サウジ資本で序列変動か…プレミア優勝争いに食い込むのは? 新シーズンの勢力図&展望【コラム】

2023-24シーズンのプレミアリーグを展望【写真:Getty Images】
2023-24シーズンのプレミアリーグを展望【写真:Getty Images】

死角の少ない3連覇中のシティ、変動が大きなリーグで絶対王者を脅かすのはどのクラブか

 イングランド1部・プレミアリーグは今年も注目ポイントが目白押しだ。「FOOTBALL ZONE」では欧州リーグ開幕に焦点を当てて特集を展開。日本代表MF三笘薫所属のブライトンなどを含め、プレミア新シーズンのクラブ勢力図や展望を考察している。(文=河治良幸)

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 3連覇中のマンチェスター・シティが大本命であることは間違いない。しかも昨シーズンはFAカップ、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)の3冠を制しており、“ペップ”ことジョゼップ・グアルディオラ監督が率いるチームに死角はないと見られる。

 むしろ昨シーズンはプレミア初挑戦ながら36得点を記録したエースのノルウェー代表FWアーリング・ブラウト・ハーランドが、さらなる進化を遂げる可能性もある。ディフェンス面ではクロアチア代表のヨシュコ・グバルディオルが9000万ユーロ(約140億円)でドイツ1部のRBライプツィヒから加入した。

 イルカイ・ギュンドアンがバルセロナに移籍した中盤にはライバルのチェルシーからクロアチア代表MFのマテオ・コバチッチが加わるなど、戦力の充実度では歴代最強かもしれない。数少ない不安要素と見られるサイドアタッカーも、夏の移籍市場が閉じる前に今年のラストピースが加わる可能性もある。

 グアルディオラ監督は現状維持に満足することを好まず、チームが成熟すると戦術的な新機軸を取り入れることが恒例行事のようになっており、それが良くも悪くもリスクではある。ただ、悲願だった欧州制覇まで果たした百戦錬磨の指揮官が、そうそう下手を踏むことは考えにくい。一時的な手名があったとしても、シーズン中に軌道修正して巻き返してくるはず。

 夏のツアーを休養した司令塔ケビン・デ・ブライネもシーズン最初のタイトルマッチであるコミュニティシールドにと途中出場しており、U-21イングランド代表MFコール・パルマーのゴールをアシスト。なんとか開幕に間に合ったようだ。ライバルのタイトル奪取には王者の自滅を待つのではなく、果敢に挑んでいく姿勢と相応のチーム力が問われる。

昨シーズン2位のアーセナルが“対抗馬”筆頭、冨安にチャンス到来の可能性も

“対抗馬”と見られるのは昨シーズン2位で、そのコミュニティシールドをPK戦で制して、今年最初のタイトルを獲得したアーセナルだ。大躍進の前半からカタール・ワールドカップ(W杯)後に成績を落とし、尻上がりに上げてきたシティの大逆転を許した昨シーズンから、ミケル・アルテタ監督と“ガナーズ”(アーセナルの呼称)の選手たちは新たな気持ちで新シーズンにチャレンジしていることはコミュニティシールドからも見受けられた。

 しかも、新加入選手のうちサイドバックのユリエン・ティンバー、中盤のデクラン・ライス、前線のカイ・ハフェルツという3人がスタメン起用されており、昨シーズン14得点11アシストを記録したブカヨ・サカなど、現時点では上々の連携を見せている。

 また後半アディショナルタイムにサカのコーナーキックから同点弾を決めたFWレアンドロ・トロサールなど、オプションも多士済々だ。2年目のシーズンとなる冨安健洋はコミュニティシールドでベンチ入りしたものの出番はなく、右サイドバックでベン・ホワイトの2番手という位置付けは開幕戦まで動かなそうだ。

 とにかく冨安の課題は万全な状態でシーズンを送ることであり、CLの挑戦もある長い戦いのなかで、良い状態をキープしていれば、必ずチャンスは来るはずだ。現時点で予兆はないが、本来のポジションであるセンターバックで起用される可能性がないわけではない。

 元々ベン・ホワイトもセンターバックの選手であり、仮にブラジル代表のガブリエウやウィリアン・サリバなど、主力に何かあった場合にアルテタ監督がどう動くかは1つの注目ポイントだ。シーズンでもマンチェスター・シティはもちろん、上位との“6ポイントマッチ”でどこまで勝ち点を伸ばせるかがタイトルに大きく関わってくる。

“サウジ資本”ニューカッスルの躍進は今季も続くか

 数年来、プレミアリーグで覇権を争ってきた“ビッグ6”だが、その秩序が崩れてきている。サウジ資本をバックにつけたニューカッスルが昨シーズンは4位に躍進し、プレシーズンマッチでスペインの強豪ビジャレアルに4-0の勝利を飾るなど、気鋭のエディ・ハウ監督が率いるチームはさらなる進化を期待させるプレシーズンを過ごした。

 昨シーズンの終盤戦に大爆発したイングランドFWカラム・ウィルソンを筆頭に、名より実のあるメンバーをベースにまとまりのある戦いを見せるなかで、ブラジル代表MFブルーノ・ギマランイスの攻守両面での奮闘が生命線となる。

 そのほか、近年ライバルのシティに大きく水を開けられていたところから、昨シーズンは3位フィニッシュと光明が見えているマンチェスター。ユナイテッド、屈辱の5位に終わるもユルゲン・クロップ体制を継続させて、巻き返しを図るリバプール。優勝候補と見られるのはこの辺りまでか。

トッテナムやチェルシーがサプライズを起こしてもおかしくはない

 昨シーズン、そのニューカッスルとともに“ビッグ6”を崩した三笘薫を擁するブライトンはクラブ初となるUEFAヨーロッパリーグ(EL)を戦いながら、リーグ戦でも上位を狙っていくシーズンになる。開幕直後にグレアム・ポッター前監督が、多くのスタッフを引き連れてチェルシー転任(後に途中解任)。危機的状況からチームを救うどころか、前シーズンを超える大躍進に導いたのが、イタリア人のロベルト・デ・ゼルビ監督だった。

 明確に設計されたビルドアップをベースに、左サイドの三笘や右のソリー・マーチなどが危険な位置でボールを受けて、積極的に仕掛けていくスタイルは大きく変わらないと見られる。ただし、アルゼンチン代表のアレクシス・マック・アリスターがリバプールに移籍した中盤では同代表の新鋭ファクンド・ブオナノッテやパラグアイ代表のフリオ・エンシソなどのヤングパワー、新加入のベテランMFジェイムズ・ミルナーの奮起も期待される。

 中盤の核を担うモイセス・カイセドの去就が不明だが、三笘など“人気銘柄”の選手たちを抱えているだけに、夏の市場が完全に閉じるまでは開幕後も落ち着かない状況が続くかもしれない。

 第2勢力では昨シーズン7位のアストン・ビラがムサ・ディアビとオリー・ワトキンスの強力2トップを武器に、どう上位戦線をかき回していくか。セルティックをスコットランドの国内3冠に導いたアンジェ・ポステコグルー新監督の昨季8位トッテナム、大刷新を繰り返しているマウリシオ・ポチェッティーノ新監督の昨季12位チェルシーが王者マンチェスター・シティなどと優勝争いを演じるようなら1つ驚きになるが、プレミアリーグは世界で最も変動が大きなリーグの1つにもなっており、昇格組も含めて、あっと驚く大躍進があってもおかしくない。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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