なでしこJは「復活する」 英記者が提言、飛躍へ求めた条件「さもなければ停滞リスクを抱える」【コラム】

なでしこジャパンは準々決勝で敗退【写真:ロイター】
なでしこジャパンは準々決勝で敗退【写真:ロイター】

女子W杯で快進撃、なでしこジャパンベスト8敗退を英記者はどう見た?

 なでしこジャパン(日本女子代表)は、オーストラリアとニュージーランドで共催の女子ワールドカップ(W杯)を準々決勝敗退の成績で終えた。グループリーグから16強までの快進撃と、ナイーブさを見せてしまったベスト8のスウェーデン戦を、かつてアジアサッカー連盟の機関紙「フットボール・アジア」の編集長やPAスポーツ通信のアジア支局長を務め、昨年のカタール大会でワールドカップ(W杯)を7大会連続で現地取材した英国人記者のマイケル・チャーチ氏が総括した。

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 W杯からの敗退はどんな時も傷心と涙がともにある。それはサムライブルーにとってもなでしこにとっても同じだった。何か月も、あるいは何年も「こうなっていたかもしれない」、「こうあるべきだったかもしれない」という思いに浸ることになるだろう。

 PK失敗は日本代表の国際舞台におけるテーマになった。植木理子の不運な一撃は、昨年カタールで見せた森保一監督のチームによるパフォーマンスを思い出させる。12ヤード(約10メートル)からの精度の低さ、心理面での挑戦に失敗したことだ。PKを決めることはシンプルであるがゆえに、この競技で最も難しい役割だ。試合が止まり、スタジアムの期待と恐怖に満ちた視線に包まれる。希望は、そのひと振りに懸かっているのだ。ミリ単位、コンマ数秒単位で結果が左右される。

 なでしこがサムライブルーよりも1つ先のラウンドに到達したことは疑いようもなくポジティブなことであり、池田太監督が率いたチームのプレーぶりや態度は大会を見るものを楽しませた。グループリーグのスペイン戦では、大方の予想ではポゼッションサッカーにより圧倒するだろうと思っていた相手になでしこは海賊のように襲い掛かり、寸断して切り裂いた。この鋭さに匹敵するチームはほとんどなかった。準決勝でなでしこと再戦する可能性がなくなったというニュースは、ホルヘ・ビルダ監督が率いるスペインチームを安眠に導くだろう。

 池田監督率いるチームは胸を張って帰国できるだろう。凋落し、世間から消え去ろうとしていたプロジェクトに誇りと信頼を取り戻したのだから。

10年前まではアジアが女子サッカーをリードしていたが…

 若さ溢れる選手たちと歴戦のキャリアを持つ素晴らしい選手たちを擁したチームでこれを成し遂げたのだから、なでしこは復活するはずだ。チームを取り巻く明るいムードを加速させるためにも、パリ五輪の予選突破は必須だ。そしてパリで、再び大会の終盤まで勝ち進まなければならない。

 国内のクラブチームにおける試合のレベルアップも必要だ。WEリーグはJリーグのあとを追い成長、発展させていく必要がある。選手の育成も必要であり、ヨーロッパのクラブに選手を送り出すこともそうだ。10年前まではアジアが女子サッカーをリードしていたが、その時代は去り、多額の資金を投入したヨーロッパ勢に後れを取りつつある。日本の優秀で輝ける選手たちはその才能を伸ばすためにもヨーロッパに渡る必要があり、さもなければ停滞するリスクを抱えるだろう。

 宮澤ひなた、藤野あおば、高橋はなのような選手たちは、長谷川唯やほかの選手たちに続いて、女子サッカーが男子サッカーに関連する資金やプロフェッショナルな人的資源の恩恵を受けている、より良いリーグからのオファーを受けることになるだろう。自分たちのためにも、なでしこプロジェクトのためにも、彼女たちはそれを受け入れるべきだ。

 池田監督と彼のチームは、世界最高峰に挑戦できるスキルを持った選手たちとチームを送り出したことにより、日本サッカー協会が導入して進めている育成モデルが機能していることを証明した。しかし、トロフィーを手にするためにはベストチームが持つ厳しさ、鋭さを与えなければならない。

 それは可能だ。この女子W杯が始まる前にそう公言した者はほとんどいないのだろうが、なでしこの未来は明るい。日本女子サッカーを活性化させ、なでしこジャパンを正しい方向に導いてくれた池田監督とそのチームを心から称賛したい。

(マイケル・チャーチ/Michael Church)



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マイケル・チャーチ

アジアサッカーを幅広くカバーし、25年以上ジャーナリストとして活動する英国人ジャーナリスト。アジアサッカー連盟の機関紙「フットボール・アジア」の編集長やPAスポーツ通信のアジア支局長を務め、ワールドカップ6大会連続で取材。日本代表や日本サッカー界の動向も長年追っている。現在はコラムニストとしても執筆。

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