世界の壁で知った自分に足りないもの 塩越柚歩が臨む「力強さ」への挑戦

三菱重工浦和レッズレディースでプレーする塩越柚歩【写真:Getty Images】
三菱重工浦和レッズレディースでプレーする塩越柚歩【写真:Getty Images】

【連載BEYOND|File.2】東京五輪で痛感した「力強さ」の重要性

 1月上旬からウインターブレイクに入っていたYogibo WEリーグが5日、2022-23シーズンを再開させた[ftp_del](DAZNではYogibo WEリーグの全試合を配信)[/ftp_del]。「FOOTBALL ZONE」では「BEYOND(~を越えて)」をテーマに、現役選手には挑み続けていることや超えたいと思う目標、OB・OG選手には新たな分野での目標や挑戦について直撃する連載企画をスタート。第2回は、今季から任されるボランチで選手としてのレベルアップに挑むMF塩越柚歩(三菱重工浦和レッズレディース)だ。(文=佐藤直子)

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 2016年に浦和レッズレディースユースからトップチームに昇格して以来、塩越柚歩は毎年、キャリアハイを塗り替えようとピッチを駆け抜けてきた。その想いは7シーズン目となる今季も変わらない。

「前年の自分以上のものを発揮するのが大まかな目標。今年は『去年の4得点を上回れるように頑張ります』と言っています。やっぱりゴールに関わるプレーはしていきたいです。それが絶対的にチームの勝利にもつながるので」

 今季は第9節終了時点で2得点。6月10日の最終節までに3得点以上を加えれば、昨季を超える。「まだ(シーズンは)半分終わっていないので、いけるかなと思っています」と頼もしい。やわらかい笑顔の中にも自信が見え隠れするのは、積み重ねるトレーニングの手応えを感じているからだ。

「昨季と比べてフィジカルトレーニングにすごく力を入れています。チームでの練習以外にも、オフの日には個人的にトレーナーについて、自分に足りないと思う身体の強さはもちろん、瞬発的なスピードというところも、1つレベルを上げられるように取り組んでいます。スピードの部分はまだまだ。すぐに結果が出るようなものではないと思いますが、ボールを奪われにくくなったり、当たり負けをしなくなったりというのは感じています」

トレーニングでは怪我をしない身体作りを意識「欠場はもったいない」

東京オリンピックでは「自分に足りないもの」を痛感したという【写真:原田健太】
東京オリンピックでは「自分に足りないもの」を痛感したという【写真:原田健太】

 浦和レッズレディースユース時代から優れたテクニックが光り、ドリブルやシュートなど器用さが求められるプレーに長けていた。だが、それだけでは足りないと気付かせてくれた舞台が、2021年の東京オリンピックだった。フル代表として初めて経験する世界大会ではカナダ戦とイギリス戦の2試合に出場。そこで世界の広さを痛感した。

「足りないものを身に染みて感じた場所でした。国内リーグでは足もとの上手さでなんとかなるのが通用しなかったし、自分の良さが出せずに終わってしまいました。スピードやフィジカルの強さが一段階上がらないと、なかなか自分のサッカーができないだろうと強く感じましたね。なでしこジャパンの中にも上手い選手はたくさんいますが、上には上がいる。やっぱり世界はすごいなと、率直に思いました」

 立ちはだかる世界の壁に、向上心をかき立てられた。選手としてレベルアップを図るためには何をするべきか。改めて自分を見つめ直した時、たどり着いた答えが「怪我をしない身体作り」だった。振り返れば、怪我に泣かされ、不完全燃焼に終わった経験は少なくない。

「やっぱり1シーズン戦える身体の強さは絶対に必要だし、自分に足りないところ。どんなにいいプレーをしていても、怪我で欠場してしまうのはもったいないですから。怪我をしない身体作りが、結局は自分のレベルアップ、パフォーマンスアップにつながる。トレーニングではそこも意識していて、実際にすごく効果を感じています」

 自分に足りない部分を補う作業は、目指す選手像への近道でもある。得意とするテクニカルな足もとのプレーを生かしつつ、「すごく魅力的に見える」という力強いプレーや推進力を備えることで、「相手に警戒される選手、サポーターをハッとさせるようなプレーができる選手になりたい」と想いを語る。

今季から任されるボランチでも力強いプレーで貢献

今季からボランチとして、昨季を超える5得点以上に挑戦する【写真:原田健太】
今季からボランチとして、昨季を超える5得点以上に挑戦する【写真:原田健太】

 WEリーグとして臨む2シーズン目。プロ化したことで環境面の改善など手応えを感じる一方、「観客数は大幅には伸びていない。どうしたら増えるのか、今も頭を悩ませています」と胸の内を明かす。男子サッカーとは違う「繊細さや丁寧なプレーは、女子ならではの魅力」と考え、海外のように週末に女子サッカーを観に行く文化を根付かせたいと願う。積極的にメディア出演するのも「どんな入口でもいいから女子サッカーを知ってもらいたい」という想いがあってのこと。同時に、プロとしての決意も新たにする。

「やっぱり選手としては、また観に行きたいと思ってもらえるようなプレーをピッチ上で続けるしかないし、レッズレディースは勝ち続け、強いチームであり続けなければいけない。そこは最低限やっていかなければならないことだと思います」

 昨季は惜しくもリーグ2位に終わったレッズレディースだが、皇后杯では優勝。今季はプレシーズン開催のWEリーグカップで頂点に立ち、最高の流れで開幕を迎えた。ウインターブレイク中の沖縄キャンプでは「いい環境の中ですごくバチバチし合いました」と充実の表情を浮かべる。

「若い選手たちがすごく頑張っていて、チーム内の競争が激しくなった印象です。チーム力を高めるうえでは必要なこと。自分は試合で先発させてもらっていますが、頑張らなければと思えます。ポジション争いが激しくて、毎試合、誰が出て、どういう展開になるのか、楽しみですね」

 今季からボランチに挑戦。これまでのサイドハーフやサイドバックとは役割が変わり、広い視野を持った攻守の基点として試合をコントロールする。対人プレーでは競り負けない強さが求められるが、前期で「ある程度はボランチとしての役目を掴めた」と成長著しい。

「自分の中で慣れ始め、プレーの幅が広がったと思います。また、ボランチではないポジションで出場することになっても、ボランチの経験は絶対に生きてくる。これまでとは違うプレーや、前期以上にゴールを意識したプレーを増やしていきたいので、ぜひ見ていただけたら嬉しいですね」

 最後に昨季を超える決意を聞かれると、真っ直ぐな視線を投げかけながら、静かに、そして力強く頷いた。

「超えます」

 自分のために、女子サッカーのために、挑戦し続ける姿は美しい。

[プロフィール]
塩越柚歩(しおこし・ゆずほ)/1997年11月1日生まれ、埼玉県出身。川越女子ジュニアSC-浦和レッズレディースジュニアユース-浦和レッズレディースユース-浦和レッズレディース-三菱重工浦和レッズレディース。小学6年生で浦和レッズレディースジュニアユースに加入し、2016年にトップチーム昇格。同年にU-20女子ワールドカップに出場し、3位となった。スピードと高いテクニックを誇り、2021年に東京五輪に出場。今季からはボランチに挑戦し、リーグ優勝を狙う。

(佐藤直子/Naoko Sato)



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