「ポジショナルプレー」を教えていいの? 日本の育成年代で指導者が躊躇する理由
【識者コラム】日本でもかなり浸透した考え方と、育成指導者が抱く不安
「ポジショナルプレー」を育成年代で教えるのは、果たして良いことなのか。育成担当のコーチから、そんな声も上がっているそうだ。
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ポジショナルプレーは、もともとチェスの用語らしい。サッカーではポジショニングで攻守に優位性を出そうという考え方で、フィールドの見方として「5レーン」を採り入れている。フィールドを縦方向に5つのレーンに区切り、バランスの良い配置を試みる。このレーン幅は若干都合良く伸び縮みするので、そこを明確にしたくて「7レーン」にするケースもあるようだ。Jリーグでもよく見るビルドアップの形状変化も、ポジショナルプレーの一部である。
ただ、一定の形状変化はパターンだが、ポジショナルプレーは定型のパターンではなくプレー原則を重視していると言われている。欧州選手権(EURO)で優勝したイタリア代表もポジショナルプレーを採用していてプレー原則を重視しているらしいが、見た目は「パターンじゃね?」という印象しかない。まあ、それは置いておこう。
5レーンについては戦術板に予め線が引かれているものもあるぐらいで、日本でもかなり浸透したと言える状況だと思う。ヨーロッパのチームの多くがポジショナルプレーを採用、または取り組んでいるなか、日本の育成指導者が躊躇する理由をむしろ知りたいぐらいなのだが、要は「それ用」の選手しか育たないのではないかという不安があるらしい。
選手がプロになった時、そのチームがポジショナルプレーとはほど遠いプレースタイルだったとすると、上手く適応できないのではないかというわけだ。確かに現状だとありそうなことに思える。
もう一つは、スペインに代表されるポジショナルプレーが必ずしも有効とは限らないという、一つ先を見た意見もある。これも事実そうだろうと思う。日本の育成をスペイン化してしまえば、たぶん追いつくのにそんなに時間はかからないだろう。所詮はロジック、理屈にすぎないからだ。慣れてしまえば使いこなせる。スマホだって最初は「なにこれ?」だったわけだ。しかし、多機能ガラケーがスマホに駆逐されたように、スペイン方式が時代に乗り遅れる可能性はある。ポジショナルプレーがガラケーとは思わないが、一生懸命真似をしたけど無駄でしたという結果もないとは言えない。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。