進撃のなでしこ、W杯4強へ“日本女子サッカーの未来”を懸けた戦い 浸透するマインド「選手が背負うのではなく…」【コラム】

日本女子代表の宮本ともみコーチ(右)【写真:早草紀子】
日本女子代表の宮本ともみコーチ(右)【写真:早草紀子】

なでしこジャパンを支える宮本ともみコーチ、選手を称賛「すごく頼もしい」

 女子ワールドカップ(W杯)準々決勝まで順調に駒を進めてきたなでしこジャパン。意思統一された守備と、相手によって戦い方を変える柔軟性を伴った戦いを見せる日本は、現地でも日増しに注目度が高まっている。そんなチームを支えているのは大会随一の一体感だ。

 それを支える1人が宮本ともみコーチだ。自身も代表選手として3度のW杯に出場し、結婚・出産後には代表初のママさん選手として注目された。現役時代は長身ボランチとして活躍しており、展開力があり、ゴールを引き出すスルーパスが魅力の選手だった。アトランタ五輪後、世代交代された代表で澤穂希さんたちとともにチームの中枢を担っていたなか、選手からコーチに立場を変えて、W杯の舞台に戻ってきた。

「1999年大会(アメリカ)で初めて出場した時、私はまだ20歳で、すごく緊張してどんなプレーをしたかも全然覚えてないくらい(笑)。それよりも若い選手が(藤野)あおばや、(石川)璃音、(浜野)まいかはまだ出てないですけど、そういった選手が堂々としているプレーっていうのはすごく頼もしいです」(宮本コーチ)

 若手の多い今回のなでしこジャパンだが、そのほとんどがユースカテゴリーで優勝経験のある選手ばかり。トップの“世界”に触れることは初めてでも、“世界大会”慣れがプラスに作用していることは間違いない。

 チームでは日々のトレーニングの準備、攻守に分かれる場合は攻撃面、またチャンスの際のセットプレーも任されている宮本コーチ。現在、セットプレーからのゴールは生まれていないため、「そろそろクビになるかも(笑)」とジョークを飛ばす。それでも日本のセットプレーはショートコーナー、ストレートボール、複数人で切り替えパターンなど多彩だ。昨シーズンから日本サッカー協会にセットプレー専任コーチが就任し、各カテゴリーの枠を超えて情報を共有できていることもあり、セットプレーに力を入れてきた。

酸いも甘いも知る宮本コーチの想い「チームで一体感を持って背負わないといけない」

 練習のピッチでは、宮本コーチが選手に寄り添う姿をよく目にする。自信をなくしかけている選手、なかなかコンディションが上がらない選手など、ケアが必要な選手の隣には宮本コーチの姿が必ずある。それも選手時代の経験から来る行動だ。

 特に彼女が代表時代には、シドニー五輪の出場権を逃したことで、当時のLリーグ(日本女子サッカーリーグ)からスポンサーが離れ、存続の危機にまで陥った経験をしている。その後、2011年になでしこジャパンが世界を制したあとの熱狂も知るからこそ、今の代表選手たちへの想いがある。

「選手の時は自分たちがなんとかしなきゃ、女子サッカーが終わっちゃうとか、自分たちがそういうのを変えないといけないって思ってました。でも今、スタッフとして思うのは、ピッチに立つのは選手たちだけど、それを選手たちが背負うのではなく、チーム全員で一体感を持って背負わないといけない、ということ」(宮本コーチ)

 女子サッカーの未来を変える――そこにつながるものは代表選手だけでなく、ここまで選手を育てた人たち、環境を作ってきた人たちすべての力だと宮本コーチは言う。だから一緒に戦うのだ、と。

 このマインドがチーム全体に浸透しているから、なでしこジャパンは各スタジアムで温かい声援を受けるのだろう。8月11日、準々決勝の会場は大都市オークランドのイーデンスタジアム。これまで以上の集客が見込まれるスウェーデン戦でも観客を味方に付け、準決勝への扉を開いてほしい。

(早草紀子 / Noriko Hayakusa)



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早草紀子

はやくさ・のりこ/兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。在学中のJリーグ元年からサポーターズマガジンでサッカーを撮り始め、1994年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿。96年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルフォトグラファーとなり、女子サッカー報道の先駆者として執筆など幅広く活動する。2005年からは大宮アルディージャのオフィシャルフォトグラファーも務めている。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。

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