チームの“原則”があるからこそ生まれる「流動性」 難解なアーセナルのサッカーが面白い
アルテタ監督が率いるアーセナル、シェフィールド戦で見せた流動的なスタイル
クリストファー・ノーラン監督による話題の映画『TENET テネット』。かなり難解と聞いたので先に解説動画を見てみたら、かえって腰が引けてまだ観に行っていない。
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“TENET”はどちらから読んでも同じ、つまり回文になっている。作品中に時間を逆行させる装置なるものが出てくるので、それとの関連なのだろう。ストーリーが複雑なうえ、時間の順行と逆行が同時進行するシーンがあって、すんなりとは理解できなかった。実際に観てみれば、また違うのかもしれないが……。
ミケル・アルテタ監督率いるアーセナルは、ちょっと“TENET風味”である。
プレミアリーグ第4節のシェフィールド・ユナイテッド戦(2-1)を見たら、しばらく理解に苦しんだ。選手のポジションが分からない、システムも分からない、なんでそうなっているのかも分からない。前半の途中まで「うーん」という感じだった。
仮説を立てた。「たぶん、こういうことなのか?」と思って見始めたら、ようやくスッキリした。サッカーはシンプルなスポーツだ。複雑に見えても必ずなんらかの法則性はある。むしろ複雑に見えるものほど、シンプルな原則に基づいているものである。
攻撃の原則は外側の2レーンを3人で使うこと。フィールドを縦に5等分した時の、一番外と1つ内側の2つのレーンを使う。人数は3人。つまりサイドにトライアングルを作る。三角形の底辺が外のレーンにあるのと、1つ内側のハーフスペースにあるのとの2種類。選手の動き方によって三角形は変化し続けるが、種類は2つしかない。
この原則に合っていれば、誰がどこにいてもいい。守備は攻撃時のトライアングルのまま、その時にいたレーンを守る。自陣に引き切った時は別の原則があるが、原則に従っていれば、誰がどこにいてもいいというのは同じ。
例えば、額面上3-4-3になっているシステムでダニ・セバージョスとコンビを組むはずのボランチ、モハメド・エルネニーは最初右サイドバック(SB)の位置にいた。しかし、時にはボランチの位置にもいる。右サイドハーフのエクトル・ベジェリンはハーフスペースにいることも、外に開いていることもあった。ポジションが固定的だったのはDFのダビド・ルイスとガブリエウぐらいで、あとはかなり流動的だった。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。