三笘薫、縦突破阻止への対策法は? メッシら名手が得意とする“カニ・ドリブル”が進化の鍵
【識者コラム】PA内で相手を「かわす」横方向へのドリブルが効果的、メッシやネイマールも得意
日本代表MF三笘薫(ブライトン)がプレミアリーグを席巻している。左サイドを縦にぶっちぎるドリブルが驚異的だが、三笘の凄さはそこからさらにゴールポスト近くまで食い込んでいけるところだ。そこまで入られると相手守備陣はパニックになる。1人で決定機を量産できるドリブラーは世界でもそうそういるものではなく、三笘の価値は高騰し続けそうだ。
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三笘のような縦に速い突破はいかにもドリブラーらしいのだが、横方向へのドリブルも実は大きな価値がある。
横へ横へと流れていくドリブルは「カニ」と揶揄されたりするが、これをペナルティーエリア(PA)内でやられるとやはり守備陣はパニックになる。横ドリブルにはそれほどスピードは必要ない。ボールタッチやステップワークの素早さは必須だが、ドリブルの速度自体はむしろ遅い。
パリ・サンジェルマン(PSG)のアルゼンチン代表FWリオネル・メッシやブラジル代表FWネイマールはスピードもあるが、斜行していくときのドリブルはそれほど速くない。速度を上げすぎるとシュートやラストパスのチャンスを逃してしまうはずだ。
メッシが右から中央へ向かっていくとき、ボールはピタリと足下にあり、DFはいつシュートするのかわからないので足を出すと、メッシはそのまま通過してしまう。2人、3人と次々にかわされていくシーンをよく見る。メッシはとくにフェイントをかけるでもなく、一瞬止まりかけてシュートの雰囲気を出すだけでDFがバタバタと倒れていく様は、ほとんど怪奇現象である。
若手で片鱗を見せているムシアラはその好例
若手で横ドリブルが上手いのが20歳のジャマル・ムシアラ。ドイツ1部バイエルン・ミュンヘンの主力で同国代表としてカタールワールドカップ(W杯)でもプレーした。緒戦で日本守備陣の真っ只中に侵入してシュートへ持ち込むプレーを覚えているファンも多いだろう。
ムシアラは三笘のようにスペースを切り裂くのではなく、密集に入っていくドリブラーだ。「抜く」というより「かわす」。相手の重心を見て、素早くステップを踏みながら自分の正面からずらしていく。PAの中でこれができるのがムシアラの強みだ。
かわされてしまえば即シュートを打たれかねないので、カバーのDFは慌ててシュートブロックに来るが、それでまたかわされてしまう。DFの足が届かない、ぎりぎりのところにボールを動かせるタッチの繊細さ、懐の深さ、軽やかな身のこなしを持っている。
横ドリブルの名手はスーパースターへの近道を行ける。このプレースタイルはゴールやアシストに直結しやすいからだ。目に見える結果を出しやすい。
三笘の縦にぶっちぎるドリブルの脅威はすでに知れ渡り、対策もさまざま取られるようになった。ただ、三笘は中へ入っていくドリブルも複数の相手を引きつけてのパスも上手い。対策を逆手にとって横ドリブルで新境地を拓くと、さらに手の付けられない選手に成長するのではないか。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。