遠藤航は「ワールドクラスのプレー」 ドイツ解説も大絶賛、降格危機シュツットガルトで際立つ日本人MFの貢献度【現地発コラム】

シュツットガルトでプレーする遠藤航【写真:Getty Images】
シュツットガルトでプレーする遠藤航【写真:Getty Images】

今季ブンデスリーガで16位フィニッシュ、2部3位との入れ替え戦へ

 日本代表MF遠藤航が昨季ブンデスリーガ最終節、ケルン戦の後半アディショナルタイムに起死回生の決勝ゴールをねじ込み、シュツットガルトが奇跡的な1部残留を遂げてから1年が過ぎようとしている。

 昨季の二の舞を避けるべく、今季は順調に勝ち点を積み重ねていきたいと誰もが願っていたことだろう。だがそんな思惑とは裏腹に、シュツットガルトは開幕から勝ち星がないまま下位で低迷。当時、スベン・ミスリンタートSDのペジェグリーノ・マテラッツォ監督に対する信頼は非常に厚かったが、最終的には解任せざる得なかった。

 10月半ばから暫定監督としてミヒャエル・ヴィマーが指揮を執ることになり、そこからのリーグ4試合で2勝。その後、ブンデスリーガで経験豊富なブルーノ・ラッバディアが監督に就くと、ウニオン・ベルリンからは元日本代表MF原口元気が加入し、残留争いに必要な刺激と戦力が加わったはずだった。だが、内容的に悪くない試合も少なくないなか、チャンスを生かし切れずに引き分けたり、もったいないミスからの失点で試合を落としたりしてしまう。

 結局、ラッバディアは第26節ウニオンとの試合を0-3で落とすとクラブを去ることとなり、代わりにやってきたのがセバスティアン・ヘーネスだった。ラッバディアは本職CB(センターバック)のウラジミール・アントンを右SB(サイドバック)、ウイングタイプのFWサイラス・カトンパ・ムブンパをCF(センターフォワード)で固定する起用法がファンに受け入れてもらえずにいたが、ヘーネスは適材適所での選手起用に加え、若手選手を積極的に出場させ、特にオフェンスに関してダイナミックで躍動感あるプレーを引き出せている。

 またシュツットガルトはアウェーで苦戦が続いており、昨シーズンはわずか1勝、今季も第32節終了時点で1勝止まりだった。そんななか、第33節マインツとのアウェー戦を4-1で勝利。残留に向けて大きな一歩を踏んだことで、ヘーネスへのファンからの評価は非常に高いものとなっている。ただ、最終節のホッフェンハイム戦ではホームで満員のサポートを受けながら、1-1の引き分け止まり。同節にレバークーゼンに3-1で快勝したボーフムにかわされ、2部3位との入れ替え戦に回る16位でレギュラーシーズンを終えることになった。

大事な時にチームを救うプレー、際立つ遠藤の存在感

 以前、ミスリンタートSDは次のように話していたことがある。

「我々はヨーロッパで最も平均年齢が若いチームだ。こうした状況で戦い抜く覚悟を持たなければならない。成長を目指し、明確な分析をしていくことが重要になる。明確なテーマと試合の状況を作り出すことが大切だ」

 試合運びの経験、試合の流れの作り方という点でまだまだ発展途上にいるチームだというのは分かるし、そうしたなかで成長を見せているのも確か。とはいえ悪くはないパフォーマンスのままでは、試合に勝ち切ることはなかなか難しい。

 そんなチームにおいて、キャプテンとして、そして中盤の要として遠藤がチームに果たしている貢献は非常に大きい。インテリジェンス高くピッチ全体の状況をスキャンし、最適なプレーを選択する。そのプレーは若手選手にとってこれ以上ない支えなのだ。

「やられて課題が出るっていうところが次につながると思っている。少しずつ良くしていくしかない」

 以前、遠藤はそんなことを話していたことがある。問題があってもすぐにすべてが解決できるわけではない。状況やエリアに応じて、いつ、どこで、誰が、どのように動くのか。誰かが動いたら、そのスペースを誰がどのようにカバーするのか。そうした意思疎通を練習、試合を通してクリアにしていく作業を重ね、決定的なプレーができるように取り組んでいるのだ。

 第33節のマインツ戦でチームを勝利に導いた遠藤のプレーをドイツのテレビ解説は大絶賛していた。

「走りながらこぼれてきたボールを前に運んで、トラップからダイレクトでアウトサイドボレーシュート! ワールドクラスのプレーだ。何度も繰り返して見たいプレーですね」

 誰が監督になってもキャプテンは遠藤だった。大事な時に必ずチームを救うプレーを見せてきた。失望が連続で襲ってきても苦しい顔を見せず、プレッシャーが積み重なっても視線は前を向いている。

 第13節ボルシアMG戦後にボランチでのプレーについて話してくれたことがあった。

「やっぱりボランチでプレーすると、攻守(の局面)で状況を変えていかなきゃいけない。奪ったあとすぐに裏のスペースを狙ったり、そうしたプレーを続けていくっていうところプラス、チームとしてさらにどうしたら点が取れるのか、どうしたらやられないのかを考えていければ」

 入れ替え戦(ホーム&アウェー)の相手はハンブルガーSVに決まった。かつて1部常連だった古豪クラブだ。簡単な相手ではない。遠藤を中心に“悪くはない”試合から“勝てる”試合へグレードアップさせるために、この決戦に臨みたい。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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