CL王者リバプールの“皮肉な敗戦” 進化を求めた挑戦が裏目、“相性の悪さ”超えられず
【識者コラム】アトレティコに敗れCL連覇逃す、相性の悪い相手を破るための策が仇に…
リバプールが敗れた。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16でアトレティコ・マドリードに2戦合計2-4となり、連覇の夢が潰えた。
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最近のリバプールは不調に陥っていた。速い攻め込みとハイプレスによる敵陣でのボール奪回、波状攻撃がリバプールらしいリズムなのだが、主力が欠けるとプレスの強度が落ちてセカンドボールを拾えなくなっていた。ただ、アトレティコに敗れたのは不調のせいではないと思う。
ホームでの第2戦、リバプールは特に不調ではなかった。メンバーはGKアリソン以外は揃っていたし、延長前半途中までは2-0とリードしていた。最後は2-3と逆転負けだったものの、攻勢を続けていた。アトレティコのGKヤン・オブラクの美技連発がなければ、どうなっていたか分からない試合である。
ただ、アトレティコとの相性は良くなかったかもしれない。
引いて守備を固めるアトレティコが相手では、大きなスペースがない。スペースにモハメド・サラー、サディオ・マネを走らせ、奪われてもハイプレスを仕掛けていくのがリバプールの戦い方のベースにあるわけで、そのスペースが消されているから攻めにくいのだ。これはリバプール、というよりユルゲン・クロップ監督がドルトムントを率いていた頃からの傾向としてあった。
相手が引いているなら、いわば「擬似ポゼッション」で手前に引っ張り出す。今季はそれで取りこぼしがなくなっていたのだが、アトレティコは容易に釣り出されなかった。
延長前半7分の失点は、GKアドリアンのミスパスから。アウェーゴールを献上して2-1となり、2戦合計スコアは2-2。その後カウンターから2失点している。2-0のままなら勝ち抜けだったのだから、リバプールにとっては痛恨の1点だった。
GKがアリソンだったら、あのミスはなかったかもしれない。しかし、それも含めて自陣でのビルドアップの未熟さが招いたミスだったと言える。以前のリバプールだったら、大きく蹴り返していたはずだ。自陣からのビルドアップを採り入れていたがゆえに起きたミスだ。ポゼッション型のチームなら年に何回かは起こる現象だが、それがリバプールに起きてしまったのは皮肉である。自陣からパスをつなぐことは、彼らは本来重視していないのだ。プレーの幅を広げて、相性の悪い相手にも取りこぼさないために採り入れたことが、仇になってしまった。まさにアトレティコのような相手を想定してのチャレンジが、裏目に出たわけだ。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。