好調の久保建英、なぜベンチスタート? 地元紙が疑問「理解できない」 浮かび上がる「カリスマ性」の問題点【現地発コラム】

久保建英はローマ戦に途中出場するも見せ場を作れず【写真:Getty Images】
久保建英はローマ戦に途中出場するも見せ場を作れず【写真:Getty Images】

好調をキープしていた久保、ELラウンド16第2戦のローマ戦でベンチスタートに

 現地時間3月16日に開催されたヨーロッパリーグ(EL)ラウンド16第2戦ASローマ戦(0-0)で、レアル・ソシエダの日本代表MF久保建英は公式戦2試合連続のベンチスタートとなった。

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 今季チームに怪我人が続出するなか、久保は加入直後のプレシーズンからイマノル・アルグアシル監督の要求に応え、ポリバレントな能力を発揮。さまざまなポジションでプレーするなかで出場時間を伸ばし、着実にチーム内で存在感を示していった。

 そんななか、今回のように久保が2試合続けてベンチスタートとなったのは、今季3回目だ。1回目はカタール・ワールドカップ(W杯)前に左肩脱臼から復帰した時、2回目は今年1月に大腿四頭筋に張りがあった時で、どちらもフィジカル面に問題があったことが理由であった。

 対して公式戦8試合連続で先発出場していたにも関わらず、マジョルカ戦、ローマ戦と続けてベンチスタートとなったのは、指揮官の戦術的判断によるものの可能性が高い。

 今回のローマ戦はアウェーでの初戦を0-2で落としたソシエダにとって、EL準々決勝に駒を進めるために、ホームでの逆転勝利が絶対条件の重要な一戦だった。3万5000人のレアリスタ(ソシエダサポーターの愛称)が詰めかけたなか、試合開始のホイッスルが響くピッチに久保の姿はなかった。

 これで久保のベンチスタートは今季通算10回目となった。先月は3節連続のMVP、クラブのファン投票による月間MVPに輝くなど、自身も認めるほど絶好調だったにも関わらず、なぜこのタイミングで先発から外れたのだろうか。

ELラウンド16第2戦はホームでローマと対戦。0-0に終わったソシエダが2戦合計0-2でEL16強敗退【写真:高橋智行】
ELラウンド16第2戦はホームでローマと対戦。0-0に終わったソシエダが2戦合計0-2でEL16強敗退【写真:高橋智行】

悪い流れを打開すべく久保投入 地元紙「第1戦ではベストプレーヤーだったが…」

 試合は2点のアドバンテージを持つローマが徹底的に守りに入り、ソシエダが圧倒的にボールを支配するも得点できない状況が続いた。この悪い流れを打開すべく後半26分、FWミケル・オヤルサバルに代わり、中盤ダイヤモンド型の4-4-2の右FWとして久保が投入された。

 前線で激しく動き回り、後半32分にミドルシュートを打つが枠を捉えられない。その後、モハメド=アリ・チョー投入に伴いシステムが4-3-3に変更されると、右ウイングにポジションチェンジ。チームメイトとの連係を図るも上手くいかず、最後までローマの堅固な守備を崩すことができずにスコアレスドローに終わり、ソシエダは2戦合計0-2でELラウンド16敗退となった。

 この敗北を受け、現在ラ・リーガで4位をキープしているとはいえ、現地ではチームの危機が報じられている。公式戦ここ10試合でわずか1勝、6試合連続未勝利、国王杯(コパ・デル・レイ)とELからの敗退。さらにその間に得点したのはわずか3試合、合計5ゴール、1試合平均0.5得点と不振を極めている。

 一方、アルグアシル監督が再三にわたり、結果はともかくとしてパフォーマンス自体は悪くないことをアピールし続けている。その証拠として、オヤルサバル、ミケル・メリーノ、マルティン・スビメンディが3月下旬に欧州選手権予選2試合を戦うスペイン代表に選出された。個だけでなく、チームに対する評価と捉えることもできるだろう。3人招集というのはFCバルセロナ、レアル・マドリードと並び最多となる。

 マジョルカ戦に続き、ローマ戦でも出場時間が短かった久保について、クラブの地元紙「エル・ディアリオ・バスコ」は、「ローマでの第1戦ではベストプレーヤーだったが、今回はベンチスタート。ドリブルのテクニックを披露する時間がなかった」と寸評し、採点なしとした。

 同じく地元紙「ノティシアス・デ・ギプスコア」も採点をつけず、「クボのベンチスタートは理解できない」と監督の起用法を疑問視した。またスペイン全国紙「AS」「マルカ」の評価はともに1点(最高3点)だった。

スペインのラジオ局「カデナ・セル」でソシエダ番記者を務めるロベルト・ラマホ氏が久保建英について言及【写真:高橋智行】
スペインのラジオ局「カデナ・セル」でソシエダ番記者を務めるロベルト・ラマホ氏が久保建英について言及【写真:高橋智行】

番記者が久保の起用法について考察「それがオヤルサバルにあり、クボにはないものだ」

 ローマ戦後、スペインのラジオ局「カデナ・セル」でソシエダの番記者を務めるロベルト・ラマホ氏に、久保の現状について考察してもらった。

 まずローマ戦について、「今日はクボが何かやるには時間が足りなかったし、あの試合展開のなか、投入されるのが遅すぎたように思う。普段から試合のリズムを変える役目を果たしているクボが今日、ピッチにいない物足りなさをみんなが感じていたのは間違いない」と状況を変えるため、もう少し早い投入が必要だったことを訴えた。

 続いて久保が再び先発を外れた理由について、「それはイマノルがどのようにローマ戦に臨むかを考え抜いたうえでの判断だろう。守りに入ることが予測できたローマに対し、イマノルは2人のストライカーをぶつける戦い方をしたかったのだと思う」と、戦術的なものであったと分析している。

 また別の理由として、「ラ・レアル(※ソシエダの愛称)において、オヤルサバルはチームを象徴する選手であり、そのカリスマ性は絶対的だ。それが今、オヤルサバルにあり、クボにはないものだ。オヤルサバルの存在が大きいため、今回のように重要な試合でクボがベンチスタートになるのは仕方ないことかもしれない」とチームに与える影響力を考慮し、アルグアシル監督がオヤルサバルを選んだことを示唆した。

 ソシエダはここ2か月間で2大会(EL、国王杯)から敗退し、今後はUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場圏獲得を目指してリーガに専念する形となる。

 試合数が基本的に週1回(※平日開催は3試合のみ)となるなか、怪我人はFWウマル・サディクとDFアリツ・エルストンドのみ。ほとんどの選手が揃い、ポジション争いの激化が予想される状況下、久保が残り13試合でどのように起用されるのか非常に気になるところだ。

(高橋智行 / Tomoyuki Takahashi)



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高橋智行

たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。

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