日本リーグ初の黒人選手が死去 半世紀前に来日、人気者のブラジル人が果たした役割

街で黒人と出会うのが衝撃的な時代、サービス精神満点のプレーで人気者に…

 また1970年メキシコ・ワールドカップでは、ペレを中心とするブラジルが南米予選から全勝優勝を飾り、その魅惑のサッカーが初めて日本でもテレビで紹介され、テクニカルなスタイルへの憧憬が広がっていく。

 カルロスについては、かつて吉村が前述の拙著の中で振り返っている。

「コーヒーが飲みたくても近所に喫茶店が一軒しかない時代。横断歩道でカルロスとすれ違ったおばちゃんが腰を抜かし、子供たちは怖がって逃げた。でもそのうち慣れてくると、子供たちが寄って来てカルロスの手をごしごしこすったりするようになった」

 最初は差別されていると怒ったカルロスだが、まだ街で黒人と出会うのが衝撃的な時代で、逆に理解してからはサービス精神満点のプレーでチーム屈指の人気者になった。

 ちょうどこの頃、読売クラブが創設され、藤和不動産には元コリンチャンズのセルジオ越後らが加入し、こうしたブラジル人選手たちのプレーを手本に日本の子供たちもテクニックを磨くようになる。技術優先の日本の萌芽と言ってもいい。

 そういう意味では、先に早逝した吉村とともに、カルロスの果たした役割も貴重だった。(文中敬称略)

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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