三笘薫の圧巻技、ロナウジーニョのようにダイナミックでなめらかな「エラシコ」 警戒網のなかで際立つ新たな魅力【コラム】

ブライトンでプレーする三笘薫【写真:ロイター】
ブライトンでプレーする三笘薫【写真:ロイター】

プレミアリーグ開幕戦、PKにつながるパスを出した三笘のプレーに注目

 プレミアリーグ開幕戦、三笘薫が所属するブライトンは4-1でルートン・タウンを撃破した。この試合の後半26分、ジョアン・ペドロがPKで2点目を決めているのだが、そのPKにつながるパスを出した三笘のプレーが注目されている。

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 左サイドでパスを受けた三笘は、後方から追い付いて進路を塞ごうとする相手の逆を突いて右足アウトサイドで切り返し、そのまま右足インサイドでタッチ。きれいに対面の相手を外したあと、ペドロへ丁寧なパスを通した。いわゆる「エラシコ」のボールタッチだった。

 ブラジルで「エラッスチコ」と呼ばれるテクニックの意味は「輪ゴム」。アウトサイドにボールを付けたままインサイドに切り替える感じが、ビヨーンと伸びてパチンと縮むゴムを連想させるからだろうか。世界中でお馴染みのテクニックだが、元祖は1960~70年代に活躍したロベルト・リベリーノと言われている。

 ただ、日本のファンはリベリーノとは別の選手でエラシコを知っていた。日本リーグ時代の藤和不動産サッカー部で活躍したセルジオ越後の得意技だったからだ。サッカー専門誌に連続写真で紹介されていたので、当時のファンはその存在を知っていたのだが、実際に見た人は少なかっただろう。筆者も動くエラシコを初めて見たのはフットサルをやっているリベリーノの映像だった。ようやく写真で見た技の実態を掴めたわけだが、そもそも友人だったセルジオ越後の技をリベリーノが真似をしたのが始まりという話をのちに知った。

 しかし、リベリーノのあとはなかなか継承者が現れなかった。ようやく90年代後半にロナウドが披露して話題になり、一気に普及させたのはおそらくロナウジーニョだ。テレビコマーシャルで実演したロナウジーニョのエラシコには度肝を抜かれたものだ。最初のアウトサイドでの押し出しが鋭く、ボールの動く距離が長い、しかも浮いていた。

 リベリーノは当時の超絶テクニシャンだった。左利きで左足を前に出した半身でのドリブルの体勢から、左のアウトで対峙するDFの懐に差し込むようなタッチで押し出し、そのままインサイドに切り替えて抜く。キレはあったがボールの動きは小さい。一方、ロナウジーニョはリベリーノより身体も大きくリーチもあるせいか、最初のタッチがすごく大きかった。ゴムの伸び方が尋常でなく迫力満点。ただ、相手に向かってボールを突き出すという原理は共通している。

警戒される三笘の縦突破、今季はカットインやクロスなども増加しそうな気配

 開幕戦で三笘がやったのは方向が逆だ。相手から遠ざかる方向へボールを動かしていた。アウト→インの連続タッチという意味ではエラシコだが方向は逆。相手に向かってボールを突き出すリベリーノやロナウジーニョのエラシコは、その鋭い差し込みで相手をのけぞらしていた。三笘の場合は、相手の動きの逆を突く切り返しに近い。ただ、ボールの動く幅の大きさはロナウジーニョのようにダイナミックでなめらかだった。

 三笘のドリブルといえば、縦にぶっちぎる反発ステップを使ったドリブルが知られているが、アウトでの切り返しからそのままインに持ち替えるエラシコも結構使っている。昨季は縦突破が猛威を振るっていたので今季はかなり警戒されるはずで、むしろカットインが増えていくのかもしれない。

 開幕戦ではソリー・マーチの先制点をアシストした。足裏でボールを止め、すかさず走り込むマーチの頭上にピンポイントのクロスボール。マーチをマークする相手DFの頭上をぎりぎりで越える柔らかいパスだった。縦を警戒されることで、こうした右足のクロスやシュートで新たな魅力を見せてくれるのではないか。

西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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