鹿島ヴァイラー監督の更迭はなぜ起きた? 広島スキッベ体制と“共通項”も、「好転のきっかけ」を掴めなかった訳

広島のミヒャエル・スキッベ監督(左)と、鹿島解任となったレネ・ヴァイラー監督【写真:Getty Images】
広島のミヒャエル・スキッベ監督(左)と、鹿島解任となったレネ・ヴァイラー監督【写真:Getty Images】

【識者コラム】鹿島では初のヨーロッパ人監督、ヴァイラー氏の解任劇に焦点

 鹿島アントラーズのレネ・ヴァイラー監督が解任された。一時は首位だったのが第24節では5位まで後退してしまっている。

 鹿島では初のヨーロッパ人監督ということで注目されていた。今季のJ1はサンフレッチェ広島がミヒャエル・スキッベ監督、FC東京はアルベル監督を招聘して、ちょっとしたヨーロッパ人監督ブームだったわけだが、シーズン初めから指揮を執っていな中ではヴァイラー監督が解任第1号となったわけだ。

 ヨーロッパの監督といっても三人三様。ただ、ヴァイラー監督とスキッベ監督はハイプレスと縦に速い攻撃を掲げていた点で共通している。ドイツを中心に流行しているプレースタイルだ。

 スキッベ監督の広島は開幕から躓いていた。ビルドアップの上手いチームとの対戦が続いたこともあり、ハイプレスが空回りしていたのだ。しかし、その後は持ち直して第24節時点では6位。好転のきっかけになったのはボールポゼッションだった。

 後方からしっかりボールをつないで押し込むことで、その後の敵陣でのプレスが効くようになり、奪ったら速く攻め込むこともできるようになった。本来はあまり後方のパスワークに時間をかけたくないはずなのだが、そこである種の妥協をしたことでやりたいプレースタイルを実現できている。

 鹿島の場合は、プレースタイルを実現するためのカギが見つからないままだった気がする。もともと球際に強く、シンプルな攻め込みにも迫力があり、新監督の戦術的な指向性は相性が良さそうだった。ところが、飛躍的に好転するきっかけは遂に掴めないままヴァイラー監督解任となっている。特に夏場で気温と湿度が上がってくると、強度を重視したプレースタイルは厳しいものがある。ヨーロッパで70~80分ぐらいまで維持できる強度が、Jリーグだと15分ぐらいしかもたない。体力差もあるかもしれないが、気候の問題が大きいのではないかと思う。

 鹿島の失速はシーズン途中でトップスコアラーの上田綺世(→サークル・ブルージュ)が移籍してしまったのが最も大きな要因だろう。ただ、ヴァイラー監督が期待ほどではなく、戦術的な修正力も十分でないので、これ以上指揮を執らせてもチーム力は上向かないと判断したようだ。

 ヨーロッパの監督といっても当然さまざまなのだが、「この結果を出せ」というタイプが比較的多いかもしれない。日本人の監督だと、「こういうプレーをしてくれ」と、結構具体的な要求がある。上手くいかなければ改善案も出してくる。どちらが良いかは一概には言えない。ただ、「この結果を出せ」のタイプだと、例えばハイプレスと縦に速い攻撃という目標は掲げても、それを実現するのは選手だという考え方になる。設計図は作るけれども大工仕事まではやらないのだ。

 もちろんヨーロッパ人にもいろいろな監督がいるので一括りにはできないのだが、どういうタイプの監督なのかを把握していないと、いざやってみてから「思っていたのと違う」ということはよく起こる。障壁は気候の違いだけでなく文化の違いもあるわけだ。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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