J1下位4チーム、巻き返しへの“ハードル難度”を考察 G大阪が危険水域に?…テコ入れ不可欠なポイントを検証

J1下位4チームの現状を考察【写真:徳原隆元 & Getty Images】
J1下位4チームの現状を考察【写真:徳原隆元 & Getty Images】

【識者コラム】下位4クラブの現状を踏まえ、巻き返しへのポイントをチェック

 J1リーグはシーズンのおよそ3分の1を消化した。首位のヴィッセル神戸(勝ち点29)と最下位ガンバ大阪(同7)の勝ち点差は大きく開くなか、下位クラブは果たしてどこまで巻き返せるのか。監督交代を決断した柏レイソルのようにテコ入れに踏み切ったクラブもあるなかで、ここでは下位4クラブの現状と残留条件を簡潔にまとめ、巻き返しへの“ハードル難度”を占う。

■15位:湘南ベルマーレ(勝ち点11/2勝5分5敗・21得点22失点)

 サガン鳥栖との開幕戦で大橋祐紀がハットトリックを決めるなど、アウェーで5-1勝利と最高のスタートを切り、しばらく得点数もトップだった。昨シーズンより改善されているのが、ゴール前における選手の入り方で、町野修斗のほかにも“ペナ幅”と呼ばれるゴール前の中央部に入ってくる選手が増えた。

 こうした経験がJ1ではなかったので、湘南の選手たちにも自信になっていたはず。ここまで7得点の町野というエースはいるが、基本的にどこからでも点が取れるという雰囲気は序盤戦の湘南から漂っていたし、山口智監督もそこは強みとして主張していた。

 現在も序盤戦よりペースが落ちたと言ってもコンスタントに得点は取れており、北海道コンサドーレ札幌、ヴィッセル神戸、横浜F・マリノスに続き、リーグ4番目の得点数となっている。しかし、同時に失点もしてしまうため、第7節のFC東京戦(2-2)以降、勝ちきれない試合が3つ続いた。ディフェンス出身の山口監督は基本的に攻守一体で考えているようだが、12試合で22失点という現実に向き合いながら、攻守のバランスを探っているように見える。

 ただ、1つ心配なのは札幌戦でも見られたように、流れを相手に持っていかれたところで歯止めが効かなくなってしまう体質だ。良いときは良いが、悪い時間帯を耐えてリズムを引き戻すことがなかなかできない。岡本拓也もベンチを外れている状況で“リーダーの不在”と言ってしまったら極端かもしれないが、選手間のコミュニケーションが足りていないことは杉岡大暉なども認めている。ある種の“嫌われ役”も含めて、90分のゲームコントロールに厳しさを持っていける集団になることが求められる。

 戦術的な課題で言うと、札幌戦のようにマンツーマンで来る相手に対して、ボールと人が動いて剥がすというプレーがあまり得意ではないように見て取れる。ここ4試合欠場している小野瀬康介はそこを解決するキーマンになり得るが、個人だけでなく全体で引き上げていくべき問題でもある。札幌戦で初めて90分プレーした奥野耕平にも期待が懸かる。

ネルシーニョ解任の柏、井原新体制で個々の特徴を生かした戦いを構築できるか

■16位:柏レイソル(勝ち点11/2勝5分6敗・8得点16失点)

 ネルシーニョ前監督の退任がクラブから発表されて、井原正巳新監督の下でリスタートを切ることになった。

 振り返ると、一時は首位に躍り出るなど、上位躍進した昨シーズン後半戦での失速が尾を引いてしまったように思う。もともと手堅い守備とアタッカーの推進力を押し出す速攻で結果を出してきたチームだが、マテウス・サヴィオや細谷真大を封じられると、攻撃が止まってしまうという課題を解決するために、山田康太や仙頭啓矢、高嶺朋樹といったクリエイティブなMFを獲得し、中盤を生かす4-3-3でスタートさせた。

 しかし、主導的にボールを動かす形も取り入れるなかで、得意だったはずのカウンターから失点を重ねるなど、チームが機能不全に。そこから前指揮官は従来の3バックに戻すなど試行錯誤を繰り返した。6試合勝ちなしで迎えた第7節の鹿島アントラーズ戦は4-4-2を採用。徹底した堅守速攻とカップ戦決勝のような集中力で、今季リーグ戦の初勝利を掴み取った。

 そこが転機になるかとも思われたが、シンプルに2トップのマテウス・サヴィオと細谷を生かす戦い方が問題の根本を解決することはなく、その後6試合で1勝3分2敗という結果に。最下位の横浜FCに0-1で敗れた直近の試合が監督交代の決定打となってしまった。ディフェンスリーダーだった高橋祐治をJ2の清水エスパルスに放出するなど、編成面でもリスクはあったかもしれない。

 ネルシーニョ監督の参謀だった井原新監督がガラリとチームを好転させられるとは考えにくいが、まずは選手に自信を取り戻させることだ。そして新たな競争を生み出し、ネルシーニョ基準で埋もれていたかもしれない選手を掘り起こすこと。いわゆる“解任ブースト”がレイソルにかかるかは不明だが、大事なのは前向きな空気が現場に広まることでもある。戦術的な構築というのは早急な根本解決とはならないだろうが、そこまでボール保持にこだわる必要性は感じられないだけに、まずはシンプルでも、今いる選手の特長を生かせる構築を目指してほしい。

