日本代表DF瀬古歩夢、22歳の新境地「見える景色も違う」 欧州で好感触と新発見「やってみて良かったなって」【現地発】

グラスホッパーで戦う瀬古歩夢【写真:Getty Images】
グラスホッパーで戦う瀬古歩夢【写真:Getty Images】

【インタビュー】グラスホッパーでアンカーに抜擢、瀬古も手応え「全然ありかなって」

 スイス1部グラスホッパーに所属するDF瀬古歩夢は、3月のウルグアイ代表戦で日本代表デビューを果たし、6月シリーズ(15日エルサルバドル代表戦、20日ペルー代表戦)にも招集されている。着実に飛躍を遂げる22歳は今季リーグ戦31試合に出場したなか、「やってみて良かったなって」「新しい景色を見させてもらった」と、“新たな発見”について語っている。(取材・文=中野吉之伴/全3回の2回目)

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 選手にはそれぞれ自分が得意とするポジションがある。慣れ親しんだポジションだとピッチ上で目に入る景色はいつも似ているし、いつ、どこで、何を、どのようにするかが頭と身体にセットされているため、安心と信頼の下でプレーできる。適材適所で選手を起用すべきというのは、チーム作りにおいて基盤となる考え方なのは間違いない。

 一方、適正ポジションがどこかというのは、選手目線と指導者目線で異なる場合も少なくない。チーム全体のバランスと選手個々が持つ特性を考慮したうえで、システムや起用法、戦い方は決まってくるわけだが、時にその選手にとっては100%合致したポジションや起用法ではないとしても、チームとしてポジティブな影響をもたらすと監督が確信したら、そうした起用法に必然性が出てくる。

 スイス1部のグラスホッパーでプレーする日本代表DF瀬古は、今季途中にアンカーのポジションで起用されたことがあった。1試合だけではなく、3試合連続でだ。

 グラスホッパーのオフィスでインタビューをさせてもらった時、瀬古はその経緯と背景について話をしてくれた。

「ヴィンタートゥール戦(第24節)で試合途中からアンカーでプレーしたんです。それが結構ハマって、その試合にも勝ったんですね。監督がそれで気に入ったのかは分からないですけど、次の試合も同じ起用法でいったところ3連勝した。監督もいい感触を掴んだようです。自分的には、うしろでプレーしたいんですけど、ただプレーの幅を広げるというふうに考えると、全然ありかなって。自分にとってもまた(可能性が)広がっていくかなっていうのはあります」

CBとアンカーで感じた違いとは? 「どんなふうに見えているのか知れたのは大きい」

 アンカーとしてプレーし、見えた新しい景色はなんだろうか。瀬古は、センターバック(CB)とアンカーでどこに一番違いを感じたのだろうか。

「やっぱりプレッシャーのかかり方が違う。より周りを見ないといけないっていうところと、プレースピードをもっと上げないといけないなっていうのは感じる部分です。あと走る量が増えますね(笑)」

 ピッチ全体を見渡しながら攻守のバランスを考慮したポジショニングを取り、ボールを動かしていく。当然プレーの優先順位も変わってくる。アンカーの位置から見える景色を実感し、アンカーの選手がどんな思いでプレーをするかを知った経験は大きい。今後CBとしてプレーしていくうえで、プラスとなる学びもあったと明かしてくれた。

「やることが多くて、運動量も必要だから、やっぱりきついですよね。CBとしてプレーしていると『そこの消してほしいコースやスペースを消してくれたら助かる』というのがあるけど、アンカーからはどんなふうに見えているのか知れたのは大きい」

 試合において味方とのコミュニケーションは欠かせない。円滑なコミュニケーションを取るためには、その前情報として共通イメージを持てるかが肝心だ。同じシーンの話をしていても、異なるポジションから見たらそこに違う解釈があっても不思議ではない。そんな時、相手のポジションでプレーした経験があれば、共通理解を持ちやすくなる。

 瀬古のプレーで思い出すのは前シーズン終盤のバーゼル戦だ。90分間ほぼノーミスでプレーしていた瀬古だが、失点シーンだけ上手く対応することができなかった。ロングボールに対して味方と少しお見合い状態になってしまった結果クリアし切れず、そこから相手にフリーで突破を許してしまった。

「はっきりクリアしておけば良かったし、それでなんの問題もなかった。それが中途半端なクリアになって。非常にもったいない。でもいい勉強になりました」

 3試合のアンカー出場後、イエローカードの累積による1試合出場停止を挟み、第29節ヴィンタートゥール戦から再びCBにポジションを戻した。アンカーを経験したことで味方選手がどのような気持ちでボールに向かい、それに対して自分がどのような対応をすると互いに分かりやすく、明確なプレーができるのかがセットされているはず。これからのさらなる活躍を期待したい。

「新しい景色を見させてもらってて、うしろに帰ってきた時にまた見える景色も違う。考えるところが増えたかなって思っています。やってみて良かったなって」

[プロフィール]
瀬古歩夢(せこ・あゆむ)/2000年6月7日生まれ、大阪府出身。中泉尾JSC―セレッソ大阪U-12―セレッソ大阪U-15―セレッソ大阪―グラスホッパー(スイス)。2017年にC大阪最年少となる16歳11か月でトップチームデビュー。20年には史上4人目となるJリーグのベストヤングプレーヤー賞、ルヴァンカップのニューヒーロー賞の新人賞ダブル受賞。22年1月にグラスホッパーへ完全移籍した。19年のU-20ワールドカップに出場。21年11月に21歳でA代表初選出。23年3月のウルグアイ戦では22歳でA代表デビューを飾った。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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