初の海外移籍組の出来は?

■安部柊斗(RWDモレンベーク)
評価:A
飛躍の条件:局面のクオリティアップ

 FC東京から夏の移籍で昇格組のモレンベークに加入。クラブにとっても新たな挑戦となるなかで、安部は第2節のルーヴェン戦からベンチに入り、いきなり終盤に投入されて2-1のまま試合をクローズする仕事を全うした。そこから4試合続けて途中投入だったが、第6節のセルクル・ブルージュ戦で2ボランチの一角としてスタメンに。2-1の勝利を中盤から支えると、4試合続スタメンで、その間に1勝2分1敗とまずまずの結果で、第9節終了時点で9位と健闘している。ポジションを考えると直接ゴールやアシストに絡めていないことは悲観的に見られないが、ここから早期のステップアップを図るのであれば、そうした数字にも目を向けていく必要はある。またオフの動きはすでに素晴らしいが、オンザボールの局面打開はJリーグ以上に求められてくる。

■橋岡大樹(シント=トロイデン)
評価:B
飛躍の条件:周りを生かすビジョン

 クラブとしては悪くない滑り出しをしている。現在スタメンで試合に絡めているのは浦和レッズから移籍してきたパリ五輪世代の守護神である鈴木彩艶と4年目の橋岡大樹。そしてアルビレックス新潟でブレイクを果たし、鳴物入りでやってきた伊藤涼太郎だ。この3人について簡潔にまとめたい。

 橋岡に関しては夏の移籍も噂されていたなかで残留した。日本企業のDMM.comが運営するクラブの方針として、ステップアップにつながる良いオファーが来たら送り出す形となる。橋岡は右ウイングバックのスタメンに定着して、ベルギーで安定したパフォーマンスを見せるだけではなく、国外のスカウトも目を見張るような圧倒的な存在になっていく必要がある。代表活動の時も「必ずやって見せます」と語っており、クラブに移籍金を残して飛び立てるようなパフォーマンスを続けていくことが求められる。1対1の守備局面で勝利するのは当たり前で、アタッカー陣に多くの決定的なクロスを送り届けたい。

■伊藤涼太郎(シント=トロイデン)
評価:A
飛躍の条件:さらに違いを生み出す

 伊藤は欧州初挑戦の選手としては順調で、評価もAをつけたが、新潟のサポーターをはじめとした、Jリーグのファンの期待も高いと思われるだけに、1得点1アシストという結果も含めて、欲を言えばもっと特別な輝きを見せてもらいたい。そのためにはベルギーのタフな環境に慣れていくこともそうだが、フィジカル面を上げるだけでなく、フィジカルでは勝負できない相手をいかに技巧とアイデアで上回って行くかというのは一番の醍醐味になるだろう。言い換えると、それを忘れてしまったらどんどん並の選手になってしまうので、ウィークポイントは埋めながら、ストロングを磨くという一見して矛盾する平行作業を成り立たせることが、飛躍の鍵になるのではないか。

■鈴木彩艶(シント=トロイデン)
評価:B
飛躍の条件:クリーンシートを増やす

 鈴木は他クラブからオファーがあったとの情報もあるなかで、ある意味、シュミット・ダニエルからバトンを渡される形でシント=トロイデンにやってきた。しかし、シュミットの移籍が土壇場で不成立となり、クラブとしても難しい状況で、予定どおり、ここまで5試合でゴールマウスを守り、ベルギー人のヨー・コペンスがセカンドGKのような立場になっている。デビュー戦でセルクル・ブルージュを相手に0-2の敗戦を喫したが、その後は森岡亮太を擁するシャルルロワと1-1、第7節にはメヘレンを相手に初のクリーンシートを達成して、2-0の勝利を支えた。

 ゲンク戦では敵地で3点のリードから3失点して、勿体ない引き分けとなった。2つのゴールはノーチャンスと言わないまでも、GKとしてはなかなか対応が難しい状況だった。しかし、同点ゴールはワイドからの高めのシュートに対して、リーチが届いていながらキャッチなのか弾くのか、中途半端な対応をした結果だ。守護神である以上はこうした失点にも向き合う必要はあるが、ここまでもスケール感は間違いなく、試合に出ながら積み上げることで、パリ五輪だけでなくA代表も見えて来そうだ。

<そのほかのシント=トロイデン勢査定>

■山本理仁(シント=トロイデン)
評価:C
飛躍の条件:攻守の強度を高める

■藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)
評価:C
飛躍の条件:攻守の強度を高める

■小川諒也(シント=トロイデン)
評価:D
飛躍の条件:とにかく試合に出る

■シュミット・ダニエル(シント=トロイデン)
評価:D
飛躍の条件:試合に出らえる環境

■岡崎慎司(シント=トロイデン)
評価:C
飛躍の条件:短いチャンスをものにする

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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