■17位:横浜FC(勝ち点9/2勝3分8敗・10得点30失点)

 まず認識しておくべきはJ2で過ごした昨季も決して盤石だったわけではないということだ。最低限、勝ち点1を取れる試合運びというスタンスを打ち出し、手堅い守備で耐えながら、少ないチャンスを小川航基が決めるというパターンが多かった。

 四方田修平監督は開幕時からリアリスティックに勝ち点を拾うというより、ボールを保持して主導権を握る戦い方を選択した。第6節まですべての試合で、ボール保持率は相手を上回った。しかし、それがなかなか得点に結び付かず、逆に第3節から5節の3試合で10失点と、不安定な守備につながってしまった。

 ただ、ここに来て手堅い守備から入り、ロングボールも生かす形で、効率よく勝ち点獲得を目指す戦い方にシフトしている。この戦い方に徹すれば、降格1枠を回避できると踏んだうえで、あえて少し背伸びをした戦い方を選択したのではないか。割り切った戦い方で勝ち点を拾いに来るのは対戦相手からしたら嫌な存在かもしれない。チームの伸びしろを考えた場合、そうしたシフトチェンジがプラスになるとは言い難いが、J1に残留しないことには始まらない。逆にシーズン終盤で残留が見えてきたら、少し先を見据えた戦術に舵を切る可能性もある。

 同じ“昇格組”のアルビレックス新潟に比べてもメンバーの入れ替わりが多かった横浜FCだが、今季新戦力で主力に定着しているのが三田啓貴、ブラジル人MFユーリ・ララなど、かなり限られるのも問題だ。さらに、ここまで記録している10得点のうち、小川がPKを含む6得点と孤軍奮闘。良くも悪くもエースの決定力が生命線というチーム状況になっており、長いシーズンを考えてもリスクがある。

 怪我人を含めて、新戦力でここまでほとんど起用されていない選手を見ると後半に爆発するポテンシャルがありそうな名前も見られるが、2019年から3年間、横浜F・マリノスのスポーツダイレクターを務めた昼田宗昭GM(ゼネラルマネージャー)は夏の補強を画策しているはずだ。

今季からG大阪を率いるダニエル・ポヤトス監督【写真:徳原隆元】
今季からG大阪を率いるダニエル・ポヤトス監督【写真:徳原隆元】

G大阪はポヤトス監督を今季招聘も、ミスから失点を重ねる悪癖が散見

■18位:ガンバ大阪(勝ち点7/1勝4分8敗・13得点28失点)

 昨シーズンは大分トリニータで一時代を築いた片野坂知宏氏を監督に迎えたものの、ハイライン戦術を植え付けられず、シーズン終盤に率いた松田浩前監督(現・テゲバジャーロ宮崎)が4-4-2のゾーンディフェンスを構築。奇跡的なJ1残留に導いた。

 今シーズンは主導権を握るスタイルを実現するため、徳島ヴォルティスからダニエル・ポヤトス監督を招聘。ポジショナルプレーの概念を共有し、ボールを保持するだけでなく、位置的優位で相手ディフェンスを上回ることを主眼に、ここまで川崎フロンターレに次ぐ、55.7%のボール保持率を記録している。ちなみに前節の浦和レッズ戦(1-3)で後半に圧倒される前までリーグ1位だった。

 ただ、サッカーの試合というのはボールを持てば勝てるというものではない。しかも、自陣のビルドアップで相手のプレスに引っ掛けられてショートカウンターというのが1つの失点パターンになってしまっている。特に今年は首位を走るヴィッセル神戸を筆頭に、攻守の切り替わりから縦に早く攻めるスタイルが結果を出しているなかで、G大阪の縦のスピードは気になるところだ。

 組織的に設計された自陣からのビルドアップをベースにするのはいいが、それだけだと守備を固めてくる相手には手詰まりになってしまい、ハイプレスの相手には失点の温床になってしまう。

 ポヤトス監督が率いている限り、ここから堅守速攻に転換するようなことはないだろう。ただ、そろそろ遅攻と速攻のメリハリは必要かもしれない。なにより前線でのプレスがリーグ全体で見てもかなりルーズなのは気掛かりだ。欧州では意図的に引き込んで、自陣でボールを奪って繰り出すロングカウンターも見直されているが、数年前にG大阪でも見られたその形も鳴りを潜めている。あくまでボールを保持して相手を崩すしかないならば、崩し切るクオリティーやビジョンの共有が必要だ。

 苦しい時期だからこそ、粘り強くスタイル構築にこだわってほしい部分はありつつも、何かしら現実的なプランを取り入れないと、そのまま底に沈み続けるリスクもあるだろう。とにかく前線のプレスがルーズすぎる。今のままだと、相手は中盤の選手をビルドアップに参加させなくても済むので、高い位置で攻撃参加されてしまう。どのスタイルだろうが、そこだけは早急に見直すべきではないか。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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