デンマーク出身のユンカー、日本と欧州のファンの違いを激白 「素晴らしい態度」と称えたのは?
【独占インタビュー】日本と欧州では「勝つことの意味が違う」と一長一短を説明
「FOOTBALL ZONE」ではJリーグ開幕特集を組み、今シーズン、名古屋グランパスに浦和レッズから期限付き移籍したデンマーク人FWキャスパー・ユンカーを直撃。これまでデンマーク、ノルウェー、日本の3か国でプレーした経験を持つユンカーが、欧州との違いについて語ったうえで、技術を磨く以上に、「人よりも貪欲にわがままに行動できるのがサッカーでは大切なこと」とさらなる高みへのキーポイントを挙げた。(取材・文=轡田哲朗)
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ユンカーは2021年春の登録ウインドー最終日にノルウェー1部ボデ・グリムトから浦和に移籍。左利きのストライカーは前線で存在感を放ち、公式戦32試合で16ゴールと得点力を発揮した。昨季は負傷がちで苦しいシーズンにもなったが、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)では準決勝の全北現代(韓国)戦で1点ビハインドの延長戦終了間際に起死回生の同点ゴールを奪う勝負強さを見せつけた。
2シーズンをプレーしたJリーグについて、ユンカーは「ノルウェーやデンマークとの大きな違いは、非常に競争力が高いレベルが均衡したリーグだということだろう。ノルウェーやデンマークはトップ3くらいは常に決まっていて、その数チームが優勝を争うようなリーグだけど、日本はどこが上位に来るか開幕前には全く分からない。去年はサンフレッチェ広島(3位)やセレッソ大阪(5位)があの順位まで来るのは多くの人が予想していなかったかもしれない。しかし、実際に起きたのは彼らがいいサッカーをしてああいう成績を残したということ。小さなディテールが結果の多くを変えるという点では、非常に競ったリーグだと思う」と印象を語る。
そのうえで、「日本のファンは素晴らしいと思う。というのも、負けたとしても欧州のファンのような酷いブーイングや汚いヤジ、全くないわけではないけど、多くの場合は負けても応援してサポートしてくれるという実感もある。それがすべてではないけど、試合の結果がどうであれサポートしてくれるというのは、欧州のファンとは違う素晴らしい態度だと思う」と話すユンカーだが、欧州のレベルに追いつくためには厳しいプレッシャーに晒されるのが必要という意見もある。それを伝えると「その意見には賛同できる」としたうえで、欧州と日本の違いや今後のレベル向上に必要だと考えていることについて熱弁を振るった。
「欧州でプレーしてきたけど、勝つことの意味が大きく違う。日本では負けたとしても応援してくれると言ったが、欧州ではそんなことはなく、自分がミスをしたり負けたりしたら酷いことも言われる。逆に、それが勝つことの価値を教えてくれると思う。特に若い選手は、試合に勝つことやいいプレーをすることがどれだけ自分のキャリアに大きな意味があるのかを知るのがとても大切だ。そうした文化や習慣は、欧州のサッカーがあれだけ強い証拠になるだろう。もし日本のサッカー、日本の選手のレベルを今より上げたいのなら、そういうことはより必要だと思う。選手もそういったハイプレッシャーの中でサッカーをするのが大切ではないか」
日本人選手に求められるのは「突出したものを持っているか」
ユンカーは「日本人選手、Jリーグ全体としても技術のレベルは決して低くないし、純粋な技術だけ見れば欧州とは引けを取らない」という前提に、「何が違うかと言えばスタイルだ」と、ここ6シーズンでリーグ優勝を分け合う横浜F・マリノスと川崎フロンターレを例に挙げた。
「彼らはとてもアグレッシブで攻撃的で、その結果としてこの2チームからここ数年、多くの選手が欧州に行っていると思う。欧州のチームは前に仕掛けることや相手の背後を突いていく選手を探し、魅力を感じている。いくら上手くてもバックパスをしているだけの選手は、欧州から見ると決して魅力のある選手には捉えられない。技術のレベルを上げることより、サッカーをよりアグレッシブで攻撃的にするのが日本のサッカーにとって大事だと思う。それは時間のかかることだと思うけど、そういった視点が日本サッカーのレベルの底上げ、向上には必要になると思う」
さらに、ユンカーは日本人選手のメンタリティーについて「欧州の人からも、日本人が非常に規律を守って人間性もしっかりしているというのは知られている」としたうえで、「どれだけ特徴がある選手であるかが求められていること。例えば、自分たちのユースの選手と比べてあまり変わらないなら、わざわざ日本人選手を取る必要がない。突出したものを持っているかが日本人に今は求められている。日本人には同調意識が強いと思うけど、人と違ったことができる、人よりも貪欲にわがままに行動できるのがサッカーでは大切なことなんだ」と、欧州移籍を目指す選手が多いなかで必要な要素を挙げた。
ユンカーは昨年の浦和所属時にも「FOOTBALL ZONE」のインタビューで「自分の感情を抑えてサッカーをしなくてはいけない部分が日本では大きい」と話していた。そうした部分の開放こそが、日本サッカーが次の扉を開くのに必要な要素になるのかもしれない。
※第3回に続く
[プロフィール]
キャスパー・ユンカー/1994年3月5日生まれ、デンマーク出身。ラナース―FCフレゼリシア―ラナース―オーフスGF―ACホーセンス(すべてデンマーク)―スターベクIF(ノルウェー)―ACホーセンス(デンマーク)―FKボデ/グリムト(ノルウェー)―浦和―名古屋。J1通算42試合16得点。周りの選手と連係しながらボックス内へ侵入し、ゴールを量産する左利きの長身ストライカー。献身的な前線からの守備も対戦相手にとっては脅威となる。うどんやラーメンを愛し、オフの日には有名スポットにも出没するなど、日本の地に溶け込んでいる。
(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)