EL優勝の陰に長谷部誠…絶大な影響力と“唯一無二”の安定感 偉業は「この男なくしてなかった」と言っても過言ではない
【ドイツ発コラム】失点&味方負傷の直後に投入された長谷部誠が決勝の舞台で存在感
UEFAヨーロッパリーグ(EL)決勝、フランクフルト対レンジャーズとの一戦で大きなターニングポイントとなったのは、後半12分のシーンだろう。フランクフルト陣内に送られたロングボールをMFジブリル・ソウがヘディングでクリアミス。CBのトゥータがすぐに反転して対応しようとするが、バランスを崩し転倒してしまう。フリーで抜け出したレンジャーズFWジョー・アリボにそのままゴールを許してしまった。それまで優勢に試合を進めながらの手痛いミスからの失点に加え、このプレーでトゥータが負傷交代。動揺がチームを襲ってもおかしくはない。
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だがフランクフルトにはこの男がいた。後半13分、トゥータに代わって途中出場した元日本代表MF長谷部誠だ。1点を取って勢いを増すレンジャーズに対して、長谷部がチームに確かな落ち着きと安定をもたらす。的確なポジショニングと鋭い出足で相手の攻撃を跳ね返し、攻撃時には正確でタイミングのいいパスとドリブルを駆使し、ゲームをコントロールしていく。フランクフルトにとって、この時間帯を乗り切ったことは非常に大きい。
「ハセベがアイントラハトのゲームを良くすることができるのには、きっと誰も驚かないだろう。だが、彼が入ったことで急にロングボールに対してより良く対処できるようになり、それまで以上にセカンドボールが勝てるようになったというのはもう普通ではないことだ。時にフィジカル要素以上にタイミングの方が重要なのだ」
戦術理解に長けた記事を書くドイツ人記者のトビアス・エッシャー氏がツイッターで絶賛していたが、その言葉どおり、長谷部はハイボールに対して不利になるどころか、制空権さえも制してしまう。足元へのくさびのパスも鋭い出足で前に出てカットしていく。
また長谷部の素晴らしさは、そうしたクリアやカットボールを高い確率で仲間につなげることができる点だ。ボールにアプローチする前にどのあたりにクリアすれば味方につながるという認知が済んでいるので、ルーズなボールになりにくい。
身体の向きとは違う方向へパスを出すのも上手い。センターから右サイドへ体を向けながら腰下の動きで左サイドのスペースで待つ味方へズバッとパスをつける。特にスペースへ流れるタイミングのいい日本代表MF鎌田大地は、パスの受け手としてこの日も優れた動きを見せていた。
EL決勝というピッチに立った選手の多くが、少なからずの緊張感でナーバスになり普段どおりのプレーができないなか、途中交代選手として極めて過酷な状況で出場となりながら、焦りも不安も戸惑いも何も感じさせないというのは尋常じゃない。そのどっしりと構えた立ち振る舞いに相手選手が恐れおののくくらいのオーラが出ていたのではないだろうか。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。