町田はアンチフットボールなのか? “東京クラシック”で対戦した城福監督の発言の真意

町田のプレーを検証【写真:(C) FCMZ】
町田のプレーを検証【写真:(C) FCMZ】

【識者コラム】町田と東京Vは反則数などから見るとJ2でも「クリーン」に分類

 7月9日に国立競技場で開催されたJ2リーグ第25節の1位・2位対決、FC町田ゼルビア対東京ヴェルディは2-2の痛み分けとなった。試合は町田が前半2点を先行するが、後半に入って東京Vが盛り返して同点となった。

 だが、試合後、大きな話題となったのは東京Vを率いる城福浩監督の発言だった。

「時間を分断する行為がものすごく多いというのは、J2を戦ったうえで感じている。自分たちのリードで極端にそれが出てくるチームと、自分たちがリードしてもほとんど変わらないチームがあり、我々は後者だと思っている。変わらないチームのほうが少ない」

 この「時間を分断する」という言葉と試合後に城福監督が激怒の表情を見せていたことで、町田がファウルを重ねたり、倒れて時間稼ぎをするチームなのだというイメージがついたかもしれない。果たしてその印象は正しいのか、城福監督は何を意味していたのか。

 そもそも東京Vと町田はクリーンにプレーしているのか、ということから検証していく。

 J2リーグ第25節を終えた時点で、東京Vの反則数は合計325のリーグ8位、一方の町田は合計346でリーグ15位タイ。ただし、1試合あたりの反則数は東京Vが13回なのに対して町田は13.8回と1回程度の差しかない。警告数は東京Vが合計29回、町田は合計30回、それぞれリーグ6位と7位タイと、こちらも大きな差がない。

 では、両チームの25試合分の記録から、試合ごとの直接フリーキック(FK)の数を調べてみる。対戦相手の直接FKの数は、東京Vと町田がどれくらい反則を仕掛けているかの目安になるだろう。すると、東京Vは合計292回、町田は合計293回。こちらも差はなかった。

 唯一の違いは、東京Vと相手、町田と相手の直接FKの数を1試合ごとに比べてみた時のデータだ。相手よりも直接FKの数が多ければ、相手はファウルを仕掛けてきたけれども自分は仕掛けていないという目安にすることができるだろう。

 そうすると、東京Vは15試合で相手よりも多くの直接FKを獲得し、町田は10試合だった。ただ、この程度ということは、両チームの反則の質には大きな違いがあるとは言えない。また、両チームとも反則数などを考えると、J2リーグの中ではクリーンなほうに入る。

城福監督に町田や黒田監督を非難する意思はなし

東京Vの城福浩監督【写真:Getty Images】
東京Vの城福浩監督【写真:Getty Images】

 両者が激突した5月13日のゲームでは、町田に2枚の警告が出たものの、東京Vは警告2枚で退場する選手が出た。7月9日のゲームでは町田に警告が出なかったが、東京Vには3枚の警告が出ている。この数字からだけ見れば、むしろ町田のほうが反則を仕掛けていない。従って、「町田はひどい反則をする」というのは完全な間違いだ。

 では、もう1つの「時間を分断する」、つまり時間稼ぎをするというのはどうだろうか。

 Jリーグの公式記録には警告を受けた選手名とともに、どんな反則で警告になったのかという記載がある。そのなかで「C5」というのが「遅延行為」を意味している。

 25試合のうち、東京Vに「C5」の警告が出されたのはアウェーの第20節ファジアーノ岡山戦での1回のみ。町田は5回あるが、そのうち3回が退場者も出したアウェーの第9節ジュビロ磐田戦に集中しており、その1試合を除くと数としては多くない。

 また、7月9日の町田対東京Vに関しては東京Vに警告が3枚出されていて町田にはゼロだったということを考えると、町田の選手が反則を受けて痛くて倒れていたのではないか、という推論も成り立つ。

 もちろん、先行して、アウェー大分トリニータ戦の激闘のあとに移動し、中2日で戦う町田はファウルがあればゆっくりして体力を回復させたかったのではないか、という推論も成り立つだろう。ただし、その行為が極端でなかったから「C5」の警告は出されないので、レフェリーの許容範囲内だったと言える。つまり町田が時間稼ぎばかりをしているチームと断罪することはできない。

