男子と比べてハンデなし…「美しい」女子サッカーが秘める可能性 本来の魅力を掘り起こせばファンも増える【コラム】

女子W杯に挑むなでしこジャパン【写真:Getty Images】
女子W杯に挑むなでしこジャパン【写真:Getty Images】

女子サッカーは男子とは違った魅力をアピールする必要があるのではないか

 女子ワールドカップ(W杯)が7月20日に開幕、1か月間にわたってオーストラリアとニュージーランドで世界一を争う。この大会の放映権が話題になった。開幕1か月前になっても売れ残っていたからだ。最終的には落着したものの、一時はFIFA(国際サッカー連盟)のジャンニ・インファンティーノ会長の「女子サッカーへの侮辱だ」という発言もあった。

 インファンティーノ会長は男女均等というグローバルスタンダードに訴えたのだろうが、的外れだと思う。女子W杯放映権の売れ行きが良くなかったのは、そもそもFIFAが設定した値段が高すぎたからだ。少なくとも市場価値には合っていなかった。

 ただ、FIFAの値段設定を置いておくと、女子サッカーにそこまでの人気がないという問題点はあるかもしれない。

 欧州では女子サッカーの人気も上がってきているというが、もともとコンテンツとして男子サッカーに比べると不利なのだ。身体接触のある競技であり、スピードとパワーが年々強化されている男子サッカーとは同じ水準になりようがない。純粋に競技力に差がある。

 もちろん女子が男子と対戦するわけではないので、競技力の差は直接関係がないのだが、同じサッカーを観る立場からすると物足りないと感じても不思議ではない。仮にそうだとするなら、女子サッカーは男子とは違った魅力をアピールする必要があるのではないか。

 例えば「美しさ」。美しいサッカーという魅力は男子と比べてなんのハンデもない。

 フィギュアスケートは技術と美しさに特化した競技で男女ともに人気がある。羽生結弦がスーパースターだったが、彼の魅力も美しさだ。しなやかさや優美さが競技力につながるフィギュアは女性的な競技とも言える。器械体操の女子も男子とは違った美しさ、魅力がある。一方、サッカーやラグビーは美しさで勝敗が決まるわけではない。

 女子サッカーに関しては、どれだけ男子に近づけるかが勝負という現実がある。ただ、そこで競争しても当面男子を上回るのが無理なのは分かりきっている。

「速すぎず、技巧的で、賢く、美しいサッカー」の人気と需要

 美しさは勝ち点にならないから、それを追求するのは無意味にも思えるかもしれないが、人気という面で考えると美しいサッカーはそれなりの需要がある。

 かつてW杯で優勝した時の日本女子代表(なでしこジャパン)は「バルセロナのようだ」と称賛された。スピードとパワーで押し切ろうとするライバルを相手に、技術と美しいパスワークで対抗していた。人気があったのは世界一になったからだけれども、プレー内容の美しさもけっこう大きかった気がする。

 男子プロサッカーは今や巨大ビジネスとなっていて、プレーの美しさにかまける余裕などない。ヴィッセル神戸は掲げていた「バルセロナ化」をついに捨ててしまった。今季は首位争いをしていて方向転換は正解だったわけだが、美しい理想を貫くのはなかなか難しく、世界中どこでも事情は同じだろう。それだけに稀に出現する美しくて強いチームは絶賛される。「美しく勝利せよ」と言い、実行したヨハン・クライフ監督はそれだけでも偉大だった。

 女子サッカーが目指す方向性は今のところ男子の後追いかもしれないが、むしろ美しいサッカーを目指したほうが男子の失いつつある魅力を獲得できるのではないか。速すぎず、技巧的で、賢く、美しいサッカー。男子を反面教師として、サッカーが本来持っていた魅力を掘り起こしてくれると、観たいと思うファンも増えるような気がするのだが。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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