J2首位の町田、大変革も好調の理由 “チームの心臓”MF髙江麗央が語る黒田監督の教え「優勝するために…」
【インタビュー】大改革の町田がJ2首位キープ、スタメンを守るMF髙江に聞くチームの変化
今シーズン開幕前に大幅な選手の入れ替えを行ったJ2のFC町田ゼルビアは、リーグ第11節を終えて7勝2分2敗で首位をキープしている。変化の激しい町田でスタメンの座を守る数少ない存在として挙がるのがMF髙江麗央だ。町田を支える24歳のMFを直撃し、変化の激しいチームについて語ってもらった。(取材・文=河合 拓)
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今シーズン序盤のJ2リーグを盛り上げているのが、現在首位の町田だ。昨シーズン、15位という順位に終わったチームは、シーズン開幕前に大幅な選手の入れ替えに着手。10選手が退団し、新たに19選手が加わった。そして指揮官には、青森山田高校を強豪に仕立てた黒田剛監督を招聘し、スタートダッシュに成功している。
大きく変貌を遂げたチームにあって、昨シーズンと変わらずにスタメンの座を守っている数少ない選手が髙江だ。豊富な運動量で相手の攻撃の起点を潰し、ルーズボールを回収する。正確なキックでボールを散らすとともに、今シーズンは「個人的に意識して」ゴール前に飛び出していき、ゴールやアシストも狙う。「去年、ノーゴールに終わった口惜しさがある」と言う髙江だが、今季もまだゴールに絡めていない。それでも中盤の底から飛び出していく選手は相手にも捕まえにくく、ここから数字を伸ばしていくことが期待される。
チームの心臓でもある髙江は、多くの選手が入れ替わったオフ期間について「正直に不安の部分もありました」と明かした。「でも、その一方でいろんな個性を持った選手たちが入ってくるのも分かっていたので、すごく楽しみだなと。半々というか、どちらかというと楽しみのほうが大きかったですね」と、前向きに捉えていたという。
東福岡高の2年時には高校選手権を制していた髙江にとって、黒田監督はよく知る存在でもあった。初めてプロの世界に飛び込んだ52歳の指揮官について、「一緒にやってみて、組織作りがすごく上手で徹底しているなと感じました。30年くらい高校サッカーの指導者としてやられてきただけに、しっかり人を見る目もありますし、チームを一致団結させる力があるなと思いました」と語った。
開幕11試合を終えて失点はリーグ最少
黒田監督は就任1年目から「J2優勝」という目標を掲げ、その言葉を繰り返し言葉に出すことで、選手たちにも常に目指すところを意識させているという。それによって、全員がJ2優勝のために何ができるかを考え、取り組む集団になっていったとチームの変化を髙江は話す。
大きな目標を見せるだけではない。それを達成するために、細かく目標を設定した。J2は42試合の長丁場の戦いだが、その42試合を7つずつに区切り、7試合ごとに勝ち点「15」を積み上げていくことを自らとチームに課している。これを実現すれば、獲得できる勝ち点は「90」となる。J2のクラブ数が22となった2012年シーズン以降、2014年に勝ち点「101」を叩き出した湘南ベルマーレ、2021年シーズンに勝ち点「91」を挙げたジュビロ磐田と、勝ち点「90」を超えたチームは2チームしかいない。
「優勝するために、すごく細かく勝ち点のことだったり、得失点差のことだったりは言われます。とにかく失点はしないこと。勝ち点などの細かい計算はすごくされているし、J2優勝に向けた考え方は選手たちにも分かりやすく伝えてくれます」
11試合を終えて失点がリーグ最少の「5」というのは、黒田監督の細かな働きかけがあってこそだろう。
「守備の部分で、監督には口酸っぱく言われているところですね。失点しないところは。ゴール前でどれだけ自分たち1人1人が身体を投げ出してボールに当てに行くかというのは、すごく言われます。選手たちもそれはすごく意識していますし、試合中でも自然とできるようになってきています。組織として守れるようになり、さらに個のところでも出ていて、結果に出ているのかなと思います」
また、髙江はチームに集まった選手たちのパーソナリティーにも言及した。
「外国人選手も含めて、真面目でチームのことを本当に考えてやれる選手がほとんどです。みんなと言えるほど、チームのことを考えられる選手、真面目な選手が多い。その1人1人のもともとの意識は本当にチームを良くしていると思う。FWの選手たちは、特にエゴが見られると思うんですけど、このチームのFWの選手たちは本当に守備の部分でも常にハードワークをしてくれますし、ゴールシーンでも自分よりチームのことを優先して、確率をしっかり考えてパスを出したほうがいいのか、自分でシュートを打った方がいいのか、しっかり判断できる選手たちしかいません。そういうところもしっかりチームの一体感として出ているのかなと思います」
