マンCが提示する“最先端戦術” 「非本職起用」「五角形ビルドアップ」が新たなトレンドに?

ジョゼップ・グアルディオラ監督が用いた”最先端技術"とは?【写真:ロイター】
ジョゼップ・グアルディオラ監督が用いた”最先端技術"とは?【写真:ロイター】

バイエルン、レアルを粉砕した「3-2-2-3」の新システム

 2022-23シーズンにサッカー界を席巻したのは、紛れもなくマンチェスター・シティだろう。プレミアリーグとFAカップを制し、残すはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝のみ。悲願の欧州制覇、そして“トレブル”(3冠)に王手をかけている。新エースの座に就いたノルウェー代表FWアーリング・ブラウト・ハーランドの、文字どおり“怪物的”な活躍ぶりにスポットライトが当たりがちではあるが、今季のシティの最大の変革は、ジョゼップ・グアルディオラ監督の新たなシステムにある。稀代の智将は、どのような“最先端戦術”を導入したのか?

 シティにとって今季のCLは、決して快適な道のりではなかった。準々決勝でバイエルン・ミュンヘン、準決勝ではレアル・マドリードと顔を合わせ、優勝候補筆頭の強豪との対戦が続いた。しかし、蓋を開ければ、バイエルンを合計スコア4-1、レアルを5-1で粉砕し、2シーズンぶりとなるファイナルへと駒を進めた。

 昨季王者のレアルに関しては、試合展開で劣勢を強いられても、驚異的な決定力で試合を制する勝負強さで欧州制覇を成し遂げたわけだが、今季はシティを相手にほとんどチャンスを生み出すこともできず、ワンサイドゲームで圧倒される格好となった。さらに興味深いのは、レアルとの2試合において、今季プレミアで36得点と1シーズン最多得点記録を樹立したハーランドはノーゴールに終わり、エース頼りのフットボールではないことを裏付けている。

 バイエルン、レアルともニシティの攻略に失敗したのは、ペップが採用した「3-2-2-3」の新システムだングランド代表DFジョン・ストーンズを“偽CB”としてボランチに配置。ビルドアップ能力に長けたストーンズを1列上げることで、自陣に「3-2」の五角形を生み出した。リンクマンを務めるスペイン代表MFロドリをマークする対戦相手に対し、ストーンズがドリブルで前線に運ぶプレーなどが非常に効果的な攻撃となり、フリーマンのような立ち位置で、ペナルティーエリアへの侵入も積極的に見せている。

 これまでシティ対策として“ロドリ封じ”に取り組んでくる対戦相手が多かったなかで、ストーンズという“中継点が増え、潰しどころのない洗練されたビルドアップへと進化を遂げている。また守備面においても、ネガティブトランジション時にストーンズが最終ラインに入り込む形で、最終ライン全員がいずれも“CB適性”を備えたブロック形成が可能となっている。CBで固定されていた時期は、裏を取られるウィークポイントが目立ち、戦力外に追い込まれる期間もあったストーンズだが、中盤で起用される現在は、CBとしての球際の強さや、インターセプトの鋭い読みが遺憾なく発揮されている。

ジョン・ストーンズとイルカイ・ギュンドアンの立ち回りに変化【写真:ロイター】
ジョン・ストーンズとイルカイ・ギュンドアンの立ち回りに変化【写真:ロイター】

ストーンズのボランチ起用がチーム戦術の中核に

 とりわけストーンズの“偽CB”起用の恩恵を受けているのが、ドイツ代表MFイルカイ・ギュンドアンだろう。主にアンカーやインサイドハーフでプレーするギュンドアンだが、ロドリとストーンズによるダブルボランチ化により、これまで以上にゴールに近いプレーエリアとなり、アタッカーとして立ち回る時間が明確に増加した。6月3日に行われたFAカップ決勝のマンチェスター・ユナイテッド戦(2-1)でも、全2ゴールを記録する決定的な働きを示した。

 また、シティはこれまでウインガーにイングランド代表MFフィル・フォーデンやアルジェリア代表MFリヤド・マフレズのようなデュエルに長けたアタッカーを起用してきたが、現在は突破力以上にボールキープ力に長けたイングランド代表MFジャック・グリーリッシュやポルトガル代表MFベルナルド・シウバをワイドで起用している。ビルドアップ時に両者がウイングバックのポジショニングを取ることで「3-2」を形成する後陣をサポートする役割を担っており、ロドリとストーンズのボランチによるゲームメイクから逆算されたチーム構成が整っている。

 CLファイナルを目前に、英紙「デイリー・メール」はストーンズのコメントを紹介している。現在の“偽CB”のタスクについては「驚いてはいない。若い頃から、中盤でもプレーできそうだと言われてきた。今では、センターハーフとしてプレーするのも、今任されている役割も、本当に大好きだ」と言及しつつ、ペップの“見極める力”を称えている。

「こういったことができると、自分自身に証明することができた。自分でも分かっていなかったが、監督は僕の潜在的な特質を見抜いていたのかもしれない。結局は、チームの勝利のために自分には何ができるのかを示すことが重要で、それによってチームメイトがどんなプレーを求めているのか理解できるようにもなった。僕は今、中盤でプレーしているから、中盤の選手が僕にどのようなパスを望んでいるのか、分かっているよ」

トレント・アレクサンダー=アーノルドもボランチコンバートで躍動【写真:ロイター】
トレント・アレクサンダー=アーノルドもボランチコンバートで躍動【写真:ロイター】

「非本職起用」「五角形ビルドアップ」が今後のトレンドとなる可能性も

 ペップが取り組んでいる”最先端戦術”を導入しているのはシティだけ、というわけではない。“偽CB”ではないが、リバプールも非常に似通ったシステムを取り入れている。2022-23シーズンは大不振に陥ったリバプールだが、第30節のアーセナル戦(2-2)からイングランド代表DFトレント・アレクサンダー=アーノルドを右サイドバック(SB)からボランチにコンバートし、3-2-2-3システムに打って出た。

 リバプール不振の要因としては、アンカーを務めていたブラジル代表MFファビーニョの脇を徹底的に突かれる点にあったが、シティと同じく、自陣で「3-2」の五角形を形成し、ファビーニョの負担を軽減することに成功した。また、ビルドアップ時はストーンズのように、フリーマンの役回りをアーノルドが務めており、チャンス創出数が急増。ボランチ起用されたアーセナル戦から5試合連続の計6アシストを記録し、以降アーノルドのボランチ起用を固定すると、次節からリバプールは怒涛の7連勝を収めた。

 アーノルドはシーズン中、脆弱な守備対応が英国内で批判の的となっていたが、SBの役割から離れて中盤に配置されたなか、決定的な弱点が目立つ機会がなくなり、持ち前のキック精度が際立つ形で評価も再上昇している。本職だったSBとしての立ち回りも、ネガティブトランジション時は守備に活きている。ストーンズ然り、本職では弱点とされていた要素が、ポジション変更で強みに還元できているのだ。

 細かい点で言えば、ストーンズとアーノルドに求められているタスクはそれぞれ異なる。しかし最終ラインが本職の選手をボランチ起用することで、守備の危機管理を施しつつ、ビルドアップ時は対戦相手にとって捕まえにくい存在となるシステム戦術は、シティが欧州制覇を達成すればもちろんのこと、来季以降、全世界で急激にトレンドとして普及していく可能性を秘めている。

(城福達也 / Tatsuya Jofuku)



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