J2前半戦「勢力図」 首位・町田が独走状態、自動昇格2枠&プレーオフ争いは混戦模様

2位の東京Vに勝ち点差10をつけている町田【写真:Getty Images】
2位の東京Vに勝ち点差10をつけている町田【写真:Getty Images】

【識者コラム】首位を独走する町田は当確予想、2位以下は例年通り混線か

 後半戦を迎えたJ2リーグでは、FC町田ゼルビアが圧倒的強さを見せ首位に立っている。「FOOTBALL ZONE」では、「前半戦通信簿」と題してJ2クラブの前半戦をチームごとに考察。町田を筆頭に、J2リーグの各チームの現状を整理していく。(文=河治良幸)

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 J2リーグは25試合を終えて、残るは17試合となったが、黒田剛監督が1年目のFC町田ゼルビアが勝ち点54で首位を独走中。2位に勝ち点44の東京ヴェルディ、同勝ち点でジュビロ磐田が3位に付けている。

 J2の昇格戦線を展望する場合、2つの勢力図の見方が必要になる。自動昇格の2枠を争う勢力図とプレーオフ圏内であるトップ6を争う勢力図だ。すでに折り返しを過ぎて、残り17試合となったので、ここから大変動はあまり考えにくい。もちろんJ2は過去にもたとえば2020年のアビスパ福岡が一時17位まで下がったところから破竹の12連勝で、一気に首位までジャンプアップし、最終的に2位で自動昇格するなど、大逆転がない訳ではない。ただ、それは奇跡的な事例と見るべきだ。

 筆者の基準としては勝ち点10差というのを1つの逆転の射程距離と見ている。そうなると順当なら、首位の町田を逆転しうるのは2位のヴェルディと磐田だけで、しかもギリギリということになるが、町田の場合はJ2優勝やJ1昇格という経験が無いので、クラブとしては未知数な戦いになってくる。

 そうは言っても高校サッカーの名将である黒田監督とJ1のサガン鳥栖を率いた経験を持つ金明輝コーチのコンビで、しかもライバルのヴェルディから黒田監督の教え子であるMFバスケス・バイロンを引き抜き、FC東京からサイドバック(SB)の鈴木準弥を獲得するなど、補強に余念もない。よほど大きなアクシデントや複数クラブの大躍進が無ければ、昇格の2枠を逃す可能性は低いと見ている。

東京Vは悲願の昇格に大きな可能性、夏の補強禁止の磐田にも好材料あり

 首位の町田が独走状態にあることを前提として、昇格の2枠に視点を向けると、10位のファジアーノ岡山まで、勝ち点10差に収まっており、終盤まで混戦が予想される。ただ、その中で尻上がりにチーム状態を上げているチームと、前半からこの位置にいるチームでは違いがあると見ている。

 ヴェルディは序盤から良いチーム状態をキープしてきた。ただ、ここまで現在5位の大分トリニータ、6位の清水エスパルス、7位のV・ファーレン長崎、そして順位こそ12位と13位だが、昇格の有力候補と見られていたベガルタ仙台とモンテディオ山形に敗れており、首位の町田とは1分1敗など、昇格ライバルとの直接対決にあまり勝てていない。バイロンは町田に移籍したが、J1鹿島からFW染野唯月、名古屋からMF甲田英將というパリ五輪世代のタレントを育成型期限付き移籍で加えており、悲願の昇格に向けた推進力になれるか期待される。

 ジュビロ磐田は元日本代表コーチの横内昭展監督が率いており、鹿児島キャンプから個人戦術の引き上げに取り組んだ。そのためチーム完成度を上げるのに時間はかかったが、ルヴァンカップ参加による過密日程で選手層を引き上げ、中3日や中2日でターンオーバーしても勝利を狙えるチームになってきている。ネックはFIFAのペナルティにより夏の補強ができないことだが、序盤戦はなかなかリーグ戦に絡めなかった古川陽介が着実に成長を見せ、5月11日に出場停止が明けたFWファビアン・ゴンザレスも調子を向上。またセンターバックの山本義道がツエーゲン金沢へ移籍した一方、同じポジションの森岡陸の実戦復帰が決まるなど、補強に等しいトピックも多い。

