名門バイエルン、マンC戦で露呈した「足りないもの」とは? 3年連続CL8強敗退「正直に認めなければ…」【現地発コラム】
CL準々決勝のシティ戦、2戦合計1-4で敗退 最後まで遠かったゴール
アリアンツ・アレーナ(バイエルン・ミュンヘンの本拠地)のメディアルームから記者席への通路を歩いていくと、そこには巨大な選手の写真が何枚も飾られている。
【PR】ABEMA de DAZN、明治安田J1リーグの試合を毎節2試合無料生中継!
フィリップ・ラーム、バスティアン・シュバインシュタイガー、トニ・クロース、ロベルト・レバンドフスキ、アリエン・ロッベン、フランク・リベリー、チアゴ・アルカンタラ、トーマス・ミュラー、マヌエル・ノイアー、ジェローム・ボアテング……。
アリアンツ・アレーナの完成以来、クラブに数々のタイトルをもたらし、クラブの歴史を築いてきた偉大な選手たちだ。
プレミアリーグの雄マンチェスター・シティを相手に、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝第1戦のアウェー戦を0-3で落としていたバイエルンは、第2戦(現地時間4月19日1-1/2戦合計1-4でバイエルンが8強敗退)を前に崖っぷちの状況。まさにそうした選手が見せてくれたような活躍をファンは祈ったことだろう。
ホーム超満員のファンから送られる大声援をバックに、第2戦のシティ戦でバイエルンは試合開始から持てる限りのエネルギーをピッチ上へと投資していた。攻撃に走り、守備に走り、至るところで戦い、ひたすらにゴールを目指した。いい形でボールを奪い、ゴールへ迫ったシーンも多くあった。それでもゴールが遠い。
バイエルンのオフェンス陣はこの試合まで公式戦400分ノーゴール。直近のゲームでゴールを決めていたのはマタイス・デ・リフト、ダヨ・ウパメカーノ、ベンジャマン・パバールのDF陣。長いシーズン上手く行かない時もある。調子がどうにもかみ合わない時もある。それでもゴールにねじ込む存在がいるからこその絶対王者だったはずだ。
こうした試合で力を発揮し、チームを何度も救ってきたはずのミュラーをトーマス・トゥヘル監督は「ミュラーはアタッキングサードにおいてワールドクラスのプレーヤーだが、マンチェスター・シティとの試合はミュラーのゲームにはならない」と2試合ともベンチスタートを決断。その報を聞いて、「これで勝機がなくなった」とがっかりするバイエルンファンも少なくなかった。
ひょっとしたらジャマル・ムシアラが本当の意味でバイエルンの柱となる試合だったかもしれない。この試合でゴールを決め、バイエルンに希望をもたらし、チームを窮地から救う存在へ。残念ながら、まだその時ではなかったようだ。ムシアラも、レロイ・サネも、キングスレイ・コマンも何度もゴールに襲い掛かったが、最後までゴールは遠かった。
ミュラーがバイエルンの課題を指摘「僕らには今、ゴール前でのしたたかさがない」
試合後のミックスゾーンでミュラーは報道陣の前に足を止めて心境を口にした。チームとしてのパフォーマンスは良かっただけに、失望に押しつぶされているような素振りは見せていない。ファンへの感謝を口にし、そして時折微笑むしぐさも見せる。だがテーマが得点になった時には、目に力を込めて語り出した。
「最終的に僕らは得点を決め切れなかった。それは正直に認めなければならない。素晴らしいプレーやチャンスもあった。けど僕らには今、ゴール前でのしたたかさがない。シュートで枠を外したり、枠を捉えてGKにセーブを許したり。この2試合でどれだけのゴールチャンスを生み出したか。プレミアリーグを見ていても、シティ相手にあれだけのチャンスを作ったり、チャンスを与えずに守れることはそうはないと思う。でも彼らはこの2戦で4点を決め、僕らは1点。それもPKでの1点だ」
得点力という点で違いを見せつけたのは、やはりシティのアーリング・ブラウト・ハーランドだろう。ミュラーのすぐあとにミックスゾーンへ来たシティのイルカイ・ギュンドアンは、ハーランド加入の影響について聞かれると、少し間を取ってから次のように話していた。
「今日のゴールもそうだけどクリアボールからのファーストボールを競り勝って、ボールを拾った味方からすぐにカウンターを発動させて決めた。これは昨シーズンまでの僕らにはなかった要素だと思う。アーリングのクオリティーは別のバリエーションをもたらしてくれたのは間違いない」
ストライカーとしての資質を備えた選手がいるか・いないかは大きい。とはいえゴールが決まらないのはそれだけではないのかもしれない。バイエルンのヨシュア・キミッヒは次のように語っていた。
「ゴールを決められるかどうかは、自信も関わってくることだから。上手くいかない時はちょっとだけ余計なことを考えてしまったりする。あと試合における幸運がここ最近はあまりないこともあるかもしれない。そうやって言葉にしてしまうのは簡単だけど、なんだか相手がどこでもチャンスで、ボールがゴールに行かないという感情になってしまう。ここから抜け出すのはハードに取り組んで、自分たちを信じてやり続けるだけだ。あと6試合リーグがある」
今いる選手たちの成長を待つべきか、それとも実力者を新たに獲得するべきか
そんなキミッヒが帰路についたあと、近くにいたドイツ人記者がこんなことを話してきた。
「今日はすごくいい試合だったし、いいプレーもたくさんあったけど、シュートをすることだけは忘れてしまったようだった。打たなきゃ何も始まらないよ。今日はシュートシーンで何度躊躇してしまったか」
僕もうなずくしかない。そんなことはバイエルンの選手だって知っている。みんなチャンスを逃さずシュートを打とうと思って試合に臨んでいる。しかし何かが動きを止めてしまう。その葛藤は苦しいものだろう。
かつてのバイエルンにはそれでもゴールを決める選手がいた。2013年、20年とリーグ、カップ戦、CLで3冠を達成した時にはロッベン、リベリー、レバンドフスキ、そしてミュラーといった選手がいた。苦しい試合であればあるほど、彼らはゴールを決めた。ファンが絶望的な思いになればなるほど、時に軽々と、時に身体ごとねじ込んでゴールを決めた。
今いる選手が彼らのような域に達するまで待ち続けるべきなのだろうか。それとも彼らのような域に達した選手を獲得するべきなのだろうか。
新しい戦いはまた来シーズン始まる。頂点への道はいつだって果てしなく厳しい。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。