パリ五輪期待のFWは消化不良のシーズンに 今季スコットランドの日本人選手を査定、セルティック勢の評価は?
【識者コラム】セルティック勢、ハーツでプレーする小田も含めた5人を査定
スコットランド1部に挑戦する日本人選手は少なくない。元日本代表MF中村俊輔氏がかつて伝説となったセルティックには、現在も5人の選手が在籍している(小林友希は出場試合数を考慮して本記事では評価対象外)。そんななか「FOOTBALL ZONE」では、欧州でプレーする選手に焦点を当て、「海外組通信簿」と題し特集を展開。スコティッシュ・プレミアシップで今季プレーした選手たちを厳選し、査定を行った。(文=河治良幸)
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【評価指標】
S=抜群の出来
A=上出来
B=まずまずの出来
C=可もなく不可もなく
D=期待外れ
■古橋亨梧(セルティック) 評価:S
リーグ戦27得点。カップ戦を含めると30得点という成績は文句の付けようがない。アンジェ・ポステコグルー監督という日本人選手の良き理解者の助けはあるにしても、170センチというサイズのストライカーが、欧州有数の名門クラブでセンターフォワードを担うというのは革新的なことで、ある種、パイオニアとしての価値も非常に高い。この1年はセンターバックを外す動き出しに、とにかく磨きをかけてきたという古橋のこだわりはシーズン閉幕直後の代表戦でも発揮されている。新たなステージでの挑戦が予想されるが、彼ならば日本人FWが開けられなかった扉も開けてくれるはず。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)での得点というのも残された宿題の1つだ。
■前田大然(セルティック) 評価:A
同じ日本代表FWとして、古橋と比較されがちだが、セルティックではすでにサイドアタッカーとしての新境地を開拓しており、8得点だけでなく5アシストという数字が、スタイルの変化を証明している。元々ポジションがサイドであっても、瞬足を生かして斜めに飛び出したり、サイドを抉る場合もランニングで縦パスを引き出すのが主体だった。しかし、現役時代に“オズの魔法使い”の異名を取ったコーチのハリー・キューウェル氏から直々にドリブルの指導を受けて、個の突破力をバージョンアップさせた。それに伴い、カットインからミドルシュートを狙う意識も強まった。飛び出しとドリブル突破を上手く使い分ければ、さらなる高みに行けるかもしれない。
■旗手怜央(セルティック) 評価:A
6得点8アシストという結果が示すとおり。古橋との比較で「A」評価にはしたが、スコットランドリーグの攻撃的MFとしては最高ランクの輝きだった。4-3-3の左インサイドハーフはホットゾーンで、ワンタッチ、ツータッチのシンプルなつなぎからドリブルで剥がすプレー、ワンツーで前に出ていく動きなど、川を泳ぐ魚のように躍動している。攻守の切り替わりで、即時奪回につなげるプレスも加入当初より、磨かれてきている。ボールを保持する時間が長いセルティックにおいて、大きな困難に直面することはほぼない。CLというステージはあるが、5大リーグでのチャレンジというのも十分に相応しい。
シーズン途中加入の岩田は苦戦した面も…ハーツ小田は最終節で意地のゴール
■岩田智輝(セルティック) 評価:B
2022シーズンのJリーグMVPとして鳴り物入りで“恩師”の率いるスコットランドの名門に加入。いきなりの活躍も期待されたが、やはりシーズン途中からの欧州初挑戦というのは簡単ではなかった。基本的にボールを持つ時間が長いチームで、どちらかと言えばボールを奪って攻撃リズムに乗るタイプの岩田がある意味、中盤で浮いてしまう時間帯もある。ボールを軽快に捌きながら、どんどん前に出ていく旗手ともタイプが違うので、岩田なりの関わり方を示していく必要がある。終盤はディフェンスラインの主力選手に怪我人が出たこともあり、マリノスでメインだったセンターバックで起用されて、スコティッシュ・カップ決勝では守備でもチームを支えた。フィジカル面でも負けていないが、次期監督の下でさらなる進化を遂げ、日本代表でも有力候補になっていくには中盤のアンカーなどで重用されていくのが理想か。
■小田裕太郎(ハーツ) 評価:C
ヴィッセル神戸から海を渡った当初は思うように出場機会を得られなかったが、シーズン終盤にスティーブン・ネイスミス監督の評価を得て、ラスト6試合はスタメン起用された。最終節ではロングスローの流れから左足で叩き込む念願のゴールを記録。シーズンとしては最高の形で締めくくり、欧州遠征を行ったU-22日本代表の活動にもつなげた。縦の突破力があり、4-2-3-1の右サイドが主戦場になるが、本質的にはストライカーであり、セルティックでゴールを量産した元同僚の古橋にもライバル心を隠さない。スコットランドの場合はセルティックとレンジャーズの“二強”が抜けた存在ではあるが、ハーツも4回のリーグ優勝を誇る名門であり、小田が次のシーズンでエースに君臨できれば大きなステップにつながりうる。パリ五輪に向けても飛躍が期待されるシーズンとなる。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。