三笘薫、プレミアの舞台で主戦場を「庭」にした凄み 「1対1に強い」だけではないドリブラーの特殊能力
【識者コラム】W杯明けのプレミア2試合で存在感を示した日本人ドリブラー
ワールドカップ(W杯)による中断を終えるや、早々にプレミアリーグが再開している。ボクシング・デーに第17節、正月に第18節と休みなしだ。
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ボクシング・デーはクリスマスの翌日に行われていて、教会が貧しい人々に箱に入れたプレゼントを渡す、あるいは主人が使用人にプレゼントを渡して休暇を与える風習である。労働者階級のスポーツだったサッカーもボクシング・デーは娯楽の提供を止めないということで試合が開催されてきた。
正月のほうはクリスマスを盛大に祝うこともあって、ヨーロッパでは比較的あっさりしたものだが、プレミアはとにかく日程が立て込んでいるのでやはり、リーグはノンストップである。
このW杯明けの2試合で三笘薫(ブライトン)が存在感を示していた。特に首位アーセナルと対戦した第18節は後半に1ゴール、さらに際どいオフサイド判定で取り消された後半43分の幻の2点目もあった。
結果は4-2でアーセナルが勝利したが、内容的にはブライトンが互角以上のプレーを見せていて、三笘の2点目が決まっていれば1点差だったから、結 果もどうなっていたか分からない流れではあった。
左サイドでボールを持った時のドリブル突破はカタールW杯でも示したとおりだが、アーセナル戦ではフィニッシュの冷静さも際立っていた。プレミアの舞台でも左サイドを自分の「庭」にしている。
1対1の突破力が目立つけれども、三笘の素晴らしさは相手の選手2人を手玉に取れるところだと思う。
さすがに相手もよく分かっていて、三笘が左で仕掛けられる体勢になると対峙する1人のうしろにカバーするディフェンス(DF)も必ず付けてくる。その時に、三笘は対面のDFだけでなくカバーのDFの位置も計算に入れてプレーしている。
2人を抜く場合でも、1対1を2回やるのではなく、1人目を抜いた時には2人目をどう外すかもセットにしている。1人を縦に抜いたあと、2人目もそのまま外すか切り返すのか、すでに最初の立ち位置で判断しているのだろう。
2人目の位置が深ければ縦には行かずにカットインを狙う。あるいは突破が難しければシンプルに味方に預けて違う展開へ持っていく。2人を視野に収めて判断しているのでボールを失うことがほとんどなく、2人の間を通すパスで2人とも置き去りにしてしまうこともできるし、2人を固めて「ゲート」の外側を使っていくこともする。
つまり、三笘は単に1対1に強いドリブラーではなく複数のDFを操る能力がある。元々そうだったのだが、相手のマークが厳しくなるにつれてその能力が顕在化してきた感がある。日本代表にとって、「戦術・三笘」はより深い意味を持つようになるはずだ。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。