浦和サポーターがそこにいれば… 「ACL=罰ゲーム」の揶揄も吹き飛ばす圧倒的な覇気と後押し

アウェーに駆けつけた浦和サポーター【写真:ロイター】
アウェーに駆けつけた浦和サポーター【写真:ロイター】

【J番記者コラム】サポーターとともに戦ってきた浦和、ACLで示した新たな価値観

 浦和レッズは、3回目のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)優勝を目指して、5月6日にアル・ヒラル(サウジアラビア)との決勝第2戦に臨む。かつて、この大会が「罰ゲーム」と揶揄されていた頃から、浦和はサポーターとともにクラブ全体で野心的に戦ってきた歴史を持つ。

 2002年にアジアのクラブ大会が統廃合されてリニューアルされたACLは、少しずつ拡大されて大会も整備されていったものの、その当初はリーグ戦の合間に行われる日程や移動の厳しさもあり、Jリーグの各クラブを応援するサポーターの間では「罰ゲーム」とすら呼ばれた。

 賞金も安く、移動を含めればクラブに赤字が降りかかるほどで大会の権威が高かったわけでもないが、05年度の天皇杯を優勝して07年大会への出場権を獲得した浦和は当初から違うスタンスだった。「浦和からアジアへ、アジアから世界へ」とスローガンを掲げ、厳しい日程のなかでも主力選手を出場させて、リーグ戦との両立を目指してアウェーへの移動にも万全を期した。

 例えば、グループステージで対戦したペルシク・ケディリ(インドネシア)は、インドネシアの国内でも飛行機を乗り継がなければ到着できないような地理のクラブだった。浦和は試合を終えた後の帰国に際し、ジャカルタまでのチャーター便を用意し、選手やスタッフ、関係者だけでなく、座席の数が許すだけサポーターも同乗した。

 セパハン(イラン)と対戦した決勝戦でも、同様に帰国へのチャーター機を手配。ドバイ経由で複数の機材を手配したものの予定の飛行機が到着しないトラブルも起こった。チームの帰国を優先するなかで1日遅れの帰国になったサポーターは、文句の1つもなかったという。

 このようなともに戦う姿勢に応えるかのように浦和は初出場にして初優勝を果たす。11月14日、埼玉県民の日にホームで行われた決勝第2戦は、立錐の余地もない超満員。その後、クラブ・ワールドカップに出場した浦和は準決勝でACミラン(イタリア)と対戦するなど奮闘し、3位の成績を残した。この戦いは、国内の各クラブにACLへのモチベーションを与え、日本のサッカーファンにもクラブレベルでアジアの戦い、国際大会に勝利することへの新たな価値観を示したと言えるかもしれない。

浦和とサポーターが見せるACLへのこだわり、要所で生きる蓄積された経験

 クラブの成績は浮き沈みがあるものだが、浦和とサポーターのACLへのこだわりは変わることがなかった。08年のベスト4敗退からしばらく出場権を得られない時期が続いた12年のリーグ最終戦、名古屋グランパス戦での勝利はリーグ3位フィニッシュを引き寄せて久々のアジアへのチケット獲得に沸いた。

 13年、15年、16年とグループステージ敗退が続くなかでも、試合日は平日のナイトゲームが大半ながら埼スタは戦う空気に包まれ、アウェーにもサポーターが駆け付けた。その継続的な戦いを経て、17年には2回目の優勝を果たす。アウェー移動のバックアップ、アジアサッカー連盟(ACL)との交渉、国際試合の運営など、チームの落ち着きは間違いなく蓄積された経験が生きているものだ。

 だからこそ浦和は、リーグ戦の成績が厳しいシーズンはACL出場権につながる天皇杯優勝に全力を傾ける。19年の準優勝、そして今回の決勝進出は、リーグ戦で中位に沈むなかでも天皇杯を制して獲得した出場権からつながったものだった。

 今では、AFCの各種SNSや海外メディアの記事でも浦和のサポーターは何度となく取り上げられるようになった。一般的にはコレオグラフィーと呼ぶが、選手の視覚に訴えるものという意味で、浦和サポーターが「ビジュアルサポート」と呼称して誇りを持つもののクオリティーも、さまざまな形で世界中のメディアで紹介されてきた。

 今回の決勝では、アウェーでの初戦に約700人のサポーターが駆け付けた。SNS上では「#サウジアラビア遠征」というハッシュタグも生まれ、渡航や滞在に役立つ情報を共有。日本時間で深夜だった試合にもかかわらず、本拠地の埼玉スタジアムではパブリックビューイングが実施されて、6919人のサポーターが見守った。そして、初戦の結果はエースFW興梠慎三が貴重なアウェーゴールを得て1-1の引き分け。多少のアドバンテージを得てホームに戻ってくる。

浦和のサポーターが作り出す“ピリッと引き締まった戦いの空気”

 アウェーでの1点よりも大きなアドバンテージは、浦和の背中にあるだろう。

 MF大久保智明は「アウェーの時も5万人が入っていて。ただ、レッズのサポーターの5万人とはわけが違うというか、どちらかといえばお祭りに来た感覚のサポーターが多かった。次の埼スタは6万人全員が戦ってくれると思う。サポーターの数はアル・ヒラルのほうが多かったけど、浦和レッズのサポーターは全員が戦っていた。相手のサポーターは失点したらおとなしくなるとか、ボールを持たれている時は盛り上がらないとかあったけど、レッズのサポーターは常に声を挙げて応援してくれた」と話す。

 そして「6万人で戦えば勝てると思う。最初の勢い、入りで一発ガツンといって相手をビビらせることができればいいし、先制点にこだわりたい。そこで取れれば、あとは埼スタが勝たせてくれると思う」と、その後押しの力を信じる。

 19年の準優勝だった時のスタジアムの空気感は、残念ながら少し緩んでいた。07年や17年の優勝時のような、ピリッと引き締まった戦いの空気を作り出す浦和サポーターがそこにいれば、すべてが可能になるのはすでに証明されている。

(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)



page 1/1

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング