“蛮行”話題の北朝鮮と対戦、日本のW杯予選どうなる? 戦い方を変化させる代表選手への「指示」と現地の「指導法」【コラム】

北朝鮮戦で勝利したU-22日本代表【写真:Getty Images】
北朝鮮戦で勝利したU-22日本代表【写真:Getty Images】

アジア大会ではラフプレーを連発、審判への行為も問題となっている

 中国・杭州で開かれているアジア大会の男子サッカー準々決勝、10月1日に開催されたU-22日本代表対U-24朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)で、日本は後半6分に内野航太郎のゴールで先制するものの後半29分、ペナルティーエリアで下がったところにミドルシュートを決められ同点に。だが後半35分、GKと1対1になった西川潤が倒されてPKを獲得。これを松村優太が決めて決勝点とし、準決勝の香港戦へと駒を進めた。

 もっとも、この試合で話題となったのは日本の躍進ではなく、北朝鮮のプレーぶりだった。前半立ち上がり6分から判定に抗議するなど過熱気味。結局6枚のイエローカードを受け、2枚だった日本との違いが際立った。

 後半28分には日本チームのスタッフが渡そうとしていた水を取る際に脅すような仕草を見せたキム・ユソンが警告を受ける。またPKになった場面では西川へのチャレンジが反則ではないと主審を囲んで抗議し、タイムアップになったあとも審判団に詰め寄る様子があった。

 昔から北朝鮮戦を見ている人ならば、この試合を見て「不思議」に思うのと同時に「納得」したのではないだろうか。

「不思議」と思うのは日本のホーム戦をよく見ている人だろう。1993年アメリカ・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選で対戦したあとは、2005年に3回、2008年の東アジアサッカー選手権、2011年ブラジルW杯アジア3次予選で2回、2015年東アジアカップ、2017年E-1選手権と、合計8試合で戦っている。そのうち日本のホームゲームは2005年、2011年、2017年の3回ある。

 日本のホームゲーム3回で、北朝鮮のイエローカードは2005年4枚(日本は2枚)、2011年3枚、レッドカード1枚(日本はゼロ)だったのに対して、2017年は1回(日本はゼロ)と反則は減っていた。また、リードしていても交代の際には全力で戻り、審判への異議もなかった。

 ところが2005年のアジア3次予選で対戦したときは、3月に北朝鮮が平壌でイラン戦を開催した際、試合後に審判に詰め寄り観客がピッチにものを投げ入れるなどしたため、FIFAが中立地、無観客での日本戦を行うことを決めていた。

 プレーに対する態度は、日本のホームと、日本以外での試合ではかなり違う。これには何が関係しているのか。

 関係者の話を集めていくと、浮かび上がるのは「在日朝鮮人」の存在だ。2022年12月1日付け「国籍・地域別 在留資格(在留目的)別 在留外国人」(総務省)によると、日本に2万5358人の朝鮮籍の人たちがいる。北朝鮮はこの朝鮮籍の人たちを外国に居住する自国民として扱っている。

 そして在日朝鮮人で北朝鮮代表に合流する複数の選手に話を聞いたところ「汚いことをするな」「正々堂々と戦え」という指示がある。また北朝鮮サッカー協会関係者も「在日朝鮮人の前で手本になるようなプレーをしろ」という指導がなされているという。

 確かに過去のW杯予選でもそのとおりだった。2011年9月2日に開催されたホームゲームでは後半アディショナルタイム4分に吉田麻也のゴールが決まって1-0で勝利を収めたが、北朝鮮は遅延行為などでのイエローカードをもらっている。11月15日に平壌で開催されたゲームでは、すでに日本は最終予選への突破を決め、逆に北朝鮮は敗退が決まっていたが、激しいプレーで日本に対抗し、イエローカード5枚、レッドカード1枚(日本は1枚)が飛び交う事態になったのだ。

W杯予選で再び対戦する日本 平壌のピッチは人工芝

 日本と北朝鮮は今回の2026年アメリカ・カナダ・メキシコW杯アジア2次予選で対戦する。2024年3月21日のホームゲームでは、上記「在日朝鮮人」の人々の目を感じ、フェアにプレーするのではないだろうか。

 一方で3月26日のゲームは現在平壌で開催されることになっており、なおかつ15万人を収容するスタジアムが使用される可能性がある。また平壌の3つのスタジアムの芝はすべて人工芝で、日頃プレーし慣れていない日本はピッチ対策の準備もしなければならない。

 10月1日のゲームを振り返ると、前半は北朝鮮のほうに決定機が多かった。また、同点に追いつかれた場面は、しっかりと状況を読んだ冷静な攻撃だった。2020年以降、新型コロナウイルスの影響で海外との交流を停止していた北朝鮮代表が久しぶりに復帰したこの大会でベスト8まで進むなど、まるで侮れない一面も見せている。

 ただし、オーバーペース気味で試合に入り、後半息切れしてしまうという時間配分の悪さ、試合経験の少なさも見て取れた。アジア大会の振る舞いに注目が集まるのは仕方がないが、サッカーの部分をしっかりと分析して準備することが肝要だ。

 W杯本大会での躍進が大きく期待されている今の日本代表なら相手の弱点を突いていけるだろうし、2011年11月にアルベルト・ザッケローニ監督が就任以来、初めての敗戦を喫した地を今回は静めてくれるだろう。

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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