薄れつつある川崎の“絶対王者感” リーグを牽引する真のビッグクラブになれるか

川崎にとって今季は正念場のシーズンに?【写真:徳原隆元】
川崎にとって今季は正念場のシーズンに?【写真:徳原隆元】

湘南に1-1ドローで鬼木監督も反省の弁

 川崎フロンターレが3月4日に行われたJ1リーグ第3節の湘南ベルマーレ戦で、終了9分前に対戦相手から新加入の瀬川祐輔の同点ゴールにより、辛くも引き分けに持ち込んだ。

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 むしろ引き分けたことに、より悔しさを滲ませたのは湘南の山口智監督のほうで、「90分間を通すといい試合をしていたのでもったいない」と語っている。

「前半の立ち上がりから、選手たちがやるべきことを理解し、ボールを奪いに行く、相手の良さを消すことを徹底してくれた。相手は川崎なので、僕らの陣地でやらせたら大変なことになる。耐えるべきところは耐えて、どういう時にゾーンを押し返すか。みんな共有してやってくれたのに、僕に迷いがあって勝ちにつなげられなかった」

 序盤からフルパワーで前がかりに出た湘南は前半こそスコアレスで終えたが、後半16分に右から永木亮太が崩し切り、フリーの平岡大陽の先制ゴールを導く。土壇場で勝利は逸したものの、枠内も含めたシュート数ともに川崎を上回る内容を見せた。

 一方の川崎は、依然として湘南スタイルへの明白な対応策を見出せなかった。3連覇を目指した昨年の川崎は、湘南にまさかの連敗。終わってみれば優勝した横浜F・マリノスとは勝ち点2差だったから、こうして天敵を作ってしまったのが致命傷になったという見方もできる。特に前半戦は、ホームに湘南を迎えて0-4の大敗。奇しくもこの日のホームゲームも、ボール支配率が54%で、シュート数で劣勢に回ったことも合わせて酷似していた。

 試合を終えたあとの鬼木達監督からは、反省の弁が口を突く。

「スタートから、もっと勇気を持って戦うことを押し出せるように、そういうものを創り出して送り出せれば良かった」

主力の相次ぐ流出で崩壊の危機を迎えても不思議はなし

 実際序盤は湘南に主導権を握られ、マルシーニョのスピードを生かしたカウンターに活路を求めたものの、なかなか攻撃の厚みを作れなかった。さすがに鬼木監督も珍しく後半開始から信頼の厚い脇坂泰斗を代える決断を下し、「中でもっとタメを作るために」家長昭博をトップ下に配した。だが後半10分過ぎには、ジェジエウが故障で退場。急遽左サイドバック(SB)の佐々木旭をセンターに回し、ユースから昇格したばかりの松長根悠仁をデビューさせることになった。ただし、それでも終盤に同点ゴールを生み出した勝負強さは、勝者のメンタリティーの証とも見て取れる。

 思えば川崎の黄金期は、歴代のどの王者と比べても見劣りしないほどの強さを誇示した。

 だが、2020年にはチームの象徴だった中村憲剛が引退し、守田英正がポルトガルへ移籍。連覇を達成した翌年途中にも、三笘薫と田中碧が去り、その後も旗手玲央、さらにカタール・ワールドカップ(W杯)後には谷口彰悟が移籍した。これだけ錚々たるメンバーを送り出し、さらにレアンドロ・ダミアン、ジェジエウ、大島僚太らが離脱を繰り返す状態だから、本来なら崩壊の危機を迎えても不思議はなかった。

 しかし、開幕の横浜FM戦は明らかに運に見放されて1-2で敗れたが、逆にポゼッションでもチャンスの数でも前年王者を凌駕し、タイトル奪回への手応えさえ感じさせた。たしかにリーグ全体にインテンシティーや球際を強調する流れが浸透し、湘南が範を示したことで各クラブの川崎への劣等感も薄れつつあるのかもしれない。だがとりわけDF陣を中心にアクシデントが続き、いくつかの誤算が重なっても脱落せずに踏み止まるしぶとさは、クラブの伝統として継承されつつある。

 川崎は本当にリーグを牽引するビッグクラブへと変貌していくのか。今年は重要な正念場となりそうである。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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