レフェリーが判定に苦労したストライカーとは? 元主審・家本氏も驚いた日本人FWの才能「本当に視界から消えてしまう」

左から大迫勇也、小林悠、大黒将志氏、細谷真大【写真:Getty Images】
左から大迫勇也、小林悠、大黒将志氏、細谷真大【写真:Getty Images】

Jリーグで長年笛を吹いた家本氏が、タイプ別に日本人FWを挙げる

 サッカーでは、得点を期待される“ストライカー”と呼ばれる選手がいる。日本にもさまざまなタイプのFWが虎視眈々とゴールを狙うなか、「FOOTBALL ZONE」では日本人ストライカーに焦点を当てた特集を組み、多角的視点から考察。今回は元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏に元審判目線から日本人で印象に残るストライカーを挙げてもらった。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)

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「FWにもさまざまなタイプがいますよね」と語り始めた家本氏。最終ラインでの駆け引きが巧い「消える・裏抜けタイプ」やスピードで相手をちぎる「スピード特化タイプ」、身体を巧く使いボールを受ける「ポストプレータイプ」、自身でボールも運びさまざまな役割をこなせる「万能タイプ」など、それぞれの特徴を持った選手を順に挙げている。

 家本氏が現役レフェリー時代に感銘を受けたのは、欧州で多くの研鑽を積み日本に帰ってきたヴィッセル神戸の大迫勇也だ。大迫は「ポストプレーヤータイプと万能タイプを併せ持つ選手」として絶賛。「自分でなんでもできるし、前線で受けることもできる。理想的な選手ですね」とその能力の凄さをレフェリー目線で語った。

「主審をやっていて難しいのは、大きくてボールを受ける選手。DFもガンガンいくし、自分を有利にしたり味方を生かす潰れ役になったりします。どこまでを反則にしていいのか。どこまで待っていいのかは、怪我のリスクもあるし非常に難しい。やられるから、当然選手もイライラする。

 海外でのプレー経験がある大迫選手が凄いのは、相手から『削られる』という感覚を分かっているところだと思います。だから受け方が凄く巧い。ここは正対で受けたほうがいいのか、横で受けたほうがいいのか……。細かい技術が詰まっていますね。ポストプレーもできるし、自分で前に運ぶこともできるし、点を取れる。年齢とかいろいろな要素があると思うけど、間違いなく今のJリーグ選手では一番ですね。今季は結果も出ています」

駆け引きが抜群に巧かった佐藤寿人氏と大黒将志氏

 一方、最終ラインでの駆け引きが巧い「消える・裏抜けタイプ」では、サンフレッチェ広島などでプレーした元日本代表の佐藤寿人氏、ガンバ大阪や京都サンガF.C.などで活躍した大黒将志氏の2人を挙げ「群を抜いていた」と絶賛する。

「DFと駆け引きする選手、オフサイドポジションにわざといて、すっとオンサイドに戻って(視界から)消えてもう一回出ていく。オンとオフの切り替えが多い選手たちです。それは副審からするとすごく難しい。まさに“副審泣かせ”の選手たちですね」

 現役時代、家本氏とともに戦ったほとんどの副審が「本当に視界から消えてしまう」と口々に話すという。「トップ副審がみんな言っていますが、素晴らしい意味での“嫌らしい”タイプです。副審は、ボールの行方を見ながらオフサイドラインを見なければならない。ふと一瞬ボールに気をやった瞬間に、さっきまでオフサイドポジションにいたはずの選手が、ふといなくなる」と情景を説明し、副審たちの苦労をおもんばかった。

「副審泣かせという点で言えば……」と家本氏がもう1つ挙げたのが、「スピード特化タイプ」だ。浦和レッズやアルビレックス新潟で長年活躍した元日本代表の田中達也氏や浅野拓磨(ドイツ/ボーフム)や前田大然(スコットランド/セルティック)を例に挙げ、「駆け引きの選手と抜群に足が速い選手は追い付かない」と審判にとっても“危険な存在”だと指摘している。

 そうした「消える・裏抜けタイプ」と「スピード特化タイプ」を併せ持つ選手として、セルティックの古橋亨梧、川崎フロンターレの小林悠の名前を出した。特に小林については「佐藤さんに近いですが、前田さんのような要素も兼ね備えた選手です。掛け算で成果を出している。両方の特徴を10のうち7とか8を持っている感じ。そういう意味で秀でていますね」とプレースタイルを考察している。

 今シーズンはここまでリーグ戦2ゴールとなっているが「本調子の彼は誰も止められない。点で合わせる、抜け出せる、スピードでも抜け出せる。非常に器用な選手です」と称賛の言葉を贈った。

鹿島FW鈴木は「面白い選手」、柏FW細谷は「個人的に大好きな選手」

 家本氏に注目のJリーグストライカーとして、鹿島アントラーズで背番号「40」を背負い得点を量産する鈴木優磨について聞くと「面白い選手」と所感を語る。「また大迫選手とはちょっと違う。大迫選手は高原(直泰)さんとか柳沢(敦)さんに近い印象です。鈴木選手にも同様の特徴がありますが、少しタイプが違うように思います」と話し「でも自分でなんでもできるので、大枠で万能の部類に入るのかな」と印象を明かしている。

 最後に家本氏は、今後期待の選手としてJリーグで活躍する「ポストタイプ」の町野修斗(湘南ベルマーレ)と細谷真大(柏レイソル)の2人の名前を挙げた。特に細谷に関しては「個人的に大好きな選手」と本心を明かし「ごりごりと行く感じでしっかり収めるし、DFにやられても行く。逞しいですよね」と称賛し「もう少し点が取れると乗ってくるかも」と将来の成長を1人のファンとして温かく見守っていた。

家本政明

いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。

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