髙江も悔やむ象徴的な一戦、甲府戦の負けは「一体感がなかった」
新しい指揮官の求めるものに取り組み、選手間の連係を高めつつ、チームメイトの特徴を把握しながら戦った最初の7試合で、町田は獲得し得る勝ち点「21」のうち「19」を取る快進撃を見せた。だが、順調に勝点を重ねた最初の7試合に対して、8節からの12節までの4試合は1勝1分2敗と決して上手くいっていない。対戦相手も好調の町田を分析してきた。第11節ヴァンフォーレ甲府戦(0-1)は、象徴的なゲームだった。
甲府は町田が前線からプレッシングに来ると、シンプルにロングボールを入れてプレスを空転させた。前線の選手がプレッシングをかけるが、最終ラインの選手たちはロングボールを入れられるから背後に下がる。結果的に前線と中盤が分断され、4-2-4のような形になり、ボランチの髙江とMF稲葉修士が浮いてしまう形となってしまった。
この試合を振り返り、髙江は「一体感がなかった」と悔やむ。
「相手も自分たちのはめ方をしっかり研究して試合に臨んできていたと思う。相手が自分たちを見て判断できていました。守備ではまらない時に、ゲーム中にどれだけコミュニケーションをとるか。前の選手にプレスに行かせないなら、後ろの選手がもっと前の選手に下げるように伝えて、ブロックを作って守るとか、そういうことができたと思います。全体が間延びしてしまったことで、ボールを奪ってもすぐ失うことが多かった。常にコンパクトにしないといけないことを、自分とイナくん(稲葉)のところですごく感じました。一体感がなかった試合だったと思うので、もっと早く自分たちがほかの選手にも声をかけて、チームを1つにさせられるようにしたい」
この敗戦によって、残りの3試合で勝ち点「3」を挙げても、当初の目標である7試合で勝ち点「15」獲得には届かない。それでも首位をキープしたまま、出てきた課題と向き合えるのは大きい。髙江は「まだ11節ですからね。早い段階でこうして首位に立ちながら、改善点が出るのは大事なこと。これがまたもうちょっと遅い時期だと、立て直すのが難しかったりしますが、こういう早い段階でいろんな課題が出ることは悪いことではない。こういう敗戦をどれだけチームとして次の勝ちにつなげられるかは、1人1人の意識次第になってくると思います」と語った。
次節はジュニアユース時代に所属した熊本と対戦
たしかに甲府戦の負けは痛いが、この勝ち点「3」を失って出た課題を修正し、この先より多くの勝点につなげられれば、この負けにも意味が出てくる。その意味でも、ホームにロアッソ熊本を迎える次の試合は、重要になってくる。
熊本のジュニアユース出身の髙江は、「トップチームの試合を見ても、本当に足元が巧くてボールを握るのが上手なチームです。自分がいたジュニアユースの時からポジショニングやボールの持ち方を細かく言われて、頭を使うサッカーをするチームでした。それがジュニアユースからトップまで徹底されている印象があります」と相手について語った。
そして、そのポイントとして「次の試合でもボールを持たれる時間は長くなってくると思います。でも、自分たちの強さは本当に粘り強くシュートを打たせなかったりして守ることなので、『持たれている』ではなく、『持たせている』っていう意識を1人1人がちゃんと持つこと。そして甲府戦のようにボールを奪った後に簡単に失わないことが大事だと思う。パスを2、3本つなげられれば自分たちのペースになると思うので、ボールを奪ってから慌てずにボールを持てるかは、次の試合大事になってくると思います」と、ボール回収後の落ち着きをテーマに挙げた。
最初の7試合でのスタートダッシュを生かすためにも、勝ち点3が必要な熊本戦。髙江は「今シーズンから声出しが解禁になりましたが、サポーターの応援、声援は試合中でも聞こえますし、それが苦しい時間帯にはより聞こえてきて、自分たちのパワーにつながるのは間違いありません。負けたあとの試合を、ホームで戦えるのは環境的にもありがたいですし、徐々にサポーターの方々も増えてきていると思うので、期待を裏切らないように、もっともっと良いパフォーマンスを1人1人が出していけたらなと思います」と、共闘を呼びかけるとともに勝利を誓う。
改めて一体感を持って戦うことの重要性を感じた甲府戦を経て迎える熊本戦は、チームが上位争いを続ける力があるかを問われる一戦となりそうだ。
【試合情報】
開催日:2023年4月29日(土)
カテゴリー:J2リーグ第12節
対戦カード:FC町田ゼルビア vs ロアッソ熊本
キックオフ時間:14:00
試合会場:町田GIONスタジアム
情報・試合に関するイベント情報などはこちら
https://www.zelvia.co.jp/news/news-230458/