浅野所属ボーフム、なぜファンから「動けよ!」のヤジ? “直球質問”にFWが心情吐露「分かっているけど…」【現地発コラム】
シュツットガルト戦、浅野拓磨が所属するボーフムは軽率なミスから失点
「ボールをもらう動きをしろよ」
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ホームのボーフムサポーターから思わずヤジが飛んでいた。ブンデスリーガ第27節シュツットガルト(2-3)との残留を懸けた大事な一戦にスタジアムは当然ながら満員。サポーターをバックにライバルを一蹴したいところが、軽率なミスから失点を重ね、攻撃ではまるで糸口を見つけられないまま時間が過ぎていくのだからその気持ちも分かる。
DFがボールを持ってパスの出しどころを探そうとするが見つからない。仕方なくセンターフォワード(CF)にロングボールを入れるが、そこへのパスを予想しているシュツットガルト守備陣は堅実に跳ね返していた。
「ニヒト・ミット・アンザーゲ!!」
ボーフムファンがまた叫ぶ。ニヒト・ミット・アンザーゲとは「予告どおりにプレーするな!」という意味になる。パスコースが限定されていて、どう見てもそこへパスをするだろうという状況で、駆け引きも何もないまま普通にパスを出す動作でそこへパスを出したら、いとも簡単にインターセプトされる。
「パスコースを作れよ。ボールをもらいに動けよ!」
ボーフムファンがピッチ上の選手に要求する。試合後、CFフィリップ・ホフマンが「シュツットガルトはとても的確にハードな守備をしてきた。前半開始から15分までを除いて、うしろから僕らにいい形でパスを出すのが難しかった。クリス(クリストファー・アントウィ=アジェイ)とタク(浅野拓磨)のスピードを生かすパスを出せなくなっていた」と振り返っていたが、そうだとしても高さのないアントウィ=アジェイや浅野へロングボールを飛ばすのは、どう考えても得策ではない。
浅野がダイナミックスをもたらしたが… ボーフムに欠けていた“最低限”のこと
ボーフムの浅野は動きが少ない中盤から前線において、なんとかボールを引き出そうと盛んにポジションを変え、スペースに走り込み、ルーズボールを追っていた。五分五分のボールを懐に収めてマイボールにしたり、相手に渡りそうなボールを自分たちのスローインやコーナーキック(CK)にしたりと懸命な動きを見せる。左サイドからのグラウンダーのクロスに飛び込んだり、CKからのセカンドボールを頭で合わせたり、後半には右サイドをタイミング良く飛び出し、ゲリット・ホルトマンのシュートシーンを演出したりとチャンスにも絡んでいた。
そうした動きが少しずつチームにダイナミックスをもたらしていく。自分たちのミスで試合展開を苦しくしながらも、ボーフムは最後まで戦った。後半40分にはフィリップ・フェルスターのアシストからホフマンが身体ごとボールをゴールに流し込んで、1点差まで迫った。そんなチームの戦う姿勢が見られたことで、スタジアムのファンは大きな拍手を何度も送っていた。結果としてボーフムはシュツットガルトに2-3で負けた。試合内容も良くはない。
戦術的なバリエーションが豊富にあるわけではない。この日はシュツットガルトのビルドアップ時に前からマンツーマン気味にパスの出口を抑え込もうとしていたが、マンツーマンはどこか1か所外されると途端に脆くなるデメリットがある。選手間の距離が広がり、サポートし合えなくなると、じり貧だ。特に中盤で遠藤航(シュツットガルト)に何度も前を向かれては展開を許すところを修正できなかった。失点の仕方もあまりに軽率だったのは否めない。
それでも、だ。やれるべき最低限のことはやらなければならない。走る、戦う、プレーする意志を示す。そのことをファンは求めるし、チームはそれを目に見える形で示していくことが大切なのだ。ましてボーフムは残留争いの真っただ中。シーズンが終わるその時まで、足を止めることはできないのだから。
残留を争う相手に「なぜ勝ち点を失ってしまう?」 ストレートな質問にFWが本音
試合後、ミックスゾーンではFWホフマンが地元記者のインタビューに応じていた。「強豪相手に素晴らしい試合を見せる一方で、残留を争う相手に勝ち点を失ってしまうのはなぜなんだ?」というストレートな質問に少し考えこみながら、正直に心情を吐露していた。
「理由は僕らにも分からないよ。分かっていたらなんとかしていたしね。今日だってどれだけ大事な試合かはみんな分かっていたんだ。ファンが僕らに何を求めているかだって分かっている。今日は思っていたように上手くいかなかった。残念だけど、それが事実なんだ。でもシーズンはまだ残っている。残りの試合もチームみんなで全力で戦う」
予定どおりに勝ち点を積み重ねていけたりはしない。そこまで甘いリーグではない。だが、シーズン序盤はぶっちぎりで最下位にいたクラブだ。今季は降格で間違いないと報じられていたクラブだ。そこから立ち上がり、一時は14位まで浮上してきた力は偽物ではないと信じて、残り7試合全力で戦い続けるだけだ。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。