 黒田剛監督とすれば、なぜ自分に非難が浴びせられるか納得できないはずだ。記者会見から引き上げていく黒田監督がなんとなくやるせない表情をしていたように見えた。

 そうなると、もう1つ考えなければいけない点がある。城福監督の発言は町田に向けられたものだったのか、ということだ。実は町田戦の前のV・ファーレン長崎戦でも監督は同様の発言をしており、さらにもっと前から同じような主張を繰り返してきた。真意を探るべく、城福監督に質問してみた。

——町田戦のあとの会見の発言は、町田や黒田監督に向けられたものだったのか。

「いや、あれは町田さんや黒田監督を特別非難するというものではありません。(リーグとして)目指そうということを言ったつもりでした」

——目指すところ、とは?

「7、8年前から『アクチュアルプレーイングタイム(以下APT)』を大事にしようと言い始めたと思います。それは、日本人は身体的にも精神的にも持久力があるので、『APT』が延びれば世界への武器になると思っているからです。プレミアリーグは『APT』が60分程度で、我々もそこを目指しているのですが、J2リーグだと40分台が多く、30分台というのもすごく珍しいわけではありません。それぞれのサッカーの指向と戦力、戦い方、考え方があるのは全く問題ないと思います。それでも『APT』はどうなってるのかと思いながらずっとやっていました。

 天皇杯(3回戦)のFC東京戦では我々もロングスローを行いましたが、ロングスローを武器にするチームだと1回ごとにスロアーが逆サイドまで行ってボールを拭いて、センターバックが上がっていって、と、長い時には40秒ぐらいかかることがあるんです。しかもコーナーキックと違って10回、20回とあるわけですね。

 自分たちが勝ってる時と負けてる時と(プレー再開までの時間が)極端に違うというのは、多少は仕方ないです。けれど、度が過ぎないようにはするべきではないのかなと思います」

先制点を奪えない課題が、相手が時間を分断してくる一因に

 一方で、東京Vには相手チームが時間をゆっくり使いたくなるような弱点がある。それは、ここまでの25試合のうち先制した試合が13試合しかないことだ。リードした相手は当然残り時間を削ろうとしてくる。

——今年の東京Vは先制点をなかなか奪えないというのも、相手が時間を分断してくる原因になっているのではないか。

「そのとおりです。だから会見でも『(相手が時間を分断するのは)自分たちの問題』と言っています。主導権を早く握ることがストレスをなくす最大の要因だと思っています」

 城福監督は審判委員会にも「APT」を見てほしいと申し入れをしていたそうだ。その申し入れがあったからかどうかは分からないが、7月12日の天皇杯3回戦、横浜F・マリノス対町田では西村雄一主審が素晴らしいジャッジを見せた。

 ロングスローが行われようとすると、最初はじっくり観察し、次に時間について注意を与え急ぐように促した。また、ほかのプレー再開の場面でもスピードを要求し、その基準がはっきりしていたため、選手たちはどんどん攻守の切り替えの速度を上げていった。しかも遅延行為での警告は1枚しか出さなかったのだ。

 町田のプレーヤーは、そんな西村主審の判断に不満を漏らさず対応していった。もしも町田が意図的に時間を浪費しようとしていたならば、きっと強く反発して、試合を壊しにいっていただろう。そのことを考えても町田が「時間を分断する」ことを意識しているとは思えない。

 意図的に分断しようと思っていない両チームが対戦するのなら、「APT」を延ばしていこうと両者が意識したうえで、主審が上手く裁けば「APT」は延びる。町田と東京Vの対戦だったらきっとできただろう。

 そう思うだけに、町田対東京Vでつくづく残念なことが2つある。1つは連戦の最中ではなく、しっかりとしたコンディションで戦える日程だったら良かったということ。もう1つは、こんなに大切なことだから城福監督が怒りの感情を交えずに話してくれれば、もっと意図が伝わりやすかったのに、ということだ。ちょっと熱い感じなのが城福監督の持ち味でもあるのだけれど。

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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