【W杯】“最適解”を見つけた手堅いフランス 堅守に反則級の存在…非常に負けにくいチームに
【識者コラム】カタールW杯でグループリーグ突破一番乗り
カタール・ワールドカップ(W杯)でフランス代表がグループリーグ突破一番乗りを果たした。オーストラリア代表、デンマーク代表に連勝。前回大会優勝国はイタリア、スペイン、ドイツと3大会連続でグループリーグ敗退だったのだが、フランスはその轍を踏まなかった。
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フランスも1998年に優勝した次の2002年はグループリーグで敗退している。ネーションズリーグでの不振とカリム・ベンゼマの負傷離脱で暗雲も漂っていたが杞憂に終わった。
選手に多様性があり層も厚いフランスは、大会直前まで選手やシステムのテストを繰り返し、本番直前か大会中に一気に組み上げるというのがこれまでの手法で、前回大会もそうだった。最適解を見出せば強いが、見つけられなければ敗退というのがこれまでの傾向としてあった。ところが、今回はわりと早めに決まっている。
2021年に開催されたユーロはダメのほうの典型だった。ベンゼマが加わったことで新たなバランスを探したが最適解が見つからないまま敗退している。しかし、数か月後に行われた前回のUEFAネーションズリーグではベルギー、スペインを破って優勝。ワールドカップでも同じ戦い方を継続している。
簡単にいえば堅守速攻だ。今大会のグループリーグではハイプレスを仕掛けるチームが目立っているが、強豪同士でハイプレスは効かない。ネーションズリーグ決勝で対戦したスペインがそうだった。そこでフランスは撤退守備からのカウンターを狙って成功したという経緯である。
グループリーグ突破を決めたデンマーク戦でも、フランスはハイプレスをほとんど仕掛けていない。苦手なデンマーク対策として、むしろ相手にボールを持たせてしまったほうがいいということもあったかもしれないが、フランスの基本方針としてハイプレスはしないのだろう。
これでいけると踏んでいる背景として、まず守備の固さがある。ブレスネル・キンペンベが負傷離脱してもラファエル・バランとダヨ・ウパメカノがいて、イブラヒマ・コナテ、ウィリアン・サリバも控えている。ジュール・クンデ、テオ・エルナンデスも強度は十分。初優勝の98年から、守備の固さはフランスの強みだ。
堅守に加えて決定的なのは速攻ができること。スペースを突っ走るキリアン・エンバペはW杯でも反則級の存在である。ウスマン・デンベレ、キングスレイ・コマンと速いサイドアタッカーもいる。
守備に自信があるので相手を引き込んでも平気で、奪えば相手のハイプレスを外すパスワークもある。外してしまえば高速カウンターが発動する。おまけに空中戦に強いFWオリビエ・ジルー、マルクス・テュラムも持っている。
今大会を見ても中央突破ができるチームはほとんどない。快足のFWを裏へ走らせるか、サイドからのやや強引なクロスボールが主な得点へのアプローチになっている。フランスも中央を崩せる力は不足しているが、ハイクロスで点を取れるFWがいるのは心強い。
デシャン監督のチームは手堅い。ファンタスティックではないかもしれないが、非常に負けにくいチームに仕上がっている。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。