【検証】森保ジャパンの「4年間」(3)・マネジメント力 ボトムアップ型のチーム構築を一貫、幅広い基軸共有でメンバー固定化回避
【識者コラム】指揮官のマネジメント力に焦点を当て、4年間を検証
森保一監督率いる日本代表の集大成となるカタール・ワールドカップ(W杯)本大会が、刻一刻と迫りつつある。2018年のチーム発足当初こそ国際Aマッチで連勝を重ねたが、W杯アジア最終予選では苦戦を強いられるなど、紆余曲折の道のりだった4年間を振り返るべく、ここでは指揮官のマネジメント力に焦点を当て、改めて森保ジャパンを検証する。
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監督には基本的にトップダウン型とボトムアップ型がいる。トップダウン型はロシアW杯の直前に解任されたバヒド・ハリルホジッチ監督が象徴的だ。森保監督は完全に後者。確固たるプランで選手やスタッフを引っ張るより、周りの意見を常に聞きながら、その時の最適解を模索しつつ、チームに一体感を持たせようとする。
サンフレッチェ広島時代から長年支える横内昭展コーチによると、森保監督が自分の答えを持っている場合でも、まずは選手やコーチに意見を求めてくるという。その結果、どこまで取り入れて、自分の考えを通すかはケース・バイ・ケースのようだが、欧州組が増えて、色んな環境や戦術に触れているなかで、完全なトップダウンだと短期間で1つにまとまりにくい。
そうした意味で森保監督のスタンスは現在の代表チームの構成を考えると、1つの有効な解決方法にも思える。ただ、話し合いを重ねながらチーム作って行く方法は良くも悪くも、メンバーの固定化を生みやすい。その結果として本当なら主力になり得るようなタレントがこぼれてしまうリスクが少なからずあるのだ。
森保ジャパンが固定化されすぎずに来たのは、A代表より前から東京五輪の代表チームとの融合を図ってきたから。つまり“1チーム2カテゴリー”で活動することにより、その時点でA代表ではなかった選手とも基本コンセプトを共有したり、キャラクターを把握できたりしたので、来るべき時に、A代表にすんなり溶け込ませることができた。
もちろんコパ・アメリカで東京五輪世代をメインに構成して、MF柴崎岳やGK川島永嗣など、経験豊富なA代表の選手とミックスさせたり、1年延期された東京五輪でDF吉田麻也、MF遠藤航、DF酒井宏樹というA代表の主力選手をオーバーエイジとして参加させたりすることで、その後の融合をスムーズにした部分もある。
一方で森保ジャパンのスタート時にA代表ではなく、東京五輪世代より上の選手たち、例えばMF鎌田大地やFW古橋亨梧などは代表チームにアジャストするのは難しかったはず。もしかしたら、“森保ファミリー”に組み込めていないタレントもいるかもしれない。本来トップダウン型の監督が決して悪いわけではないし、そもそも100か0かという話でもないのだ。だから、あくまで今回のチームを率いるにあたり、森保監督のマネジメント力が発揮されているのは確かだ。
6月シリーズまでは選手間のコミュニケーションで判断する領域が広く、一部の選手からは疑問の声も聞かれた。しかし、W杯が迫るなかで行われた9月の活動では本番をイメージしながら、森保監督からもかなり踏み込んだ戦術的な指示が出たようで、アメリカ戦では守備の作り方からボールの奪いどころ、ショートカウンターなど攻撃の狙いも明確になったなかで、前向きな成果と課題が出た。
ここから11月初頭のメンバー発表を経て、カタール現地での直前合宿からテストマッチのカナダ戦、そしてW杯に入って行くが、チームの一体感という観点ではこれまで以上に高い日本代表が見られるかもしれない。もちろんチームは生き物なので、ドイツ戦の結果や起用法で、チーム内の空気も変わって行くかもしれないが。
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。