なでしこジャパンW杯初戦「スタメン考察」 長谷川&長野コンビは当確、4ポジションで先発の座が流動的

W杯初戦のスタメンを考察【画像:FOOTBALL ZONE編集部】
W杯初戦のスタメンを考察【画像:FOOTBALL ZONE編集部】

【識者コラム】壮行試合パナマ戦のメンバーからW杯初戦のスタメンを考察

 なでしこジャパン(女子日本代表)はオーストラリア&ニュージーランド共催ワールドカップ(W杯)の壮行試合となったパナマ代表戦で5-0の勝利を飾った。今後はニュージーランドに飛び立ち、現地で調整して7月22日のザンビア代表戦に臨む。本格的にザンビア対策などをミーティングやトレーニングに取り入れていくはずだが、パナマ戦のメンバーから初戦のスタメンは大きく変わらないと想定される。

 現時点のチーム内での位置付けを考えると、GKは山下杏也加(INAC神戸レオネッサ)がファーストチョイスと見て間違いない。新潟の希望である平尾知佳(アルビレックス新潟レディース)、23歳の田中桃子(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)も力を付けているが、ベスト16で敗退した2019年のフランス大会でゴールマウスを守った経験やリーダーシップを見ても、池田太監督の信頼は厚そうだ。

 3バックはキャプテンでもある熊谷紗希と左の南萌華(同じくASローマ)はほぼ決まっているが、右は流動的だ。パナマ戦でスタメン起用された20歳の石川璃音(三菱重工浦和レッズレディース)もミスパスなどはありながら、守備面では安定感を見せていた。ただ、石川の同僚でWEリーグの終盤戦にようやく復帰した高橋はな(三菱重工浦和レッズレディース)も徐々に状態を上げている様子だ。そしてパナマ戦では出番のなかった三宅史織(INAC神戸レオネッサ)も含めて、ほぼ横一線と言える。

 ザンビアは世界最強クラスのFWバーバラ・バンダに加えて、左サイドには2022-23のスペイン女子リーグで25得点を記録したレーチェル・クンダナンジがおり、日本から見て3バック右のディフェンスはかなり生命線になってくる。身体能力が高く、コンディションも良い石川のポテンシャルに懸けるのも全く不思議ではない。

 現在のなでしこジャパンは3バックと言っても、状況に応じて5-4-1にして相手のスペースを埋めるなど、臨機応変なシステムを強みとする。右ウイングバックはパナマ戦で先制ゴールを挙げた清水梨紗(ウェストハム・ユナイテッド)が絶対的な地位を築いており、2番手として守屋都弥(INAC神戸レオネッサ)が控える。

 一方で左サイドはパナマ戦でスタメンの遠藤純(エンジェル・シティ)と杉田妃和(ポートランド・ソーンズFC)がレギュラーを争う構図だが、清家貴子(三菱重工浦和レッズレディース)もチームの中で重要性を高めてきている。もともと右サイドが主戦場と見られていたが、パナマ戦では左で起用されており、左からのパスで長谷川によるチーム4点目を演出した。積極的な仕掛け人でありながらサイドの守備も粘り強い。

 遠藤はウイングやセンターフォワード、杉田はボランチやシャドーもこなせ、左右ウイングバックを担える清家を合わせた3人が複数ポジションに絡んでいる。池田監督になってから最も多くの選手を試してきたポジションの1つだが、左利きを生かした縦の突破やフィニッシュの厚みを重視するなら遠藤、チャンスメイクにアクセントを加えるなら杉田が適役で、清家は守備の対人能力とここ一番の勝負強さがある。ザンビアの右サイドを担うチトゥンドゥは小柄だが俊敏で捕まえにくい。ただ、バンダやクンダナンジよりはスケールダウンする分、池田監督がバランスをどう考えて構成するか注目だ。

所属チームでトップ下の猶本光、シャドー起用がメインか

 ボランチは長谷川唯(マンチェスター・シティ)と10番の長野風花(リバプール)のコンビが安定しており、左右両足を器用に操る林穂之香(ウェストハム・ユナイテッド)が左右ボランチをこなせる選手として構える。猶本光(三菱重工浦和レッズレディース)もこのポジションで経験豊富だが、浦和ではトップ下が定位置となっており、池田監督もシャドーの一角で考えているようだ。

 もっとも猶本をシャドーに起用することで、試合の状況に応じて1つポジションを下げて、5-3-2のようにもできるし、ボランチとしての起用もできる。また猶本の場合はパナマ戦でも見せたようにコーナーキックやフリーキックのキッカーとして能力が非常に高く、W杯のような短期決戦では大きな武器になり得る。長谷川、長野、林の誰かを起用できない事態となれば、杉田がこのポジションで起用されるか、あるいは熊谷がボランチに上がるオプションもあり得るだろう。

 2シャドーは藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)と誰が組むかが開幕戦のポイントになる。猶本はもちろん有力候補だが、所属クラブのホームタウンである仙台で行われたパナマ戦で、スタメン起用された宮澤ひなた(マイナビ仙台レディース)には期待したいところ。宮澤はなでしこジャパンでも1、2を争う俊足だが、個人でガンガン仕掛けるというよりコンビネーションでの崩しを得意としている。

 藤野のほうが狭いエリアでも個人で破ろうとする意識は高いし、ミドルシュートであれば猶本の強みが出る。前からの守備というタスクは3人ともこなせるだけに、池田監督がどう見極めて、誰をスタメンに送り出すのか。勝負どころでは19歳FW浜野まいか(ハンマルビーIF)も面白いが藤野とともにU-20代表のエース格だった彼女もA代表のなでしこジャパンに入るとまだ線が細く、粗削り感は否めない。基本的には左シャドーのジョーカーとして終盤のチャンスに備えながら、インパクトを残せるかという大会になりそうだ。

1トップは植木、田中の争い…千葉の起用、2トップ採用の可能性も

 1トップはパナマ戦で抜け出しを得意とする植木理子(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)と万能性の高いFW田中美南(INAC神戸レオネッサ)が甲乙付け難いレギュラー争いを繰り広げており、ここが一番予想しにくい。守備のハードワークが求められるだけに、5枚交代枠でどちらがスタメンでも90分フルに出ることは考えにくい。

 基本的には植木がスタメンなら田中が、田中がスタメンなら植木が途中から出てきそうだが、ゴールが欲しい時間帯には千葉玲海菜(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)という勝負のカードがある。重心の低い高速ドリブルやパンチのあるシュートを武器に、WEリーグでは規格外のあるプレーをしてきた千葉の破壊力は世界でも通用し得るが、グループリーグであまり使いすぎると警戒されるので、池田監督としては戦略面も含めて、起用プランを考えていくべきだろう。

 また、なでしこジャパンは同じ3バックでも3-5-2のオーガナイズがあるので、田中と植木の2トップ、あるいは浜野を加えて力を高めることも可能だ。池田監督が3バック採用までメインに用いていた4-4-2もシンプルなサイドアタックから2トップがフィニッシュを狙う形には適している。その場合は宮澤や遠藤がサイドの仕掛け人として機能でき、右サイドであれば清水と清家を縦に並べるような形も可能だ。

 試行錯誤を繰り返しながらも、状況に応じてシステムや攻め方、守り方を変えられるのがチームの強みになってきている。それだけにザンビア戦、コスタリカ戦、スペイン戦、さらにラウンド16以降と、“ボールを奪う、ゴールを奪う”という基本コンセプトをベースにしながらも、対戦相手や状況に応じた選手選択を楽しみにしたい。そして大会の中でのチームの成長、選手の成長による変化も生まれてくるかもしれない。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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