清水エスパルスに緊急事態…J2でも低迷した実情 誰もが求めたいのは「本気」の抜本改革

J2で苦戦が続く清水エスパルス(写真は昨季のもの)【写真:Getty Images】
J2で苦戦が続く清水エスパルス(写真は昨季のもの)【写真:Getty Images】

【番記者コラム】今季J2で勝てず監督交代、低迷クラブの現状とは?

 今季のJ2で優勝候補の本命と言われていた清水エスパルスが、7節終了時点でまさかの未勝利。5分2敗の19位で、首位のFC町田ゼルビアとは早くも勝点14差を付けられている。昨年から通算するとリーグ戦で14試合勝利がなく(クラブのワースト記録を更新中)、4月3日ついにゼ・リカルド監督の契約解除が発表された。

 J2でナンバーワンの戦力を誇ると言われる清水が、なぜこれほど低迷しているのか。1つ言えるのは、「これだけの戦力があって、なぜ勝てない?」とは誰もが思うが、「これだけのサッカーをしていて、なぜ勝てない?」とは、あまり感じられないということだ。

 まず数字上で最も分かりやすい不足要素は、得点力だ。ここまでの7試合でわずか4得点(1試合平均0.57点)で、無得点が4試合。シュート数は1試合平均13.14本でリーグ1位だが、ゴール数は最下位タイ。ただ、これは単純に「決定力不足」で片づけられる問題ではない。

 ここまで得点を決めているのは、チアゴ・サンタナとディサロ燦シルヴァーノだけで(ともに2得点)、シュート数はサンタナが18本、ディサロが10本。サンタナは無理な体勢からでも強引に打っていくストライカーらしさがあるためシュート数も多いが(3位タイ)、ボックス内での決定的なシュートは多くない。逆にそういうシーンを作れたジュビロ磐田戦(2-2)では、きっちり2得点を叩き込んでいる。

 プレシーズンから高い得点力を発揮しているディサロは、決定率が20パーセントなのでかなり良い数字と言える。つまり、彼らにもっと多くの、より質の高いシュートチャンスを供給することができれば、自ずと得点は伸びると考えられる。ほかの選手に得点がないのは決定力不足の面も大きいが、「チャンス不足」も低迷に陥った原因の1つであることは否めない。

 では、なぜチャンス不足なのか。ボール保持率が平均で59.8パーセント(3位)という数字にも表われているように、清水が押し込んで相手が分厚く守りを固めるという時間が多くなっているが、そこを崩し切れていないことが大きい。相手のブロックの手前でボールを横方向に回している場面は多いが、そこから縦に差し込むパスやそこからのコンビネーションでシュートまで持ち込むシーンは少ない。サイドからクロスを放り込んで、密集の中で跳ね返されるシーンのほうが目立っている。

 また、高さのある選手が多く、良いキッカーもいるが、セットプレーでは無得点。決定機もあまり作れていない。

 今季は始動時から前からの守備に力を入れてきたが、それが十分に機能しているとは言えないため、高い位置で奪ってショートカウンターというシーンも少ない。それは前線の個の力を最も生かしやすい攻撃と言えるので、その形を増やせていないのも残念なところだ。

熱血指揮官・秋葉新監督は今のチーム状況に適任も…

 守備に関しては、7試合で7失点(6位タイ)なので悪い数字ではない。だが、2連敗を含む直近3試合では6失点と急増。しかもミス絡みなどのイージーな失点が目立ってきた。

 1-3で敗れたザスパクサツ群馬戦では、ピンチになったのはほぼカウンターからで、そこは選手も警戒していた。だが、キャプテンの鈴木義宜は試合後に振り返っている。

「攻撃の時の距離感が良ければ、もっとカウンターを防ぐことはできたと思うし、(攻から守に)切り換わったところでも少し相手よりも遅いというか、相手のほうが速かったので、カウンターを何回も受けてしまった。そうなると、うしろからクサビをどんどん入れていく状況が減って、自分たちで攻め手をなくしてしまったという面もあったと思います」

 この試合で得点を決めたディサロも同じように「攻から守への切り換えが遅かったのを、なかなか修正しきれなかった」と指摘。攻から守の切り換えは、チームとしての規律の徹底度や選手のアラートさなどがよく表われる部分と言える。そこは数字で検証しにくい要素だが、もし不足しているとすれば、テコ入れが必要だろう。

 こうして要素ごとに見ていくと、やはり勝ち切れるサッカーができているとは言い難い。ここまでコーチとしてチームを見てきた秋葉忠宏新監督は、もちろんそのあたりは十分に承知済み。就任初日の練習前に1時間半強におよぶミーティングを行ない、「だいぶ厳しい言葉もかけました」と言う。

 さらに「一定のクオリティー、一定のインテンシティー、一定の走力といった明確な基準が僕の中であるので、そこを下回ってる選手は試合に出すことはありません。その基準をクリアしたうえで、自分のストロングポイントやチームとしての狙いを体現してくれる選手を使っていきたいと思っています」と、選手の危機感や競争意識に刺激を与えている。

 リーグ戦では十分な出場時間を得られていない神谷優太も「(秋葉監督に)求められているのは、走るとか戦うとか基本的なところが大きいと思います。それができるのはハングリー精神を持った選手だと思うし、本当に1日1日どれだけ集中してトレーニングを行えるかだと思います」と、チャンス獲得に向けて貪欲さを見せている。

 明るさと厳しさを兼ね備えた熱血指揮官は、今のような状況でチームの空気を変えるには適任だと感じられる。

 ただ、監督が代わっただけですべてが大きく改善される……かどうかは何とも言えない。5年連続でシーズン途中に監督が交代していて、中には名将と称えられる指揮官もいた。だが、誰もこのチームを抜本的に変えることはできなかった。その原因は、いまだ解明できていない。

「さすがにJ2なら勝てるだろう」という考えが通用しないことも、ここまでの7試合で痛いほど思い知らされた。絶対目標である1年でのJ1復帰も、絶望的とは言えないが、ハードルはかなり高くなった。

 だが、それでも清水エスパルスを見捨てることなく、全力で応援を続けているサポーターは本当に多い。その想いに報いるために、選手、チーム、クラブがどれだけ本気で変わろうとしていくのか。期待を持ち続けるに値するチームだとサポーターは信じている。

(前島芳雄 / Yoshio Maeshima)



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前島芳雄

まえしま・よしお/静岡県出身。スポーツ専門誌の編集者を経て、95年からフリーのスポーツライターに。現在は地元の藤枝市に拠点を置き、清水エスパルス、藤枝MYFC、ジュビロ磐田など静岡県内のサッカーチームを中心に取材。選手の特徴やチーム戦術をわかりやすく分析・解説することも得意分野のひとつ。

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