女性で外国人…辞書片手にライセンス講習 Jリーグ佐伯理事の“壮絶”な指導者キャリア

佐伯理事は女子アトレティコ・マドリードなどで指揮を執った【写真:ⓒJ.LEAGUE】
佐伯理事は女子アトレティコ・マドリードなどで指揮を執った【写真:ⓒJ.LEAGUE】

日本人および女性として初めてスペインでS級相当ライセンスを取得 「優秀な指導者って…」

 指導者としては「全カテゴリーを見たいと思った」といい、初年度は小学6年生のチームを指導。そこから階段を上がるように中1、中2、中3と毎年着実にステップアップしていった。ユースを指導した後はスペイン3部の助監督として声がかかった。日本人および女性として、初めてS級相当ライセンスまで取得した佐伯理事は成人男子の指導にもあたった。その時、監督が解任となり内部昇格が決定。同リーグで指揮官を務めた時に、気付いたことがあった。

「3部までいって指揮を執った時、『次はなんだろう?』と思った。もちろん上のカテゴリーはあるけど、現実問題としてそこに乗っかっていない。2部や1部の監督になれる可能性はゼロに近い。それまでは、より良い指導者は『上のカテゴリーで指導する指導者』だと自分の中で勘違いがあったけど、私の中にある頂点を極めた時に、『優秀な指導者ってなんだろう?』という問いが生まれてきた。これは、自分の中で良い気付きだった。そこから違うと思えて。与えてもらっているカテゴリーで、指導者のバリューが変わるわけがない。指導者のおごりみたいなものが少し整理された。そのあとアトレティコという大きなクラブから、レディースU-21監督オファーをいただいた。これまで女子には偏見があって、男子にこだわっていたから断っていた。でも、ふと自分の中の問いを違う角度から考えていた時に、アトレティコという大きなクラブから声をかけてもらって、チャンスだなと思った」

 レディースでの指導の日々は刺激的だった。アスリートとしてスピリットを持ち、フットボールに向き合っている女子選手を指導することはやりがいがあった。アトレティコでは3年、現場と育成副部長も務めた。バレンシアでは強化部に所属。そしてビジャレアルでは直近12年働いていた。今となってはフロントとして期待されることが増えたが、自身のことは「指導者」だと感じているという。

「指導者のキャリアアップだけを見つめて進んできた。指導者の道を歩み始めたのがスクールでも最年少で、指導歴だけは長い。ここ10年ぐらいはアカデミーダイレクターや強化、育成統括者とかポジションを周りから与えられて、指導の現場から離れていく。ただ、みんなからなんと言われても、自分は指導者という生き物だという感覚は今でもある。何者か聞かれたら指導者だなと思う」

 明るく自身のキャリアを振り返る佐伯理事だが、“第一人者”として道を切り拓く努力は想像を絶する。19歳で歩んだ指導者の道。今はサッカーを愛する子供たちの、そして女性の希望として先頭に立っている。幼い頃から変わらないその行動力で、日本サッカーにも大きな力を与えてくれるはずだ。

(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)



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