遠藤航が安堵の一言「ファンを喜ばせることができて良かった」 シュツットガルト1部残留劇の舞台裏【現地発コラム】

シュツットガルトを1部残留に導いた遠藤航(右)【写真:Getty Images】
シュツットガルトを1部残留に導いた遠藤航(右)【写真:Getty Images】

ハンブルガーとの入れ替え戦、第2戦は出鼻をくじかれる展開に

 ブンデスリーガ2部・3位のハンブルガーとの入れ替え戦に臨んだ1部・16位のシュツットガルトは、2戦合計6-1で勝ち切り、無事1部残留を果たした。日本代表MF遠藤航、DF伊藤洋輝は2試合ともにフル出場。元日本代表MF原口元気は2戦目でベンチ入りしたが、出場はなかった。

 第1戦を3-0勝利と結果だけではなく、内容でも圧倒したシュツットガルト。それだけによほどのことがない限り、残留できるとファンも思っていたことだろう。だが、ハンブルガーにしても諦めるつもりは全くない。第2戦の開始早々、ソニー・キッテルの見事なミドルシュートで先制したハンブルガーが、ギアをさらに踏み込んで押し込もうとする。シュツットガルトは出足の鋭さで完全に出鼻をくじかれた。

 そんな最中の前半9分には遠藤が激しい交錯プレーで倒れこんだのだから、シュツットガルトファンはその瞬間相当の不安を感じたことだろう。嫌な流れが続くとハンブルガーの勢いはさらに増してしまう。それだけに遠藤が無事ピッチに戻ってきた時のファンからの声援は凄かった。

 ただシュツットガルトが押し込まれる展開は変わらない。第1戦と真逆の関係性だ。カウンター対策も取られている。前の選手が振り向けないまま時間が過ぎていく。遠藤はこの時間帯を次のように振り返っていた。

「そんな簡単な試合になると思ってなかった。立ち上がりのところで失点はしたくなかったんですけど、1-0になってからは落ち着いてたというか、2点目を取られないことを考えてやれてたと思う。もちろんゼロで抑えたかったですけど、2点目取られなかったのは大事だったと思います」

 相手の攻勢を受けながらも、遠藤の対処は冷静だった。ハンブルガーはビルドアップからしつこいくらいつなぐ。センターバック(CB)の1枚がボランチの位置に上がったり、サイドバック(SB)がハーフスペースに入ったり、ウィングがSBの位置まで下がってきたりと、しきりにポジションチェンジを繰り返しながら、パスの出口を作り出そうとする。どのように対処すべきか。第1戦のあとに遠藤は次のように説明してくれていた。

「自分が真ん中にどっしり立って、相手のCBとかSBがパスを入れてきたところに対して自分があたるようにしていた。FWの選手についてこさせるだけじゃなくて、自分がそこに対してプレッシャーに行くのを意識していた。それがハマったシーンが何回かあった」

狙いが上手くハマってゲームを掌握、試合後にビール瓶を持って喜び露わ

 ハンブルガーのビルドアップ種類が豊富なのは確かだが、一方でボールを奪われることを想定した立ち位置になっていないため、奪った瞬間に上手くカウンターのスイッチを入れることができれば好チャンスにつなげることができる。遠藤の狙いもそこにあった。

「そこがハンブルクのウィークポイントだったと思う。奪えばチャンスっていうのは分かっていたというか、みんな頭に入れながらやっていました」

 そして第2戦のゲームプランにもその狙いはしっかりとプログラミングされていた。ただ「前半ウチらも前に行く、プレッシャーをかけに行きたいところで、なかなかそこがハマってなかったというのがあった」(遠藤)ため、ハーフタイムに修正を施したという。

 遠藤が「後半のほうがコンパクトにしながらカウンターを狙うのはあった。それが上手くハマってたと思いますね」と振り返ったように、後半に入ると守備ラインと中盤の間のスペースが上手くコントロールされ、前線選手のポジショニングも相手DFに簡単に縦パスを出させないような位置を確保。その結果、遠藤のところで上手くボールをインターセプトするシーンが増えた。

 後半早々に遠藤を起点に同点ゴールが生まれると、そこからはシュツットガルトがゲームの流れを掌握。終わってみれば危なげなく3-1で2戦目も勝利。試合後にはファンと一緒に残留劇を喜び合った。何度も何度も拍手が送られる。

 試合後のミックスゾーンで取材陣の質問に答える遠藤の背後に上半身裸のままビール瓶を持って笑顔を見せるチームメイトやスタッフの姿があった。

 遠藤に「一緒にビールで乾杯したんですか?」と尋ねてみたら、「いや自分はあんまり。渡されたのでそれはずっと持ってましたけど。飲んでないですね」といって笑った。

「とりあえず良かったっていうほっとした感じはある。ファンは今日もすごいみんなね、応援に駆けつけてくれてすごいいい雰囲気を作ってくれてた。最終的にファンを喜ばせることができて良かったです」

 ファンたちはきっとハンブルクの夜に美味しいビールを何杯も飲んだことだろう。クラブを救った戦士のプレーを思い返しながら。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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