バイエルン“三冠”監督とは何者か 初の独1部采配で名門を蘇生、卓越した人心掌握術

バイエルン“三冠”を達成した昨季途中就任のフリック監督【写真:Getty Images】
バイエルン“三冠”を達成した昨季途中就任のフリック監督【写真:Getty Images】

【ドイツ発コラム】昨季途中就任のフリック監督、バイエルンのDNAを呼び覚まし頂点へ

 2019-20シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)は、バイエルン・ミュンヘンが史上初となる全戦全勝で見事に優勝を果たした。

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 新型コロナウイルスの影響で、各国リーグ戦のレギュレーションがバラバラだったこともあり、コンディション調整や大会方式の変化など様々な面で難しさがあった大会だったことは否めない。普段通りに開催されていたら、また違った結果になったのかもしれない。

 そうだとしても、この大会に向けてバイエルンが見せた周到な準備が素晴らしかったのは事実ある。そして、そんなバイエルンにおいて一番重要なキーファクターは、ハンス=ディーター・フリック監督の就任にあるのではないだろうか。

 前監督のニコ・コバチは「100㎞しか出せない車が高速道路で200㎞出せるはずもない」と発言して、主力組から反感を買ったことがあったが、あの頃は100㎞しか出せないのではなく、出せないようにハンドブレーキをかけられていたという見方のほうが合っているかもしれない。コバチにはコバチの哲学があった。ただ、バイエルンというクラブでやるには噛み合わなかった。

 フリックは、そのあたりを見事にほぐしていった。バイエルンらしいサッカーをするために、はっきりとしたゲームプランを打ち立てる。引いて守るのではなく、自分たちから動き、ボールを奪い、相手を凌駕する。それこそが、主力選手が渇望し続けたダイナミックサッカーだった。選手の声に耳を傾ける一方で、厳しく責任感ももたせ、チーム内の緊張感と集中力を操舵。解放感が半端ない。バイエルンのDNAがどんどん活性化されていく。

 正直ここまでの変化は、誰も予想だにしていなかったことだろう。プロ監督としてのデビューシーズンであり、フランク・リベリー(フィオレンティーナ)、アリエン・ロッベン(フローニンゲン)という世紀のトップスターがクラブを離れた後の世代交代の狭間で、さらに昨季前半戦、近年なかったほどに調子を落としていた状態でチームを引き継いだのだから。リーグかカップ戦で優勝、来季CL出場権、CLベスト8進出でも当時置かれていた状況から考えたら、上々と思えるほどの戦績だったはずだ。

 フリックとはどんな指導者なのだろうか。

 2000年から07年までドイツサッカー協会でプロコーチライセンスインストラクターチーフだったエリック・ルーテンメラーが、フリックについて語っていた記事があった。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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