番記者がズバリ回答 なぜ勝てない…フリック監督率いるドイツ代表、苦心の”現在地”【現地発】

成績低迷が続くドイツ代表【写真:ロイター】
成績低迷が続くドイツ代表【写真:ロイター】

現ドイツ代表はリーダー不在、サイドバックの課題は“伝統”

 2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)で日本代表に敗戦して2大会連続のグループリーグ敗退に終わったドイツ代表が苦しんでいる。W杯後の親善試合の成績は1勝1分3敗と大きく負け越し。来年に自国で開催される欧州選手権(EURO)に向けて暗雲が漂うなか、9月のAマッチウィークで予定されているホームでの日本代表、フランス代表との連戦で好成績を挙げられるのか。

 そこで今回は、ドイツ代表の番記者を務め、「Sportschau」誌、「Spiegel」誌などに寄稿する現地スポーツライターのマルクス・バーク氏に、ハンジ・フリック監督率いるドイツ代表の置かれている現状と、チームに内包する問題や課題などを聞いた。

 まず、そもそも今のドイツ代表に絶対的な主力は存在するのか。先のカタールW杯ではGKのマヌエル・ノイアー(バイエルン・ミュンヘン)がキャプテンを務めたが、そのノイアーはW杯敗退後の休暇中にスキーで大怪我を負い、現在も戦線に復帰できていない。その結果、現在は最終ライン、攻撃陣ともにリーダー的な存在が見当たらず、精神的支柱を失っている感がある。

 バーク氏は言う。

「今は本当に主力と言えるような選手がいない。ヨシュア・キミッヒ(バイエルン)さえも、もう長い間、代表で周囲を納得させるプレーを見せられていない。それでもキミッヒはハンジ・フリック監督が100%信用している選手として起用され続けている。また、守備陣ではアントニオ・リュディガー(レアル・マドリード/スペイン)が常時出場している。また、今回の代表戦ではGKにマルク=アンドレ・テア・シュテーゲン(FCバルセロナ/スペイン)が起用されるはずだが、彼は代表でいいプレーができないことが多い。

 現状は15、16人に定められた主力選手の中からスターティングメンバーが決まると思う。ジャマル・ムシアラ(バイエルン)は怪我で出場できないかもしれないが、フロリアン・ヴィルツ(レバークーゼン)は非常に好調だ。しかし、ヴィルツのような若い選手(20歳)を代表の大黒柱と言っていいのかは分からない」

 今のドイツ代表でウィークポイントと言えるポジションはあるのだろうか? W杯の日本戦ではイルカイ・ギュンドアン(バルセロナ/スペイン)のPKで先制しながら、堂安律(フライブルク)、浅野拓磨(ボーフム)にゴールを許して逆転負けを喫した。また、スペイン代表との一戦ではアルバロ・モラタに先制を許し、ニクラス・フュルクルク(ボルシア・ドルトムント)のゴールで辛うじて引き分けている。

「ドイツ代表の問題のポジションがサイドバックであるというのは、もはや”伝統”だ。これまでもさまざまな選手を試してきたが、結局、継続的な解決策は見つけられていない。また、センターフォワードのポジションは最適任者がいない。フュルクルクはW杯で得点したが、常時先発で起用されているわけではなく、彼のキャリア全体でも欧州の大会に出場して好成績を残したことがない。そしてセンターバックのポジションも徐々に問題が生じている。ただし、中盤にはハイレベルな選手が十分にいる」

エースFWを見出せず、守備の問題も改善できず

 近年のドイツ代表は国内のサッカーファンに親善試合やUEFAネーションズリーグへの関心を高められていない。代表よりもクラブに価値を見出すファン・サポーターが多いなかで、W杯での成績低迷がその人気低下に拍車をかけていると、バーク氏は話す。

「ドイツはもう長年、テストマッチにしっかり臨むことができていない。ドイツ国内では公式戦であるネーションズリーグも過小評価されていて、テストマッチに関してはその価値が一層見出せないでいる。そうなると、選手たちも親善試合などでモチベーションを保つのが難しくなる。そもそもドイツ代表の選手たちは自らを過大評価しているきらいがある。あるいはドイツメディアにもそのような傾向があるかもしれない。『我々はビッグタイトルを勝ち獲れるチームである』と。

