新生・森保ジャパン「三笘&久保システム」考察 2列目で共存→“打ってつけ”の1トップは誰に?
【識者コラム】三笘、久保の2人を共存させたシステムでポイント考察
森保一監督率いる日本代表の再スタートが近づいている。「FOOTBALL ZONE」では3月のキリンチャレンジカップ(杯)でウルグアイ代表とコロンビア代表と対戦する“森保ジャパン第2次政権”を特集。ここでは今後、攻撃の主軸を担うであろう三笘薫、久保建英の2人を共存させるシステムを敷いた観点から、あらゆるポイントを考察する。
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このテーマを考察する前置きとして、日本代表は三笘のためにあるわけでもなければ、久保建英を輝かせるためにあるわけでもない。ただ、この2人に堂安律、鎌田大地を加えた「ビッグ4」が、クラブレベルで席巻しているとおりに代表でも攻撃の中心になって行く可能性は高い。
特に三笘と久保は個人で“違い”を作り出す能力において、日本人選手というより世界基準でもワールドクラスに達しつつある。その意味においては局面で三笘や久保が前向きにボールを受けるシチュエーションを多く作ることができれば、あとは周りの選手がいかにゴール前に詰めるかといったサポートの関係を高めていけばいい。
勿体ないのは三笘が輝くことが、久保の輝きを失わせたり、その逆になってしまうことだ。野球でホームランバッターだけ並べてもなかなか勝てないように、代表チームでは強力な個がうまく並び立たないこともある。カタール・ワールドカップ(W杯)においては鎌田が攻撃の軸としてトップ下に君臨し、右は伊東純也と堂安の2人で完結していたこともあり、三笘と久保は左サイドでどちらかが出れば、もう1人はベンチという関係になった。
その理由はグループリーグでドイツ代表、スペイン代表が相手になったことで、森保監督もより守備的なプランニングだったり、久保に本来の輝きを期待するのとは別のタスクを与えざる得なかった事情もある。当面の目標は来年1月のアジアカップということもあり、中盤やビルドアップで主導権を取る、相手陣内で試合を進めることができれば、東京五輪でも一緒にプレーしていた三笘と久保を共存させることは可能だ。
やはり現段階で最もイメージしやすいのは4-2-3-1をベースシステムとして、三笘を左サイドハーフ、久保をトップ下に配置する布陣だ。右サイドは引き続き、伊東か堂安が組む形になるが、スタートから左で三笘を生かすとなった場合に、右で槍になれる伊東なのか、左利きで中にどんどん関われる堂安なのかは対戦相手や状況を見ながら森保監督が判断していける。
カタールW杯までの段階では三笘をジョーカーとして考えたり、ある時期は南野拓実と鎌田が左と中で“ダブル司令塔”のような関係を作っていたことで、右サイドは伊東がファーストチョイス、堂安がオプションという序列が成り立っていたが、堂安が存在感を高めていることに加えて、スタートから三笘が左の槍になる構図であれば、逆に右サイドの選択肢は柔軟になる。
三笘をいかに前向きにさせるか…鎌田の存在がポイントに
左サイドの三笘にいかに前向きにボールを持たせるかが攻撃のテーマになっていくと考えれば、久保が中央でボランチや右サイドとお膳立てをしながら、相手の意識を引き付けて、タイミングよく左の三笘につなげるような形になる。そこでキーになるのが鎌田だ。
鎌田はフランクフルトでも彼が「8番」と呼ぶボランチの起用が増えており、日本代表でも4-2-3-1なら遠藤航や守田英正とボランチを組むような構図が考えられる。守備強度が非常に強く、スプリント回数などのデータが欧州でもハイレベルにある鎌田はボランチから攻撃を組み立てながら、機を見て前に出て行ける。
そこで久保とうまく絡みながら中央にパワーをかけることで、左の三笘に対する相手のプレッシャーを弱めて、三笘が打開しやすい状況を作ることができる。右サイドが堂安であれば、久保、鎌田と中央の崩しに絡んだり、右サイドバックを引き出しながら同サイドから仕掛ける選択肢を取ったり、柔軟な関わり方が考えられる。
伊東であれば分かりやすくイメージすると、三笘と“左右の槍”のような構図になるが、伊東もただ縦に突破するだけのサイドアタッカーではないので、左に三笘を置くのが前提なら、インサイドに関わるようなシーンも増えてくるかもしれない。三笘もコンビネーションを使おうと思えば使える選手だが、1対1でほぼ確実に突破できるのに、わざわざ周りの選手が絡む必要はない。
三笘が単独で仕掛けるのが前提で、リスク管理だったり、ゴール前の厚みだったりを考えながら、三笘へ守備人数がかかった時に、サポートに行くのか、シンプルに中央でリターンをもらって別ルートから攻めるのかといった攻撃の循環が求められてくる。
結果的に三笘をある種の“デコイ”にして、中央の久保と1トップの選手で完結する形があっても良いが、その場合も三笘の突破力が脅威になっていることがベースになる。三笘が出ている以上は彼が最強の武器になってくるが、久保は色々な選択肢のある選手なので、そこの主導権を握る選手として輝きを放てるはずだ。鎌田がボランチにいる布陣であれば、スタートポジションが4-2-3-1でも、相手の守備や攻撃を見ながら立ち位置を4-3-3にすることもできるはずだ。
久保&三笘共存なら、1トップはラストパスに合わせるタイプが主流に?
久保と三笘が2列目にいるところから組み上げるなら、1トップは裏抜けをどんどん狙うタイプよりも、最前線でセンターバックを引き付けながら、最後にボックス内でラストパスに合わせて行くタイプのほうが主流になってくるかもしれない。上田綺世は東京五輪で久保と三笘とも良い関係を築いており、打ってつけの存在ではある。逆に前田大然のようなタイプはオプションになるので、少なくともアジアカップまで、浅野拓磨、古橋亨梧ともサバイバルになってくるかもしれない。
逆に町野修斗や小川航基のような前線で張れる大型FWが複数選ばれる構図も考えられるが、まだまだ日本がストロングではないポジションなので、古橋のようなストライカーを久保と三笘とうまく組み合わせるソリューションも選択肢に持ちながら、新たなFWの競争関係を作って行けばいいだろう。
今回は久保と三笘の2人を同時に生かすという視点で考えたが、2人がコンディションや所属クラブでの立場など、どういった状況になるか分からないので、実際は依存体質になりすぎないようにする必要がある。どちらかしかいない場合、どちらもいない場合も想定して、いかに選択肢を持っていくか。「ビッグ4」という表現はしたが、彼らのステップアップを刺激に、どんどん若手も含めたタレントが台頭して、脅かすぐらいになることで、森保監督を良い意味で悩ませてもらいたい。
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。