「ポジショナルプレー」を教えていいの? 日本の育成年代で指導者が躊躇する理由

バルサやアヤックスでは「サッカーとは、こうプレーするもの」と決まっている

 そもそも、そんなにポジショナルプレーが良いことなら、どこも育成からトップまで一貫しているはずだが、そういうチームはヨーロッパでもそんなに多くはない。一貫性で有名なチームと言えばバルセロナ、その源流であるアヤックス。ポジショナルプレーの代表であり一貫性の成功例としてよく引き合いに出されるけれども、他にはあまり聞いたことがない。やっているけど、成果がイマイチなのかもしれない。

 では、そもそもバルセロナはなぜ育成からトップまで同じスタイルなのか。

 ものすごく大雑把に言えば、「それがサッカーだから」だと思う。違うサッカー、違うスタイルもあるのは知っているけど、自分たちのが一番いいと思っているからやっているわけだ。プレー原則というのは、「こうなったら、だいたいこうだよね」というプレーの仕方を言っているから、「サッカーとは、こうプレーするもの」と彼らの中では決まっている。それは大人だろうと育成年代だろうと、サッカーをやっている以上同じ。もちろん技術や体力の違いで全く同じようにはできないにしても、サッカーに子供用と大人用があるわけではない。他のチームがバルサと同じでないのは知っているが、バルサの中の人にとってサッカーは一つしかないのだと思う。

 もしかしたら、バルサのカンテラを出て他のチームでプロになり、適応が難しかったとしても、それについては自分たちの責任とはたぶん考えていない。極端に言えば、ちゃんとサッカーをやっていないチームが悪い。

 ポジショナルプレーを育成年代で教えるのは、果たして良いことなのか――。この問いへの回答はおそらくこうなる。

「じゃあ、サッカー教えなくていいの?」

 このつれない回答が良いかどうかはともかくとして。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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