「何しとん! いつでも替えてやる」 ミキッチが「一番記憶に残っている」2015年浦和戦の森保監督激怒の真相【インタビュー】

かつてJリーグで活躍をしたミハエル・ミキッチ氏と森保一監督【写真:Getty Images】
かつてJリーグで活躍をしたミハエル・ミキッチ氏と森保一監督【写真:Getty Images】

ミキッチ氏は5年半師事した森保氏を「最高の監督の1人」と称賛

 森保一――。サンフレッチェ広島で監督就任初年度の2012年にJ1リーグ優勝を成し遂げ、史上4人目となるリーグ2連覇を含む5年半で優勝3回と一時代を築き、18年からはA代表を率いる日本サッカー界を代表する監督の1人だ。広島時代に指導を受け、数々の喜びを分かち合ったクロアチア人MFミハエル・ミキッチ氏に、森保監督とのエピソードについて聞いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小田智史、通訳=塚田貴志)

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 森保監督は2012年、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督(現・北海道コンサドーレ札幌監督)の後を継ぐ形で広島の指揮官に就任。初年度からJ1リーグ優勝を果たすなど、5年半で3度のタイトルをもたらした。広島時代は3-4-2-1の可変システムを採用していたのに対し、日本代表では4バックをベースとしているが、「アグレッシブに戦う」「最後まで粘り強く」「球際の勝負」といったコンセプトは不変だ。その“ブレないスタイル”は、卓越した観察眼も影響しているとミキッチ氏は語る。

「私が知っているなかで、最高の監督の1人だと思います。森保さんは戦術的に、システマチックにチームを作っていくのが得意で、どんな細かいことにも目を配っています。そして、最大の特徴はグループをまとめる力に優れていること。大きな結果を残したと思いますし、(昨年の)カタール・ワールドカップ(W杯)での戦い方も素晴らしかったと思います」

 森保監督は広島時代、そして日本代表を率いる現在も、普段は温厚で、記者会見でも飄々としている印象が強い。しかし、そんな内に秘めるタイプの指揮官も、雷を落とすことがある。2015年のJ1リーグ第2ステージ第3節の浦和レッズ戦で、1点ビハインドを背負った前半に腰の引けた戦いを見せた選手たちに対し、ハーフタイムのロッカールームで大声を張り上げて熱い思いをぶつけたのは有名な話だ。

「こんな腰の引けた試合をしてる場合じゃないよ! このあとチャンピオンシップを争っても、向こうのアドバンテージいっぱいあるよ。こいつらには絶対勝てない。最後、宇賀神(友弥)なんて笑いながらやってるよ。そんな戦い、絶対しちゃダメだ! マンツーマン、強く行かんと! 千葉(和彦)、もっと強く! ミカ(ミキッチ)、何しとん! 宇賀神が怖いんなら、いつでも替えてやるよ。怖い? 縦に行けっ!」

 ミキッチ氏の中でも、森保監督との出来事で「一番記憶に残っていること」だという。

「森保さんもかなり熱くなって、いつもはしないような厳しい口調でチームに喝を入れていました。自分もかなり攻め立てられましたが、今思い返してみると、森保さんは狙ってそうしていたんではないかと思います。実際、チームは刺激を受けて目覚め、息を吹き返しましたから。後半に逆転して2-1で勝利しました」

我慢強いが故に雷が落ちる時は「すべてを言われる覚悟」が必要

 そして、ミキッチ氏が明かすもう1つの雷は、2015年チャンピオンシップ決勝の広島対ガンバ大阪戦。アウェーでの第1戦で3-2と勝利して迎えた第2戦、ホームチームの広島は前半を0-1で折り返したなか、公式リリースされた森保監督のハーフタイムコメントには「走ること、戦うこと。我々が掴み取るぞ」と記されていたが、舞台裏では檄が飛んでいた。

「『全員がもっともっとやらないとダメだ』『今のプレーの20%以上はクオリティーを上げなきゃダメだ』と。私も厳しく言われました。その結果、後半に(浅野拓磨のゴールで)同点に追い付き、優勝することができました。何より、森保監督にあの時代、マツさん(松本良一/当時広島フィジカルコーチ・現日本代表フィジカルコーチ)、シモさん(下田崇/当時広島GKコーチ・現日本代表GKコーチ)、ヨコさん(横内昭展/当時広島ヘッドコーチ・現ジュビロ磐田監督)、のちにチームを離れることになりますけどカタさん(片野坂宏/2010~13年に広島コーチ)ら、最高のスタッフに囲まれていました」

 ミキッチ氏は、森保監督のキャラクターについて「冷静で、感情をあまり表に出さない。そして非常に真面目な方」と表現したうえで、「我慢強くもあるので、そういう厳しい言葉を投げかけるまでには、かなり我慢される方です。ただ、森保さんが怒る時・爆発した時はすべてを言われることを覚悟しないといけません」と語る。

「(雷を落とされて)びっくりしたか? そういう感覚よりも、ハッとしたというか。物足りないプレーをしていたというのは自分自身でも感じていたので、森保さんに指摘されていることは明らかに正しいと思いました。自分がもっともっとやらないといけないし、必要であれば、自分が犠牲になってでも、チームを勝たせるという思いになりました。森保さんの監督としての素晴らしさはそういうところだと思います。ある程度結果を残して、年齢の高い選手に対してもやらなきゃいけないことはやらなきゃいけないと言える。それに従わなければ使わないというメッセージもしっかり込められている。そこに監督としての威厳を保っているのも、森保さんの手法の素晴らしさだと思います」

 カタールW杯でベスト16の成績を残し、史上初の大会後続投で“第2次政権”に突入した森保ジャパン。指揮官の巧みな人心掌握術も快挙を大きくサポートしていると言えそうだ。

[プロフィール]
ミハエル・ミキッチ/1980年1月6日生まれ、クロアチア出身。インケル・ザプレシッチ―ディナモ・ザグレブ(ともにクロアチア)―カイザースラウテルン(ドイツ)―リエカ―ディナモ・ザグレブ(ともにクロアチア)―広島―湘南。J1通算227試合8得点。現役時代はスピードと持久力を生かし、サイドアタッカーとして活躍。2009~17年まで在籍した広島では3度のJ1リーグ優勝に貢献し、クラブの外国籍選手史上最長となる在籍の記録を持つ。広島発祥のパン屋「アンデルセン」や、広島の知る人ぞ知るピザハウス「ピッツァリーヴァ」を「マイキッチン」と呼ぶなど、心から広島を、そして日本を愛した。

(FOOTBALL ZONE編集部・小田智史 / Tomofumi Oda)



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