【月間表彰】広島・ジュニオールが飾ったJリーグ第2章の幕開け 新天地を魅了した技ありゴラッソ

今季途中から広島に移籍をしたマルコス・ジュニオール【写真:(C) 2023 S.FC】
今季途中から広島に移籍をしたマルコス・ジュニオール【写真:(C) 2023 S.FC】

月間ベストゴール受賞は8月19日・川崎戦で決めた名刺代わりの一発

 リーグでは今季も全得点を対象に「明治安田生命J1リーグ KONAMI 月間ベストゴール」を選出。スポーツチャンネル「DAZN」とパートナーメディアで構成される「DAZN Jリーグ推進委員会」の連動企画として、「FOOTBALL ZONE」では毎月、スーパーゴールを生んだ受賞者のインタビューをお届けする。8月度の月間ベストゴールに選ばれたのは、サンフレッチェ広島のMFマルコス・ジュニオール選手が横浜F・マリノスから完全移籍した直後、8月19日の第24節・川崎フロンターレ戦の後半15分に決めた技ありのゴールだ。試合3日前にチーム練習に合流したばかり。名刺代わりとなったスーパーゴールに迫る。(文=藤井雅彦)

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 ブラジル人クラッキの“ゴラッソ”が8月の月間ベストゴールだ。

 サンフレッチェ広島のMFマルコス・ジュニオールが8月19日の第24節・川崎フロンターレ戦で目の覚めるようなゴールを決めた。1-1で迎えた後半15分、左サイドのポケットでボールを受けると、そのままドリブルでペナルティーエリア内に侵入。巧みなボールタッチで相手選手をかわし右足を振り抜くと、鋭いシュートがサイドネットに突き刺さった。

 一連の流れすべてがスムーズだったわけではない。自身の動き出しに対して味方からのパスがうしろ方向に来たため、ややブレーキをかけてボールを受けざるを得なかった。スピードに乗ったままアタックできない状況で、次にどのようにアクションを起こすかを考えたという。するとM・ジュニオールにアイデアが舞い降りた。

「あの瞬間、早くパスを出す選択肢もあったけれど、自分の中で何か違うこと、クリエイティブなことをやりたいと思った」

 次々と迫りくる相手選手のプレッシャーを、右足のアウトサイドを使って曲芸師のような動きで巧みにかわす。さらに狭いエリアをダブルタッチで突破。エリア内でファウルを犯せない相手心理の逆手を取った強引さで局面を打開すると、DFに囲まれている状況でもわずかなシュートコースを見つけてゴールを射抜いた。

「ボールを受けて、最初のDFが左側からプレッシャーをかけてきたのが見えたし、同時に彼のうしろにスペースがあることも分かっていた。自分にとって理想のボディーバランスでかわすことができた。DFを置き去りにできた時点でシュートを意識して、ゴールの位置も冷静に見えていた。だから、シュートを打つ瞬間はゴールを見ていない。その前に確認したイメージを信じてシュートを打った」

 2019年の来日以降、横浜F・マリノスに所属して多くのゴールを重ねてきた。初年度のシーズンには15得点で得点王に輝き、リーグ優勝にも大きく貢献。2020年は2年連続2桁となる11得点、2021年も9得点を挙げた。テクニックが光るゴールも多く、実績を考えれば今回のゴールにも驚きはない。

 自身も「ゴラッソだった」と胸を張ったゴールは、インステップの強いキックから生まれた。M・ジュニオールといえばインサイドやインフロントでコースを狙うシュートを十八番にしているが、初めて試合で袖を通した紫のユニフォームに自然と高揚したのかもしれない。

「シュートを狙う時はボールを受ける前にゴールの位置を確認している。インステップで蹴っているので強めのシュートだったけれど、意識としてはいつもどおり枠をしっかり捉えることを考えた。新しいユニフォームにも早く順応できたと思っている」

 屈託のない笑みは横浜F・マリノス所属時代とまったく変わらない。本当の意味でサンフレッチェ広島の一員になれた瞬間だ。

移籍発表からわずか8日後に飛び出した“らしさ”の詰まったゴラッソ

 M・ジュニオールの移籍加入が発表されたのは、この試合から遡ること、わずか8日前の8月11日。実際に合流してからのトレーニング期間は1週間にも満たない。加入から日が浅い立場でも、やるべきことは明確だった。

「緊張やワクワク、いろいろな感情が入り混じった1週間だった。とにかくいいデビュー戦にしたいという気持ちに集中して過ごしていた。そして試合で活躍することも大事だけど、チームメイトの信頼を得るのは日々のトレーニング。そこからしっかりやっていくのが大事だと思っていた」

 短い準備時間で迎えた川崎戦。出番は後半開始と同時にやってきた。1-1のシチュエーションで、勝ち点3を手繰り寄せるパフォーマンスを求められていたのは言うまでもない。そのために、M・ジュニオールは攻撃だけでなく守備も疎かにしなかった。

「あの得点は、ボールを失った瞬間がポイントだった。できるだけ早いトランジションでボールを奪い返そうと思って、相手に考える時間やパスを出す時間を与えないように強くプレッシャーに行った。これは間違いなくF・マリノスで培ったプレーで、それを練習からやり続ける重要性も学んだ。サンフレッチェの一員になっても続けていきたい」

 過ごしている日常が試合に表れる。献身的な守備と彼にしかできないゴールでチームに勝利をもたらし、サポーターに喜びを届けた。さらにゴールパフォーマンスの『かめはめ波』も炸裂。これ以上ない加入後初ゲームとなった。でも、これは始まりの号砲に過ぎない。

「ポジティブなエネルギーをチームに与えることが大事だと思っている。僕は今まで在籍していたチームでは常に全力でやってきたのでサンフレッチェでもそれを続けるし、ポジティブなエネルギーを与える存在になりたい」

 M・ジュニオールにとってのJリーグ第2章が幕を開けた。

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藤井雅彦

ふじい・まさひこ/1983年生まれ、神奈川県出身。日本ジャーナリスト専門学校在学中からボランティア形式でサッカー業界に携わり、卒業後にフリーランスとして活動開始。サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊号から寄稿し、ドイツW杯取材を経て2006年から横浜F・マリノス担当に。12年からはウェブマガジン『ザ・ヨコハマ・エクスプレス』(https://www.targma.jp/yokohama-ex/)の責任編集として密着取材を続けている。著書に『横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史』、構成に『中村俊輔式 サッカー観戦術』『サッカー・J2論/松井大輔』『ゴールへの道は自分自身で切り拓くものだ/山瀬功治』(発行はすべてワニブックス)がある。

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