Jリーグで活躍する助っ人の条件は? 元主審・家本氏が3つの要素を指摘「単純な話ではない」

家本氏が考える外国人助っ人がJリーグで活躍するために必要な条件とは?【写真:Getty Images】
家本氏が考える外国人助っ人がJリーグで活躍するために必要な条件とは?【写真:Getty Images】

Jリーグで活躍する助っ人の条件は? 元主審・家本氏が3つの要素を指摘「単純な話ではない」

 1993年に開幕した「Jリーグ」は、今年30周年を迎える。これまでも多くの外国人助っ人が活躍してきたなか、今回「FOOTBALL ZONE」ではJリーグ助っ人特集として複数コンテンツを展開。元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏が「Jリーグに適応できる助っ人の条件」をレフェリー目線で考察した。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)

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 長年、Jリーグの舞台で審判として選手と関わってきた家本氏。日本に適応し、活躍する外国人助っ人には、「判定基準」「レフェリーとの関係性」「日常生活」の3つの点での適応が上手い選手が多いと持論を述べる。

 具体的に、判定基準については「それぞれの国で微妙に違う。違う環境にアジャスト、対応できるかできないのかは結構大きい。彼らがベストなパフォーマンスを発揮するためには、その国のプレースタイルやレフェリングに合わせられるかどうかが重要」と国によって異なるプレースタイルや判定基準、レフェリングに適応する必要があると指摘する。

 家本氏も審判での現役時代を振り返りつつ「日本に来て最初はみんな、戸惑ったりとかびっくりしたりする。イライラすることもある。調整力、対応力の高い選手はすっと適応できる印象」と当時感じた例を挙げた。

 レフェリーとの関係性は、「上手く(レフェリーと)駆け引きしたり敵対しないかどうか」が大事だという。「威圧ではなく、駆け引き。すごく審判を見下してくる選手もなかにはいるが、そういう人は適応に苦労し、レフェリーにもイライラしている印象がある」と私見を話し、より柔軟にコミュニケーションを取れる選手が適応も早かったと感じているようだ。

 日常生活では、「日本の文化や食生活、人との関係性もある。国民の特性に上手く馴染めるかはすごく大きい。家族がいる場合は、その生活面の適応も関係してくると思う」と推測する。

 前述のような3つの要素が「総じて二重丸になったら大活躍する可能性が高いのではないか」と家本氏は分析。「3つのバランスが悪いと、日常生活の不満がプレーに出たり、プレーは良いが、レフェリーと上手くいかないなど問題が生じるのだと思う」と揃って適応することが大切だと述べている。

 一方で「例えばコミュニケーションが得意な選手側と、シャイな審判の場合、相互で理解できないこともある」と例を挙げつつ「選手だけではなく、クラブ、レフェリー、文化などと双方向で良い関係性を結ぶ必要があるので、単純な話ではない」と活躍の条件は複雑であると家本氏は考えているようだ。

ウェリントンとマルコス・ジュニオールとのエピソード

 条件を示したなかで、家本氏はJリーグに来て徐々に変化を感じた選手を2人挙げている。1人は、ブラジル人FWウェリントン(アビスパ福岡)だ。日本では湘南ベルマーレやヴィッセル神戸でもプレー経験のあるウェリントン。家本氏の当初の印象は「じゃじゃ馬」だったという。

「本当にじゃじゃ馬という感じで、プレーや感情の波が大きく大変だった。けれど近年やっと日本に馴染んできた印象がある。自分が現役を退いた年(2021年頃)には、『ヘイ、レフェリー、名前を教えてくれよ』と尋ねてきた。僕が『家本だ』と返すと『家本か。今日よろしくな』と言葉を交わした記憶がある。それ以降、試合中にも名前を呼ばれるようになった」とエピソードを交えてブラジル人FWの変化を振り返った。

 横浜F・マリノスでプレーするブラジル人FWマルコス・ジュニオールとは、練習試合での対面を経て、家本氏との関係性が変わっていったという。「元々ブラジルの選手ということもあり、最初の頃はレフェリーに対してちょっと眉間にしわを寄せているような……選手とレフェリーという隔たりを感じたこともあった」と回顧。しかしその後、何度か練習試合で顔を合わせ、普段とは違うリラックスした状態で話をしていくうちに「雰囲気が変わっていった」ことを家本氏は実感したようだ。

「練習試合で会ったときに公式戦とは違ってニコニコしながら、話しかけてくれた。彼から寄り添ってもらえたのでより良い関係になれたと思う。人懐っこい気さくな感じや笑顔など普段見られないような一面を見せてくれて、公式戦でも徐々に試合会場とかで笑顔で軽くコミュニケーションが取れるようになった。普段のフィールドから出た彼は人となりは素晴らしく素敵。柔らかくて陽気、なおかつ笑顔が素敵な選手」

 家本氏はマルコス・ジュニオールと公式戦とは別の機会で打ち解けるきっかけがあり、そうした関係性を築けたようだ。日本で長年活躍する助っ人も増えているなか、審判との関係性もまた、選手を変化させる1つの要素なのかもしれない。

(FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也 / Kenya Kaneko)



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家本政明

いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。

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