 磐田は8月12日に町田との直接対決も残している。ここがJ2優勝の可能性をつなぐための大チャンスだが、現実的に2位以内で自動昇格を果たすために、現在4位のヴァンフォーレ甲府や静岡のライバルである清水から勝ち点3を取ること、最低でも勝ち点3を取られないことが重要になってくる。

乾貴士は今季7ゴール6アシストで攻撃を牽引【写真:徳原隆元】
乾貴士は今季7ゴール6アシストで攻撃を牽引【写真:徳原隆元】

甲府はACL参戦の負荷をどう乗り切るかがポイントに…タレント揃う清水に潜むリスク

 昨年の天皇杯王者でもある甲府は9月からスタートするAFCチャンピオンズリーグ(ACL)との戦いわけが鍵になる。クラブとしては歴史的なアジア挑戦となるが、もちろんJ1昇格を狙わないプランはあり得ない。篠田善之監督は吉田達磨前監督が植え付けたポゼッションのベースは引き継ぎつつ、組織的なショートカウンターを強化して、J2でも勝負強さを発揮してきた。メンバー的には2つのコンペティションを戦い抜けるポテンシャルはあるが、移動の負担なども加わるなかで、どう乗り切っていけるかが注目される。

 5位の大分トリニータは攻守のバランスが取れているが、ここまで30得点、31失点という数字の通り、ライバルより爆発力に欠けるところはある。またベンチの選手層も不安材料だが、J1サンフレッチェ広島から育成型期限付き移籍でやってきた鮎川峻はハイプレスと裏抜けに特長があるアタッカーで、大分に加速力をもたらしそうだ。

 6位の清水はタレントの爆発力という意味ではJ2ナンバーワンだろう。ただ、“ディスイズフットボール”で有名な秋葉忠宏監督が途中就任してからも安定感を欠くところがあり、昇格のライバルとの大一番の前後で、中下位の相手に、ポロッと勝ち点を落とすリスクがある。それでもハマると仙台などを圧倒できるパワーを備えているだけに、自動昇格を争うチームからすると、嫌な存在であることは間違いないだろう。大分には敵地で勝利したばかりだが、町田、ヴェルディ、磐田、甲府との直接対決を残しているのも大きい。

 自動昇格権から勝ち点10差以内という基準ではタレント力が高い7位の長崎、ここまで大健闘が目立つ8位のザスパクサツ群馬、昇格組ながら須藤大輔監督がJ2でも勝てるチームを作り上げている藤枝MYFC(来季のJ1ライセンスの審査結果は9月ごろに出る予定)、昨シーズン3位の岡山にもチャンスはある。ただし、あまり上を未過ぎず、まずは地に足を付けて“トップ6”の順位を確保しながら上を目指すというのがベターかもしれない。

プレーオフ圏内を争う最後の“ダークホース”は山口か

 プレーオフの権利を得る6位以内、いわゆる“トップ6”の基準で見ると、15位のジェフユナイテッド千葉までは範囲内となる。11位のロアッソ熊本は昨年、昇格プレーオフを勝ち抜き、入れ替え戦で惜しくも涙を飲んでおり、何とか“トップ6”に食い込めば機運が味方するかもしれない。仙台や山形もポテンシャルはあり、ここから夏の補強も含めて、ギアを一気に上げられれば“トップ6”に届く可能性は十分あると見る。

 また勝ち点10差以内の基準で見ると足りないが、16位のレノファ山口は元千葉のフアン・エスナイデル監督が途中就任して、初陣こそ甲府に4-0で大敗したが、その後は3勝2分、しかも5試合クリーンシートを続けており、上位にとって侮れない“ダークホース”になりそうだ。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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