日本代表MF堂安律も実感「ビッグクラブになりつつある」 クラブ会員急増…フライブルクの高まる人気と“現実路線”【現地発】

フライブルクで活躍する堂安律【写真:Getty Images】
フライブルクで活躍する堂安律【写真:Getty Images】

国内外で評価が高まるフライブルク、ファンが見せる圧倒的な熱気

 日本代表MF堂安律が所属するフライブルクは、ブンデスリーガ第4節(9月16日)でホームに強豪ボルシア・ドルトムントを迎えた試合で2-4と敗れた。

 相手に先制を許しながら、前半終了間際の連続ゴールで一時は逆転に成功。だが、後半同点に追い付かれると、後半36分にはMFニコラス・ヘフラーが一発レッドで退場処分に。数的不利となったことで相手に押し込まれる苦しい時間を凌いでいたが、後半43分にマッツ・フンメルス、そしてアディショナルタイムに途中出場のマルコ・ロイスにゴールを許し、今季2敗目を喫した。

 2年連続UEFAヨーロッパリーグ(EL)出場を果たすなど、フライブルクは確かな上昇気流に乗っていた。ファーストチームだけではなく3部に所属するセカンドチームが、昨季2位でフィニッシュ。若手が可能な限りのハイレベルな試合環境で経験を積む環境を生み出せている。

 選手が成長できるチームとして国内外で評価は高まり、代表レベルの選手が多く集まるクラブへとなっている。堂安も昨季「ビッグクラブではないですけど、ビッグクラブになりつつあるクラブ」と表現していたことがある。

 クラブ会員の数はハイスピードで増え続け、いまや会員でもホームのチケットを入手するのは困難なほどに。昨季EL決勝トーナメント1回戦ではイタリアの名門ユベントスと対戦したが、そのホーム戦のチケットは転売サイトでなんと1枚1600ユーロ(約25万円)もの高値が付けられていた。「アウェー戦に飛行機で行って2泊したほうが安い!」と言われるレベルだ。そのくらいファンの熱気は高まり続けている。

追い風のなかでも警鐘を鳴らしていた指揮官「すべてが上手くいき続けることはない」

 ただ監督のクリスティアン・シュトライヒはそうした追い風続きでも常に冷静な姿勢を崩さず、昨季からすでに警鐘を鳴らしていた。

「自分たちがどこから来たかを私はよく知っている。今はやることがすべて上手くいっているが、このまますべてが上手くいき続けることはない、というのをよく分かっている」

 そんなシュトライヒ監督が、ドルトムント戦後に改めて自分たちクラブの立ち位置について丁寧に話していたのが印象的だ。

「過去2シーズン、我々にとってすべてが右肩上がりだった。だが、今シーズンが非常に厳しいシーズンになりうるかもしれないというのは分かっていることだった。少なくとも私はそう思っていた。そこが一番大事なところだ」

 世間からの評価がどうではなく、自分たちがやるべきことをやらなければ、とたんにつまずく。サッカーとはそういうものだ。第3節シュツットガルト戦では攻守のバランスも選手間の距離感も悪く、0-5と完敗。足もとを見つめ直す機会とできるのかどうか。それだけにドルトムント戦は、今季のフライブルクがどこまでできるのかを示す大事な試金石と言えたかもしれない。

「シュツットガルトでは酷いサッカーをして負けた。今日ドルトムントとの試合内容はポジティブなものだった。今日のようにプレーしなければ。それ以外に道はないのだ」

スタメン復帰の堂安らがハードワーク、粘り強く辛抱強いプレーで制したEL初戦

 スタメン復帰した堂安をはじめ、各選手が試合開始からハイインテンシティーでプレー。攻守の切り替え早く、球際に鋭く、ハードワークを厭わない。そんな試合ができた意味は小さくない。

 ドルトムント戦から5日後、EL初戦でギリシャの強豪オリンピアコスと対戦したフライブルクは接戦を3-2でものにした。自分たちのミスから危ないシーンを作られ2失点したものの、前半終了間際にペナルティーエリア内で堂安が倒されて得たPKをビンツェンツォ・グリフォが決めたゴールのほか、決定機を逃さずに得点を重ねた。

 シュトライヒ監督が「チャンスを生かした。選手には『これは全く別の大会だ。ブンデスリーガではない。今日また0から始まる』と伝えた。2-2で終わっても正当なものだとは思っていた」と振り返るような試合展開だったが、後半41分に途中出場のマキシミリアン・フィリップがコーナーキックから素晴らしい左足シュートを決めて3-2の勝ち越しに成功した。

「マキシミリアン・フィリップは見事なゴールを決めた。(ELを)こうした形でスタートすることができて素晴らしい。チームにとってものすごくいいことだ。土曜日のドルトムント戦は本当に痛手となったからね」(シュトライヒ監督)

 DFルーカス・キューブラ―も「完全アウェーの厳しい試合でもやり遂げることができた。メンタル面でもね。今日の勝利はチームにさらなる自信をもたらしてくれる」と安堵のコメントを残している。

 粘り強く、辛抱強く、毎試合全力で試合に臨む。そのベースを忘れることなく戦う先に結果が付いてくるはずだ。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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