 キミッヒやレオン・ゴレツカ(バイエルン)はワールドクラスと評されているが、例えば今年対戦したベルギー代表(2-3)の選手たちのほうが2人よりもベターなプレーをしていた。。またウクライナ代表(3-3)とのゲームでは守備が全く機能していなかったし、ポーランド代表戦(0-1)では攻撃の決め手がなかった。0-2で敗戦したコロンビア代表戦は言わずもがなだ。ドイツ人は特にサッカーにおいて、実際よりも自分たちの実力は高いと信じたがる。少し上から目線で相手を見ることがあることは認識しなければならない」

 代表の成績低迷はフリック監督の去就問題にも及ぶ可能性がある。バイエルンを指揮した2019-20シーズンにトレブル(ブンデスリーガ、国内カップ戦、UEFAチャンピオンズリーグの3冠)を達成し、2021年にヨアヒム・レーブ監督から代表監督の座を引き継いでからは多大な期待が寄せられたが、それもカタールW杯での挫折を機に逆風が吹いている。

「ハンジ・フリックはバイエルンで多くのタイトルを獲得したあとに代表監督へ就任したから当然期待も大きかった。ただ、バイエルンを指揮していた時期は新型コロナウイルスの流行の影響などもあって、世界的にイレギュラーなシーズンだった。また、フリック監督が指揮していた時のバイエルンはロベルト・レバンドフスキ(バルセロナ)が得点を量産するなかで守備が不安定だった。それでも『レバンドフスキが1点でも多く決めればいい』という戦術を貫き続けた。

 一方で、ドイツ代表では絶対的なエースFWを見出せず、守備の問題を是正できていない。何度も相手カウンターを浴びて被弾しているなかで、本来は戦術的なブラッシュアップが必要なはずだが改善できていない。試合中の采配にも課題がある。ドイツでは今、『フリックは本当に私たちが考えていたような名指揮官なのだろうか?』という疑問が囁かれている」

日本に負けてもフリック監督は解任されない?

 今回の日本代表との親善試合でもしドイツ代表が敗戦した場合、フリック監督の解任は現実味を帯びるのだろうか? 自国開催のEURO2024までにはまだ時間があるとはいえ、2026年の北中米W杯で史上4度目の同大会制覇を果たすためには現状を打破する方策を見出さねばならない。

「私は2018年のロシアW杯の時から、ドイツは大きな大会で準決勝に行けたら合格だと思ってきた。しかし来年のEURO2024でもドイツのタイトル獲得への期待が議論されている。フリック監督がその大会でドイツ代表を率いているかは分からない。もし、ユルゲン・クロップ(リバプール監督)が代表監督就任のシグナルを送ったら、DFB(ドイツサッカー連盟)はなんらかの決断をするかもしれない。それは今回の9月の親善試合2試合の結果にもよるだろう。

 ただし、もし日本に負けたとしても、フリック監督が解任されることはないだろう。それは日本を低く評価しているからというわけではない。その後のフランス代表との試合の方が大切だと見なされているからだ。もし日本に負けたとしても、ドイツ代表には何も起こらない。その後のフランスに勝てば、ドイツは依然としてEURO2024のタイトル候補だと評されるだろう。今回の2試合はセットで考えなければならない。もしドイツ代表がフランス代表に勝ったら国内で大絶賛されるだろう。日本代表との試合は、その重要な一戦へ向けたウォーミングアップのようなものだ。もちろん日本とフランスに連敗すれば深刻な問題が生じるだろう。

 それでも9月でのフリック監督解任は現実味が薄い。後任候補であるクロップもトーマス・トゥヘル(バイエルン監督)も今はフリーではない。フリック監督が代表監督の座を辞するとしたら来年だが、もしEURO2024でも成績が低迷すれば、今のドイツ代表は周囲に、トップカテゴリーからセカンドカテゴリーに降下したと認知されることになるだろう」

 現在のドイツ代表を取り巻く状況は非常に厳しい。そんな彼らと、日本代表は9月9日にドイツのヴォルフスブルクで親善試合を戦う。

(島崎英純/Hidezumi Shimazaki)



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島崎英純

1970年生まれ。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動を開始。著書に『浦和再生』(講談社)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信しており、浦和レッズ関連の情報や動画、選手コラムなどを日々更新している。2018年3月より、ドイツに拠点を移してヨーロッパ・サッカーシーンの取材を中心に活動。

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