名選手ゆえのプレッシャー 福岡をJ1昇格に導いた「アジアの壁」はドーハ組3人目の名将になれるか

昇格プレーオフで井原監督が見せたラスト30分間の冷静沈着なマネジメント

 昨季J2で16位だった福岡をJ1昇格に導いた。6日のJ1昇格プレーオフ決勝で、井原正巳監督率いる福岡はC大阪と1-1で引き分け、J1への切符を勝ち取った。試合後、トップチームの監督1年目の名将の胸の中には充実感と安堵感が同居していた。

 年間リーグ成績で上位だった福岡が引き分けでも昇格を決められるという一戦だった。消極的な戦いにつながりかねない精神的な部分もあり、過去にも上位からコマを進めた多くのチームが下克上の餌食と成ってきた。このゲームでも後半15分に先制点を許す苦しいゲーム展開になった。

「1点取られてからも30分は時間があった。そこで慌てないこと話していた。選手たちも90分間の中で追いつけばいいと思っていてくれていたと思う。ピッチサイドでも慌てなくていいということは伝えていた」

 ベンチは冷静だった。その裏側には「今週の練習で、ビハインドも想定していた」という周到な準備があった。まずはFWウェリントンの1トップだったシステムを2トップに変更し、流れを引き寄せた。そして、FW坂田大輔やFW中原貴之を次々に投入。そして、最終的には交代出場の選手が絡む狙い通りの形でDF中村北斗の決勝ゴールが生まれた。

「まずはトップ下を置く形で流れを引き寄せられた。最後の10分は2トップでいこうという話を前もってしていた。最後は運のようなところもある。あそこで中村にこぼれたのは、みんなの気持ちがあったのかとも思う。練習で準備したことでスタッフも慌てなかったし、選手たちも信じられたのではないか。最後の何分でシステムを変えるかスタッフと話し、最後のところで決断した」

 井原監督はそう話した。一見、FW登録の選手たちをなりふり構わずに投入したかにも見えた采配だったが、システム変更でゲームの流れを引き寄せることと、最終的にリスク覚悟で攻撃の人数を増やすという段階的な采配が、最終的に後半42分に中村が同点ゴールを決める展開を呼び込んだ。失点後の30分間で冷静沈着なマネージメントを披露したことが引き寄せた結果だということができるだろう。

 このゲームに臨むにあたって、井原監督は「今シーズンの集大成というつもりで臨んだ」と振り返る。J2では自動昇格の2位となった磐田と並ぶ勝ち点82を積み重ねての3位だったが、順風満帆なスタートとは言い難かった。実際、今季のリーグ戦は開幕3連敗でスタートしたからだ。

「最下位になったことが、一つのターニングポイントになった。3戦目の札幌戦でで3バックに変え、ある程度の守備の手応えを得ていた。敗戦したが、次から負けなしが11試合続いた。連敗にも悲観することなく、ブレずに続けられた。選手がそれを疑うことなくやり続けてくれたことで変わっていったと思う」

 第4節からの快進撃の下地をそう話した。4バックでスタートした福岡は、井原監督が語ったように3バックに変更したことで守備が安定した。そうして勝ち点を積み上げていったが、他チームのスカウティングが進む時期に入るとその伸びもやや鈍っていく。そして、もう一つのターニングポイントが訪れた。

「8月15日の磐田戦をホームで2-0で勝利したが、システムを4バックにして勝利できた。あの試合が、自分の中ではターニングポイントになっている。4バックを試して、勝ち切ることができて大きな自信になった。磐田戦ということもあり、両方を使える自信になった。その時、昇格できると思った。もちろんそれは誰にも言えないが(笑)、ひそかに頭の中に描けるようになった」

 夏の段階でJ1昇格への手応えを掴んでいたという。リーグ戦のラスト12試合は11勝1分と破竹の快進撃を見せた。自動昇格こそ果たせなかったが、最高の状態でJ1昇格プレーオフに臨むことに成功していた。安定した守備をベースに柔軟性を身に付けたことは、チームにとっても大きな自信になった。

 

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