ブラジル代表、なぜ欧州人監督を招聘? 「特性を尊重」に合致…名将アンチェロッティに求められる掌握術

カルロ・アンチェロッティ監督【写真:ロイター】
カルロ・アンチェロッティ監督【写真:ロイター】

【識者コラム】カルロ・アンチェロッティ監督がブラジル代表指揮へ

 来年のコパ・アメリカからカルロ・アンチェロッティをブラジル代表監督に招聘すると、CBF(ブラジルサッカー連盟)のエジナウド・ロドリゲス会長が明らかにしている。それまではフルミネンセの指揮を執る気鋭のフェルナンド・ジニス監督が兼任するという。

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 重視したのは「選手の特性を尊重したプレースタイルを見出せる監督」(ロドリゲス会長)だそうだ。

 これまでセレソンを率いた外国籍監督はほぼいない。実際には3人いるが、最長で19日間、最短で1試合なので、アンチェロッティが初と言って差し支えないだろう。

 なぜ今になって欧州人監督なのか。以前にジョゼップ・グアルディオラ招聘が話題になったこともあり、すでに欧州人監督待望論はあった。代表選手の多くが欧州でプレーしている。日々更新されていく最先端の戦術に適応している選手を率いるには、欧州トップクラスの監督が相応しいというわけだ。

 ただし、欧州でトップクラスの実績があれば良いというものでもない。これまでずっとブラジル人が監督を務めてきた理由もそこにある。

 ブラジル代表のスタイルが確立されたのは1958年のスウェーデン・ワールドカップ(W杯)。初優勝したこの大会で画期的な4-2-4システムを披露した。基本的にセレソンのスタイルはずっとこれである。ゾーンの4バック、2人のセントラルMFは守備的な第一ボランチ、攻撃的な第二ボランチに分けられている。突破力のあるウイングが1人、反対側はMFと兼任のワーキングウインガー。そしてCF(センターフォワード)と「10番」。表面上のシステムは4-3-3、4-4-2と変わっているが、求められるポジションごとの選手像と組み合わせに大きな変化がないのだ。

 セレソンを率いて最多勝利を挙げたマリオ・ザガロは、かつてこう話していた。

「どうプレーすべきか言われる必要のない選手たちとともにあることが重要だ」

 監督は「どうプレーすべきか」を言わないのが理想で、いわば戦術は選手たちの中にある。どうプレーするかはすでに分かっている選手たちに、事細かな指示はかえって邪魔なだけだ。ロマーリオに得点の仕方を教える必要はなく、ロナウジーニョやネイマールにドリブルの使いどころを説く必要もない。際立った個性を持つ選手たちを結び付けてチームとして機能するように調整するのが監督の主な仕事になるわけだ。

 すでに大まかな型が存在するので、それ以上に監督の考える型にはめていくのは得策ではない。CBF会長の言う「特性を尊重したプレースタイル」が監督選びのポイントになるのはそのためだ。その点で、何かに特化したスタイルよりも、選手に応じてまとめていく手腕に定評のあるアンチェロッティ監督という選択はさもありなんという感じではある。

 ブラジルが最後に優勝した2002年から、次回2026年大会で24年になる。ちょうど1994年に優勝したのが24年ぶりだった。4-4-2と3-5-2の可変システムを考案して欧州コンプレックスを克服したのが94年米国大会だった。欧州人監督のもたらす、おそらく小さくて大きな一手が、再びブラジルを世界一へ引き上げるのだろうか。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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