三笘薫のルーキー時代「結構抜けてるところがあった」 プロ入り同期が語る知られざる一面

川崎時代の三笘薫【写真:Getty Images】
川崎時代の三笘薫【写真:Getty Images】

【インタビュー後編】寮生活、段違いな技術…三笘のルーキー時代を同期2人が回想

 イングランド1部ブライトンで躍動する三笘薫は、2020年の川崎フロンターレ入りから瞬く間に成長を遂げ、今や日本代表のエース候補にまで上り詰めた。プレミアリーグで輝きを放つ25歳のドリブラーは一体、どんな人物なのか。プロ入りの同期組、イサカ・ゼイン(現・モンテディオ山形)と神谷凱士(現・ヴァンフォーレ甲府)の2人に当時の寮生活、トレーニングで目の当たりにした技術の高さを振り返ってもらった。(取材・文=江藤高志)

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 2020年、川崎フロンターレに新加入した三笘薫は当時、寮で過ごす時間を「結構楽しいです。食事も風呂もいつも1人だったので、いいですね(笑)」と明かしていた。一体どんな様子だったのか。同期組の1人、神谷はお風呂で過ごす光景をこう振り返る。

「薫はお風呂でスマホを使って音楽を流してたような印象があります。好きな歌を流して薫は入っていました。それでみんなで歌ってましたね。平井大さんの歌だったような気がします。いい歌だなと思って聞いてました」

 当時からピッチ上では相手選手をドリブルで翻弄し、無双状態にあった三笘。私生活では程よく息を抜いてリラックスしていたようで、たとえば神谷は「普段一緒にいた時は結構抜けてた」とも言う。だからこそ、三笘のオンとオフの落差に舌を巻く。

「そんな感じしないですよね。でも、一緒に居て、結構抜けてるところがあったし、試合が終わったあとに薫がインタビューされていて、すごくハキハキ答えていて、そういうところはちゃんとしてるんだなって思っていました」

“抜けた”エピソードについて、神谷はすぐに思い出せなかった。あまりに多すぎて印象に残らなかったのだろうが、基本的にその都度チームメイトから突っ込まれていたという。そんな三笘の息抜きの1つがUNOだった。

「結構やってました。でも、そんな強くないですね。全然大したことなかったです(笑)」(神谷)

 UNOのレギュラーメンバーは神谷と三笘、宮城天(現・V・ファーレン長崎)、橘田健人、塚川孝輝(現・FC東京)の5人。食事後に「やろう」と言い出し始まることが多かったといい、神谷曰く「薫は強い日と、弱い日の差が激しかった」という。

 一方でイサカは、「強気で出してくるところはありましたね。ヒヤヒヤするようなのが好きなのか分かんないですけど。あと、負けたら、なんかすぐもう一回みたいな感じでした」と、負けず嫌いな一面も明かしてくれた。

 三笘が川崎に加入したのは2020年でまさにコロナ禍が始まった年。外出が制限された時代背景を感じさせるエピソードと言えそうだ。

神谷凱士とイサカ・ゼイン【写真:(C)MONTEDIO YAMAGATA & (C)2023VFK】
神谷凱士とイサカ・ゼイン【写真:(C)MONTEDIO YAMAGATA & (C)2023VFK】

「1対1を一緒にやっている時から絶対に無理だろうと…」

 川崎加入後、鋭いドリブルを生かしながらすぐに頭角を現した三笘。イサカはそんな三笘の基礎技術に関して、「止める、蹴るだけじゃなくて動き出しもフロンターレは特殊だと思うんですけど、それが備わっていました」と見ている。

 川崎の技術を表現する際によく使われるのが「止める、蹴る」だが、ここに「外す」が加わって、あの特徴的な崩しは実現されている。新加入選手を加えての最初の合宿では、常に鬼木達監督が「外す」を直接指導してきた。そして先生役は決まって小林悠だった。

 川崎加入時にはすでに止める、蹴るに加え、外す動きも習得していた三笘は、大卒ルーキー初年度のゴールタイ記録である13得点をマーク。川崎の中にあって、確固たるポジションを手にしていくことになる。

 そんな三笘の今のスタイルを形作った練習の1つが全体練習後の1対1だろう。アカデミー時代から継続してきた1対1において、イサカはディフェンス役を務め「試合の2、3日前、薫がオフェンスというシチュエーションで結構やっていました」といい、その凄さをまじまじと味わった。

「ドリブルも上手いんですけど、やっぱり駆け引きとかが上手くて。寄せに行ったら逆に背後を取られましたね。1対1をしてる時に力みがあると対応が難しい印象がありました。リアクションになるとやっぱり薫みたいな選手だと厳しいです」

 三笘を止めるには、自分から仕掛ける守備が必要で「毎回毎回、自分のペースで、前に行けるようにしながら守備をしていた」とイサカ。そして三笘対策の難しさを「大きいスペースがある中でやっていたので、全部を守ろうとすると難しくなる。だから、イチかバチかで取りに行くやり方もしてました。自分としては守備が難しかったですね」と振り返る。そのうえでパスも出せるため「何回もやられた記憶はあります」と苦笑した。

 三笘との1対1に関して、神谷は「やりたくなかった」と振り返り、その理由を「もう、抜かれるって分かっているので。止めたら止めたで気持ちいいと思いますが、もう1対1を一緒にやっている時から絶対に無理だろうと思ってました」と、レベルは段違いだったようだ。

 サッカーに対してひたむきに向き合う一面ばかりが目立つが、その一方で、適度に息を抜いていたとイサカは話す。「もちろん努力しているし、常に考えているんですけどやり過ぎない。休むところは休むというように、はっきりしていた」といい、オン、オフの使い分けの上手さが、三笘の今を形作っているということが言えるのかもしれない。

[プロフィール]
イサカ・ゼイン/1997年5月29日生まれ、東京都出身。桐光学園高―桐蔭横浜大―川崎―横浜FC―山形。父親はガーナ人で身体能力やスピードが持ち味。川崎には2020年から2シーズン在籍し、横浜FCへのレンタル移籍(22年)を経て、今季から山形へ完全移籍した。

[プロフィール]
神谷凱士(かみや・かいと)/1997年6月16日生まれ、愛知県出身。東海学園高―東海学園大―川崎―藤枝―甲府。主戦場の左サイドバックのほか、ボランチでのプレーも可能。プロ3年目の昨年は藤枝、今季は甲府へレンタル移籍し、実戦経験を積んでいる。

(江藤高志 / Takashi Eto)



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江藤高志

えとう・たかし/大分県出身。サッカーライター特異地の中津市に生まれ育つ。1999年のコパ・アメリカ、パラグアイ大会観戦を機にサッカーライターに転身。当時、大分トリニータを率いていた石崎信弘氏の新天地である川崎フロンターレの取材を2001年のシーズン途中から開始した。その後、04年にJ’s GOALの川崎担当記者に就任。15年からはフロンターレ専門Webマガジンの『川崎フットボールアディクト』を開設し、編集長として運営を続けている。

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